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犬猫の腎不全
犬猫の腎不全

一番寒いとされるはずの二月ですが、今年は例外らしくすでに花粉が飛散するほど気温が高くなる日が多いですね。

これが温暖化の影響だとすれば、このところすっかり当たり前になりつつある水害の多さも相まって、世界はそのうちウォーターワールドになってしまうのかも、と少し背筋が寒くなります。

私が子供の頃から、地球温暖化問題も少子化問題も核の問題もずっと叫ばれていることですが、叡智を結集しても解決策が導かれないのはとても悲しいことです。

エコなんてもう皆知っている言葉になったのに、対策といいながらそれが結実した実感もなく、この先どうなっていくのか分からないのは、コロナ災禍により停滞する世界全てにいえることですね。

だからこそ今の毎日を どう過ごし、どのように考え行動するのかを今一度考える時期なのだな、と思います。

hr

さて、話題は変わって、今日は慢性腎不全のことをお話ししますね。

皆さんもご存知のとおり、急性と慢性の違いは大まかにいうと治るか治らないか、です。

急性のものは適切な治療で良化することもありますが、慢性のものは治すことはできません。少しの回復と現状維持がぎりぎりです。

急性腎不全の代表的なものは、不凍液やブドウなどによる急性中毒です。

不凍液は有名なので省略しますが、ブドウ中毒は皆さんご存知でしょうか?

原因は生のブドウだけでなく乾燥させたレーズンやブドウジュースなどの加工品も含まれます。ここが案外怖い所ですよね。

生のブドウより、実際は加工品、例えばレーズンパンやレーズンが含まれたケーキやクッキー、チョコレートなどの誤食でいらっしゃる場合が多いです。

症状として食べて数時間後に下痢や嘔吐や乏尿(おしっこが少なくなること)、重症の場合は急性腎不全を引き起こします。

最低2.8g/kgの摂取量で中毒量となる可能性があり、発症すると多くは死亡するか安楽死となります。

主に海外での報告が多く、フィラデルフィアのペンシルベニア大学ではこの中毒に対し、人工透析を専門で行うチームがあるほどでした。海外の犬は大型種が多く、摂食量が多いこともブドウ中毒の発生数が多いことの背景にありそうです。

日本でも3歳のマルチーズが種無しブドウ70gを食べた5時間後から嘔吐と乏尿を訴え、4日後に死亡した症例が報告されているのでこれが一つの基準となるかもしれません。

残念ながら乏尿になったイヌの生存率は24%、無尿になれば12%とされています。

腎不全で有効な人工透析装置を持っている動物病院は国内ではほとんどなく、大学病院でも対応が難しい場合が多いことも念頭に置きましょう。

また糖尿病の合併症として起こる急性腎不全は、基本的に助ける手段がほぼ在りません。

病院によっては診断の時点で安楽死対象になる、治せない方の急性腎不全筆頭でしょう。

hr

慢性腎不全はよく知られていますが、猫に多く発生します。

これは長年使ってきた腎臓に老廃物として特殊なタンパクが蓄積されるためだということが近年分かってきました。このタンパクを除去する特効薬がもうすぐ発売されるので大いに期待しています。

猫の慢性腎不全が不治の病である時代の終わりが来るかもしれません。

ですがいましばらくは今できる精一杯の治療をする必要があります。

腎不全、というのか簡単にいえば腎臓がその働きを全うできなくなることです。

では腎臓の働きとはなんでしょう?

そう、おしっこを作ることですね。

分かりやすくいうと、全身に流れる血液を濾過して老廃物などを取り除き、それらを体の外に尿として出すことです。

老廃物というのは有名な尿素などがありますが、体に残ると毒になるものなので、全く排出できないと丸二日で尿毒症を起こし、多臓器不全となって死にます。

ようするにおしっこが作られなくなってしまうと、たった二日で死ぬことになるのです。

腎臓がどれだけ重要な働きをしているのかよく伝わりますね。

難しくいうと細胞外液の量や成分、中でも電解質といわれるナトリウム、カリウム、クロールなどを一定に保つことです。

電解質というのは血液の中に溶け込んでいる塩類のこと。

体液中に溶けるとプラス、もしくはマイナスの電荷をもつため、マイナスイオン、プラスイオン、といわれます。

この電荷は総量で見るとプラス、マイナス共に等しい総数でなければなりません。

細胞一つ一つに含まれる水分は細胞内液、それ以外の体に在る水分は全て細胞外液です。

この細胞外液の保護がなければ細胞は生きていけず、成分が少しでも乱れると死んでしまいます。

よって細胞外液の電荷が釣り合わなくなるようなことが在れば、アウトということです。

この調整を一手に引き受けているのが腎臓です。

これは全身に配置されているセンサーにより感知され、各種ホルモンが分泌されることで行われます。

ですからそのホルモン調節が狂っても、腎機能は維持されなくなります。

わりと繊細な作業なのです。

繊細で重要な働きをしているので、腎臓にはちゃんと保険がかかっていて、普通左右一対の組織として存在します。ちょうど腰のあたり、背骨を挟んで背側に在る実質臓器です。

いつもはフルに二つとも働くのではなく、半分くらいは休んでいます。

腎臓を一つ摘出しても生きていけるのはそのためです。

さてとても大切な臓器である腎臓ですが、不調を訴えてくれない、という厄介な特性を持っています。

そう、かなり悪くならないと「いま調子悪いです」という症状を表さないのです。

よくいわれる、多飲多尿、脱水、乏尿、無尿は末期的な症状で、この時点でかなり重症なのです。

では血液検査をしていたらみつかるのか?

じつはごく一般的に行う腎機能検査にBUN、クレアチンという血液検査項目があります。

BUNは全身の循環、要するに水分の流れをしめし、クレアチニンは腎機能自体を示します。

ですが、クレアチニンは腎臓全体の75%が壊れないとその数値が上がりません。

そう、上がっていたらもう25%しか腎臓は働けていないんです。末期です。

これじゃいかんということで、もっと早く腎機能のチェックをできる項目として新しく出てきたのが、SDAMです。腎機能が平均40%(早い場合には25%)喪失した時点で上昇してくれるのでクレアチニンより早く見つけられる!というのが特徴です。

高齢であれば他の二つと並んで検査しておきたい項目です。

でも、それでも40%ダメになってるんですよね。

そう、腎臓病は人知れず進み、飼い主さん達が分かるほどの症状が出たら相当悪いのです。

hr

ではどういった治療が在るのでしょうか?

  • 投薬
  • 輸液
  • フード
  • 人工透析
  • 腎移植
  • サプリメント

などの治療が在ります。

この中で現在最も現実的で、効果があるのは輸液です。

脱水し痛んだ体に水分を満たし、尿として老廃物を排出するのを促す、これを状況によって入院しながら複数の輸液剤を用いて行います。

実は水和といわれるこの治療中にも電解質はめまぐるしく変わるため、ミネラル関係の調整を細かく行う必要があったり、体内のPh値が変動しているので、その是正もしなければならなかったりします。

単純に輸液剤を沢山いれればいい訳ではなく、腎臓が担う繊細な調整を代行する必要があるのです。

ですが、高齢の猫ちゃんが入院するストレスは大きなものがあります。また入院に伴うコストは相当なものです。

その子の置かれた状態、状況、飼い主さんの意志によっては、毎日の通院での輸液治療になります。

また毎日の通院が不可能なケースもあります。その場合は自宅での輸液治療をして頂くこともあります。

え?自宅で輸液なんてできるの?と思ったかたも多いと思いますが、皮下補液というやり方で、もちろん指導の上で行って頂いています。

生き物に注射をするのは当たり前ですが非常に抵抗感が大きいもの。

飼い主さん達にはなかなか難しいことも多いのですが、慣れてくると動物達も飼い主さんも堂々と自信を持ってやって下さることがほとんどです。

hr

今回、飼い主さんが本当に頑張って下さって、毎日お家での輸液を行い、死んでしまってもおかしくなかった治療初日から丸二年経過した猫ちゃんをご紹介します。

かわいい三毛猫はMCちゃん、今年18歳のレディーです。

2019年、一ヶ月前から食欲が落ちてきた、ぐったりしていると来院したとき、血液検査では重度の慢性腎不全を示していました。

BUN140オーバーで計測不可

CRE8.0(高値)

P 15オーバーで計測不可

Na 151 K2.2 Cl118(バランスを崩している)

黄疸もあり、意識もうつろ。ご飯も食べれません。尿は少しだけでていました。

正直、この数値では無治療では間違いなく数日でなくなること。

入院をさせた方がいいスコアだけど、それで絶対によくできる保障はないこと。

けれど輸液は皮下補液の方法では毎日しないと意味がなく、毎日の通院が厳しいならば家でそれを補って欲しいこと。

伴うリスクとその他の治療方法を提示しました。

そして最も避けるべきことは、入院中に亡くなってしまうこととお伝えしました。

この年までお家でのんびり過ごしてきた子です、できれば最期は家で迎えさせてあげたい。

状況がかなり難しいこともあり、そういったシビアな説明になりました。

ありがたいことに、飼い主さんも家で看取りたいという希望を持たれており、年齢のこともあり、積極的な入院治療は希望されませんでした。

輸液をご自宅でします、と心強くおっしゃって下さったのです。

皮下補液は入院して行う静脈点滴に比べ、輸液できる量がぐっと少なくなります。

輸液をした水分は、体内で必要な分以外は全て尿や便として排出されます。

ですから絶えず経時的に静脈から流し続けるか、入れ溜めができても一日分しかもたないのです。

このスコアで、かなり悪い状態で、皮下補液でどこまで回復するかは分かりませんでした。

最悪のことを十分に覚悟した後、補液の練習を行い、帰宅されるとき飼い主さんも私も心の中で泣いていました。

少しでも体が楽になりますように、少しでも生きられますように、祈るしかありませんでした。

そして、なんと願いは通じて、MCちゃんは、みるみる元気になっていきました。

徐々にご飯を食べるようになり、吐き気も止まり、動くようになり、体重も増え毛艶もよくなりました。

二ヶ月後の血液検査では、

BUN 28.5(正常値)

CRE 2.17(低下)

P  3.8(正常値)

Na 151  K4.6  Cl 115(正常値)

全てが正常化したわけではありませんが、命の危険は回避されました。

それは、決して毎日の輸液を飼い主さんがかかさず、そしてそれ以外のフードの管理や薬の投薬なども積極的に行って下さったからほかなりません。

そして今日に至るまで、MCちゃんはマイペースに元気で過ごしています。下の写真はMCちゃんです。

皮下補液を提示しても、ここまで毎日欠かさず行って下さるケースはかつて勤めた病院では稀でした。

そもそも針がさせなかったり、経済的な事情で継続できなかったり、よくなるとやめてしまったり。

短期の入院をへて一時的に回復しても、それ以降全く治療をおこなわずまた悪化させて来院する、そんなことは珍しくありませんでした。

慢性の病気あるあるですが、短期間なら頑張れる治療も、継続した長期の治療は忍耐と経済力、病気への飼い主さんの認識と理解が必要になります。その選択で、さきの時間は変わってしまうのです。

ですがジャンボどうぶつ病院を開業してから、かなりの数の飼い主さんが毎日きちんと皮下補液を行って下さり、もう難しいと思った動物達が奇跡的な回復を遂げて、今もなお元気でいてくれる事が増えました。

本当に嬉しく素晴らしいことだな、と心から嬉しく思っています。

hr

慢性腎不全は治らない病気だとお伝えしましたが、決して諦めるべき病気ではないのです。

できる限りの範囲で治療を行うことで、現状維持まで持っていけるかもしれないのですから。

そしてもうしばらくしたら出る特効薬の発売まで頑張れば、もっと一緒にいる時間を延ばすことができるかもしれません。

猫の慢性腎不全に関してはそういった未来への希望が大きくなってきていることを、是非、知って頂きたいなと思います。

2021-02-15

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