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ご報告をしなければなりません。
ジャンボどうぶつ病院の副医院長である、ゴールデンレトリバーのアリエルが先日息を引き取りました。
14歳と5ヶ月と2週間というゴールデンとしては大変な長生きで大往生でした。
下から股関節形成不全があり、加齢による亜脱臼や変形性脊椎症で歩行自体が苦しかったはずなのですが、飼い主全力のアンチエイジングより、それを感じさせない生活を送ってくれました。
二年前には脳梗塞を患いました。二度と歩けないかもしれないという診断を華麗に覆し、最後まで自分の足で立って歩き、きちんと自分のしたいことを通してくれました。
大好きなものは晩年わかったのですがカステラで、それを食べるためには椅子に飛び乗るほど。
よろつきがでている老体にも関わらず、音も立てずに椅子に飛び乗ってカステラの袋に飛びかかったときはスタッフ一同、その心意気に感服するしかありませんでした。
小さな頃はT字カミソリを食べ、私の結婚指輪を食べ、栴檀の実を食べ、玉ねぎチャーハンを食べ、異物誤飲で死ぬことを何度も覚悟させられました。
運動神経が良く、頭が良く、人の話をほとんどすべて正確に理解しており、介助犬としてのスカウトもあったほど。
しつけにだせば、声に出さなくても先生のすべての指示をパーフェクトにこなし、この子は見込がある!とアジリティにも誘われましたが、先生以外の言う事ちっとも聞かず、しつけの意味とは?と思うこともしばしば。
大学病院では犬舎で騒ぎすぎて閉じ込めていられず、宿直室に二人で泊まりました。夜中の勤務にもちゃんとノーリードでついてきてくれ、二人で朝日の昇る大学構内へ散歩に行きました。
夜勤明けの太陽は眩しくて、二人揃って目をしょぼしょぼさせました。
海が大好きでサーフボードに乗ったこともあります。
波を恐れず、繰り返し海に突撃するために、脱ぐのが間に合わなかったサンダルは何度もびしょ濡れに。
気が強くて無駄吠えはしないけれど、しつけの一喝はバシッと決める、姉御肌でもありました。
撫でてもらうのが好きで、飼い主様たちにも何度も要求にいきました。
撫でるのをやめると前足で、もっとして!とちょんとつつくのが可愛くて、わざと撫でる手を止めました。
だれかの言うことを聞くにはサラサラなく、自分の言うことを飼い主が聞くのが当たり前だと思っているその純粋なワガママさが、本当にかわいい子でした。
私にとっての彼女は、一つの愛の形をしていました。
確固たる愛情、絶対に自分を裏切らないという揺らがない強い想い、全幅の信頼とはこういうものだと教えてくれました。
彼女から伝わる思いにわたしはどれだけ救われたでしょう。
激動とも言える人生の時間を彼女と過ごすことができました。
彼女は私の最初の子どものようなものです。
結婚直後にであい、子供をうみ、そだて、開業し、今の形に病院をするまで十年間を見守ってくれました。
いままで飼っていたどの犬たちよりも長く、長く、そばにいてくれたのは、きっと彼女が私を心配していたからなのでしょう。
獣医師の仕事はやりがいがあり、これは天命だと思って努めていますが、それとはまた別の側面として、大切に思う動物たちの苦痛と常にともにあるものです。
飼い主さんたちの悲しみを共有し、少しでも幸せに暮らせるように、医療の面でも精神の面でもサポートをする。
その過程はおそらくこの世界に立つものしかわからない苦痛と苦悩に満たされた過酷なもので、継続できない同業者が多いことも、最初の信念とはことなるスタンスで人が変わったように治療に臨むようになることも、悲しいけれど理解できるものなのです。
毎日の診察は、穏やかそうに見えても急患ひとつで地獄に変わります。
予定も予想もできない嵐に見舞われるような仕事の中で、心の安寧はいつも彼女が守ってくれました。
悔しさに涙を流すときも、怒りに燃えるときも、悲しみに打ちのめされるときも、理不尽に虚無を覚えるときも、それでも翌日再び診察に立ち向かえるのは、彼女がいつもそばにいてくれたからです。
歴代の子たちがそうであったように。
なんど、彼女のツヤツヤした頭の被毛に顔をくっつけて、匂いをかいたことでしょう。
何度ふかふかのおなかに顔を埋めて、人に見せたくない涙を流したことでしょう。
なんど名前を呼びながら、もう一度、正しく立ち上がるための力をもらったことでしょう。
幾度打ちのめされ、この仕事をやめたい、じぶんのやることになんの意味があるのか、どうしてこんな想いをしなければならないのかと自問するときも、彼女が無言でそばにいてくれることで答えを導き出してくれました。
彼女がいないこの世界で、どうやってこれから前を向いていけばいいのか。
そんな誤った思考は、彼女の強く確かで、そして誇り高い信頼が吹き飛ばしてくれるはずです。
私がこの仕事をしてきたからこそ、彼女はここまでそばに居て、強く長く生きてくれました。
こんなに確かなものはありません。
その信頼に答えるために、私は今でと変わらずこれからも、懸命で真摯な診察をしていかなければなりません。
彼女がくれたもの全てが満ちた日常の中で、数限りなく幸せな思い出をたどり、きっと涙をこぼすことも多いけれど、与えてもらったものの大きさを噛み締めながら、進んでいきたいと思います。
たくさんの飼い主さんたちにかわいがっていただき、アリエルは幸せでした。本当にありがとうございました。
病院を我が物顔で歩く自由さを受け入れ、声をかけ、なでてくださったことに、心から感謝いたします。
歴代の子たちと異なり、彼女は病院にいることで、多くの飼い主さんたちの記憶にも残る存在となりました。
彼女にとって誇らしく嬉しいことだと思います。
副医院長は天国支社へ出向となりますが、きっとあちらでもマイペースで先にいる歴代の子たちとともに、私達を見守ってくれることでしょう。
きっと、誰よりも長く生きたことを自慢しつつ、副医院長の肩書にほこりをもちながら、私がいなくても大丈夫よね?そこまでちゃんと面倒見たからね、とニコニコいつものあの素晴らしくかわいい笑顔で笑ってくれるはずです。
アリエル、ありがとう。
あーちゃんは世界で一番可愛くて賢くて、強くて、最高のゴールデンだよ。
一緒に暮らせてほんとうに良かった。本当に本当にありがとう。
この幸せを一生抱きしめて、迷うときも悲しいときもきっと、正しい道を選べるから。
安心して向こうでたくさん好きなカステラを食べながら、いつかまた会えるときまで、幸せに過ごしてね。
そのときには、アリエルに恥じない仕事をしてきたよ!って自慢できるようにするから。
これからもずっと、ずっと、大好きだよ。
2024-05-15
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