なんとこれが令和七年最後のコラムとなります。
驚きしかないですね、いつの間に十二ヶ月経ってしまったのか……
気がつけば冬の真ん中にいます。
あれだけ夏の苛烈さと長さに苦しんだ記憶が濃厚にのこっているのに、秋も冬も気がつけば過ぎては最中。
季節をきちんと把握する時間がないままに時に流されていくのは、その日その日を大切にしていないんじゃないか……と不安になる一方、逆に特別に充実しているからこそ、早く過ぎていくように感じているのかもしれないとも思います。

楽しい時間は早くすぎるように感じ、苦痛の時間は長く感じるというのは皆さんもご経験があるかと思います。
学生の時の定期テスト前の準備時間はやたら長く、テスト中も長く、しかしてテスト休みはものすごく早く終わってしまう、とか。
もしくは社会人になってからの平日の長さと週末の過ぎ去る早さ。
夏休みや冬休みは来るまでがとても長いのに、始まるとあっという間もなく消化されて、気づくと明日から平常運転に……。
時間の体感は相対時間というのも理解できますね。
歳を重ねるごとに、その日その日をみっちり過ごしていっているからこそ、1年は早く過ぎていくのかもしれません。
ええ、どうしよう、言い訳じみてきました。
単に季節感を大切にする心の余裕がないからでは?
そもそも今原稿を書いているのも締切をぶち抜いているのですが、この時点でクリスマスツリーの飾り付けもしていない…。
いや、でも、犬がいるから飾りとか食べちゃうと困るし……、などと言い訳をしながら押し入れからツリーを出すのが面倒なだけなことをごまかしています。
でも頂きものの美味しいシュトーレンとジンジャークッキー、冷凍のターキーレッグと燻製鴨肉、最も美味しいと信じているロールケーキのお店のクリスマスケーキはしっかり備えているので、やはり食欲にまつわるものは、怠け心と怠惰を打破するようです。
とはいえ、今年も暖冬だそうで、妙に生ぬるい空気が年末の忙しなさをつつみ、いまいち体調が整いにくい時期だと思います。
インフルエンザとコロナウィルスも引き続き猛威を奮っておりますが、普通のいわゆる風邪も多くなっているとのこと。
皆様もどうかせっかくの年末年始に寝込むことがないように、無理をしすぎずに、気張ってまいりましょう。

さて、先日、なるほどなぁと深く考えさせられることがありました。
少し前に上唇に風邪の花と言われる、単純口唇ヘルペスができまして、これは昔から繰り返し発症していて、もう長いお付き合いの病気です。
唇に発症する単純ヘルペスウィルスは1型で、一度感染すると神経にとどまりずっと隠れ潜んでは、免疫が弱るときに再び現れる、という病態を取ります。
ちなみに五十歳以上でワクチンがある帯状疱疹のヘルペスウィルスは水疱瘡の痘・帯状疱疹ヘルペスウィルスなので、親戚筋のウィルスではありますがちょっと違います。
唇に水疱を伴う腫れが出る前に、ピリピリむずむずといった違和感が現れるので、この時点で「む、やつが来るな……」という気配を感じることができます。
今回もそれがあったのですが、皮膚科に行く時間がとれずに、しっかり水疱がでて腫れあがり、熱が出始めて慌てて受診することになりました。
皆さんには「症状が出たらなるべく早く病院に!」といっているのに、お恥ずかしいお話です。
「上唇のここが痛くて腫れてしまって、以前にも同じ事があってヘルペスだと思うんですが」
と診察をうけたところ、マスクの下のくちびるを見て皮膚科の先生は一言。
「これはヘルペスじゃないよ!口唇炎だよ!」
驚く私、長年診断されてきたはずのヘルペスが、口唇炎?!
いや、明らかにむずむず痛痒いし、水疱は出ているし、熱もでてるし、どう見ても今まで長く苦しめられてきたヘルペスだとしか思えないけど?!
驚きながらも口唇炎についてお聞きすると、唇があれて皮が向け、乾燥してかさかさし、ひび割れたりして痛みがでるとのこと。
ちょっとまって、だとしたらやっぱりこのむずむずピリピリで一箇所だけに水疱がツンとできる、というのは違うのでは……。
我ながらしつこいとは思いましたが、でもヘルペスだと思うんですが…熱も出ましたし、水疱が一箇所ですし、と繰り返しお伝えし、そのやり取りを経ること四、五回。
「どこに水疱があるの?じゃもう一度見せて!」
といわれて再びマスクを外しました。
「ここなんですが、上唇の……」
「それはヘルペスだよ!」
無事にヘルペスの診断が出ました。
なんでも下唇の荒れが口唇炎だそうで、上唇を見て診断したわけではなかったそうです。
私は下唇の荒れを自覚していなかったので、指摘されて初めてわかりました。
2つの診断名に基づくお薬を出していただき、リップクリームを常備して利用することで、今は落ち着いております。

皮膚科から帰ってきて、動物病院での自分の診察も見直さなければならないな、としみじみ考えました。
臨床経験が長くなるほど、診断の精度は増します。
これは当たり前のことで、何十回、何百回、何千回と同じ病気と対峙し治療してくれば、典型的な症状であれば一目見てこの病気だ!とわかるようになることは誇りであり、できないことは恥でもあります。
自信とプライドに裏打ちされた精度の高い診断なのです。
けれど、経験を重ねるということは歳を重ねるということでもあります。
人間が生き物である限り、加齢、老化は避けられません。
若い時の集中力や視力、体力に忍耐力、自信がないからこそいろいろな病気を疑ってかかる視野の広さは徐々に失われ、良く言えば即断即決、せっかちになり話の最初を聞いただけで判断したり、思い込みが強くなりや誤認したり、こうだと決めるとなかなか他に譲れない頑固さなどが顔を出します。
そうなっていくことは避けられなくても、そうなる自分を自覚し戒めることはできるな、と強く思いました。
まず人の話を最後まできちんと聞く。
そして慎重にその中身を吟味しつつ、お話の内容に照らし合わせて、症状の場所を丁寧に見ること。
決して焦らないこと。
こうだ!と思っても、一度自分を疑うこと。
診察だけの話ではなく、歳を重ねて老いていくうえで心がけなければならないことなのだと強く思いました。
老い、とは永遠の命題であり万人に共通なものです。
永遠の命が欲しいとはちっとも思いませんが、記憶力の低下や老眼の気配を感じると、若さって素晴らしいなと思ったりもします。
でもせっかくの経験と自信が傲慢にならないように、逆に謙虚や自信の無さが卑屈や怠惰にならないように、己を律していくことを身体に覚え込ませていきたい。
そうして歳を重ねていきたいな、と思いました。

今年1年も本当にお世話になりました。
たくさんの方に支えられて、無事に年を納められそうです。本当にありがとうございました。
新年もどうぞ、ジャンボどうぶつ病院スタッフ一同、変わらず動物たちと飼い主さんの幸せをサポートして参りますので、どうぞよろしくお願い致します。
2025-12-24
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