動物病院HOME < 院長のコラム < レプトスピラ症の増加
先週とは打って変わり急速に冷え込んで、秋から早回しに冬になってしまったような気分です。
とうとう秋用のトレンチコートの出番がないまま、フリースやダウンのお世話になってしまいました。おしゃれなんてする暇もなく、断熱と保温命!の服装に身を包まなければ、とても外を歩けません。
病院の窓の外を行き交う人たちも、襟を立てて縮こまりながら、吹きつける風に目を細めているのが見えます。前開きのコートをかきあわせている姿にこちらもブルリと震えてしまうほど。
先日、駅前で白いモヘアのニットにミニスカートの可愛らしいお嬢さんが改札からでてきて、吹き込む風の冷たさに「さむいっ!」と叫んでいましたが、おそらくあそこにいた全ての人たちの心の声の代弁者でした。
本当に寒いですよね!
病院のスクラブの中に着込む服もヒートテックにかわり、冬が近づいてきたのを感じます。
今年の冬も暖冬といいますが、今後暖冬でない冬ってあるのかしら?と思いつつ、毎日の洋服に悩んでいます。
さて、かなり気になるニュースが飛び込んできました。
今年の7月と10月、都内においてレプトスピラ症に感染した犬が2頭亡くなりました。
これは前回の都下での発生例も取り上げましたが、(レプトスピラとワクチン)それ以来の東京都獣医師会からの報告となります。
犬種、性別、年齢などでは明らかにされていませんが、肝不全、腎不全を主訴として来院し、治療の甲斐なく亡くなっています。
1頭はネズミを口にくわえて遊んでいたということが報告されており、媒介動物であるネズミとの接触が明らかですが、もう1頭は心当たりがないとのことでした。
以前にも取り上げましたが、レプトスピラ症は人畜共通感染症、いわゆるズノーシスと呼ばれるもので、日本では届出伝染病に指定されている細菌感染症です。
人間での感染報告も、2007-2016年にかけて284例(年間15-42例)出ており、決して珍しくない感染症です。レプトスピラ症は、犬の混合ワクチン7種以上に含まれており、毎年きちんとワクチンを打たれていればさほど怖がる必要のない病気です。
同じレプトスピライン菌でも、亜型がいくつかあり、そのうち4つがワクチンに含まれています。7種にカニコーラ、8種にはカニコーラに加えてイクテオヘモロジー、10種に全2種とポモナ、グリッポが含まれています。
今回の感染はイクテオヘモロジーで、これは前回の都下で起きたものと同じです。
カニコーラが最も多いとされているのですが、近年ではイクテオヘモロジーが増えているのでしょうか……。
前回のブログでもお話しましたが、イクテオヘモロジーは8種以上のワクチンを打っていなければ予防できません。
5種、6種、7種を接種していても、カバーできていないのです。
ここがポイントで、昨今、もとは8種以上のワクチンを接種していても、コロナ禍の影響であまり出かけないからと6種に価数を落としていたり、値段も安くなるし!と6種を選ぶ方が増えているのですが、それと反して実はレプトスピラ症の感染自体は数が増えているのです。
以前、渋谷や新宿などでネズミが大量発生していることが、SNSを中心に報告されていましたが、繁華街を中心に飲食街を中心にネズミ自体の総数は増えているようです。
コロナ災禍があけ、人の流通がもとに戻り、それ以上に外国人観光客の増加などで、より人の経済活動、ひいては発生するゴミの増加なども影響しているのではないかと推察されます。
また荒川区では地下鉄が通っていることもあり、ネズミの遭遇はよく聞きます。
土手や水場のある公園なども多くあり、ネズミの糞尿にさらされやすい環境なのです。
レプトスピラ菌はこのネズミの糞尿が皮膚にある傷につくことで感染します。
肉球裏の細かい傷の有無など、はっきりいってよくわかりませんし、基本はみんな傷があり、感染するリスクがあると考えるべきだと思います。
それなのに価数の多いワクチンの接種率は下がっています。
都下での発生以降、レプトスピラ症という病気の怖さがリアルに感じられ、ワクチン接種率が増加するのではないか?といつ予測を裏切り、実際はその発生地域ですら、接種率はむしろ下がったのだと言う報告をワクチンメーカーからききました。
経済的な事情が背景にあると分析されていましたが、一部の飼い主さんの中だけで情報が共有され、あまりそういった意識がない飼い主さん達には伝わらなかったのではないか?と私は考えています。
まずは名前から聞き慣れないですし、混合ワクチンに入っていることも知らない方が多くいます。
実は届出伝染病という、かなり注意をしなければならない重要な感染症なのですが、法定伝染病の狂犬病よりも認知度はずっと低いでしょう。
さらに亜型の話なんてほとんどの方は知らないですし、何種を打ったから安心というのも分からない方が多いのではないでしょうか?
ここで改めてお伝えするのですが、基本的にワクチンで予防するタイプの病気は、治療が難しく救命率が低いからワクチンに頼る、という側面があります。
今回の2頭も、診察された先生にレプトスピラ症の経験があり早い段階で診断がついたのですが、そもそも来院されるまでに時間がかかりかなり進行してしまっていたため、懸命の治療にも反応せずに亡くなってしまっています。
発症したら助からない可能性が高い病、として改めて認知していただきたいと思います。
また逆を返せば、ちゃんと7種以上を打っていれば安心である、ということなのです。
ただ今回のイクテオヘモロジーのこともあり、ワクチンや薬剤のアレルギーがあるなどの特殊事情があって、どうしても接種できないかわいそうな犬たちをのぞき、できれば価数の多いものを混合ワクチンとして打っていただければと思います。
この病気の症状は黄疸、血尿、肝不全、腎不全など特徴的なものがありますが、残念ながらこれらは病期が進んて出てくるもので、飼い主さんが気づきにくい病気です。また、感染症として特定するのには特殊な検査が必要で時間がかかります。
治療を始めても間に合わない可能性が多くある病気ですので、今一度混合ワクチンを何種で接種するのかについて、お家でよく話し合ってほしいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
2024-11-25
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