秋を待ちわびて居たはずなのですが、あまりに唐突に季節が切り替わって若干の戸惑いがあります。
先週までは半袖のTシャツをヘビーローテーションして居たはずなのに、今朝は空調なしでも肌がピリッとする寒さ。
窓を開けると乾いた風が顔をかすめて、ああ秋がやってきたんだなと思いました。
遠くに霞む雲は高く、朝日に照らされて藤色に染まり、刻々と力強い桃色から赤へと移っていきます。
太陽が顔を出すまでの人の多くがまどろみにいるこの時間の美しさは、何者にも代えがたいものだな、と感じました。
それにしてもいきなりの変化に体調を崩す可能性を心配して居ます。
先週あたりは台風の影響なのか、暑さのぶり返しなのか来院される子が軒並み消化器症状という下痢パレードが続き、朝から晩までずっとうんちの話をしていました。
老若男女種を問わず同じ症状が続くのは、やはり気候や気圧などの大きな環境変化の影響がベースになっているとしか思えず、だからこそ、急速な温度変化には注意をしなければならないな、と思います。
さて、実は先日大変驚くことがあったので、皆様に注意喚起をしたいと思います。
朝一で、食欲がないとのことで猫ちゃんが来院されました。
お家には二匹の猫がいて、一匹は食が細くムラ食いなのですが、来院したその子はいつも食欲にあふれていて食べないことがない子なのに、昨日からは食べたそうにしているのに食べないとのこと。よだれが出ているので、口の中がおかしいのかもしれないとのことでした。
猫ちゃんは確かに口の中からかなりのよだれが溢れていました。
そっと口を開けてみてみると、何やら舌の下から緑色の何かが飛び出しています。
明らかに口腔内にあるものではありません。
本人が舌を動かすものの、緑の塊は全くその位置から動きませんでした。
ということは、この状態でしばらく猫ちゃんの舌の下に刺さっているということです。
嫌がるのをなだめながらもう一度口を開けている間に、看護師さんに鉗子でつまんで引っ張ってもらいました。後から聞くと、結構な抵抗があり、でも終いにはぶつんという手応えがあって取ることができました。
なんと、その正体は!
ネコジャラシ!!
そう、猫をじゃらす、ネコジャラシです!
飼い主さんに見せると、ああ〜と心当たりがあったようです。
実は猫ちゃんたちがネコジャラシが好きなので、よく土産に取って帰ってあげていたんだそうです。今の時期はたくさん生えているから、と今回は特別大きなものを見つけたので、長く楽しんでもらえると思って二日ほど前にあげたのだそう。
「ネコジャラシって刺さるんですか?」
てっきり、その名もあって猫が遊ぶのに適したものだとばかり、とおっしゃっていました。
私もネコジャラシが口の中の粘膜に刺さった症例は初めてです。
丸ごと飲み込むのに適した形ではないですし、噛みちぎって飲み込んでも支障が出ないサイズになっていることがほとんどで、むしろ人工的に作ったネコジャラシおもちゃでの異物誤飲は経験がありますが、自然のネコジャラシにこれだけの破壊力があるとは。
ネコジャラシは、エノコログサの俗称ですが、イネ科の一年草で大きくなると70センチほどにもなるのだとか。
今回取り出したものは手で触ってみるとかなり固く、まだ青々としていて、指先で触ると穂先は尖っていて痛いほど。確かに口腔粘膜のような柔らかいところならいくつも突き出た硬い毛が突き刺されば抜けないだろうなと思うものでした。
「今後はあげないようにします」
飼い主さんは恐縮されていましたが、我々もこれは気をつけなければならないな、と思いました。
英語ではグリーンフォックステイルと呼ばれ、昔から猫をじゃらすことで有名な遊び道具です。まさか口に刺さって取れなくなることがあるとは想像していませんでしたが、万が一これが外猫であった場合、自力で抜くことができず食べられずに命を落としてしまうこともあるのだと思うとゾッとしました。
見慣れたものでも事故の原因になるのだと、改めて身を正された気がします。
今、もしネコジャラシを使って遊ばれている方がいらしたら、こういった事例もあるということをどうぞ頭の片隅に入れておいてくださいね。
またもう一つ、事件がありました。
知人のお家で猫が倉庫に迷い込んだようだ、三日前から泣いている、というお話を聞きました。
倉庫の扉は開けておいたけれど、出ていった形跡がないし、泣く声が日毎に弱っているようだということでした。
声の出所を探してみたらなんと!
軒先の屋根の上に猫が座り込んでいます。
よく見るとその子の首には首輪と、細い紐のリードがついているではありませんか。
そのリードの先が、電線となにかしらのコード、そして屋根に置かれた使っていない大きなはしごに絡みついてがんじがらめになっているのです。
おそらくお散歩中にでも逃げ出してしまい、パニックになって屋根に上った先で、はしごに絡んで逃げ出せなくなってしまったのでしょう。
周囲には糞尿の跡もあり、そのこがここから動けていないことがわかりました。
脚立に乗って手を伸ばせばギリギリ紐には届く位置だったので、リードの紐をハサミで切ると怖がって威嚇していた猫はようやく少し身動きが取れるようになり、屋根のあるところまで後退しました。しかし、まだ残った首輪が電線に絡んで動けません。その後も長い時間多くの人の尽力があり、大変な苦労があった末、無事に猫ちゃんは救出されました。あと何日かそのまま気づかれなければあの子は死んでいたでしょう。
猫に首輪とリードをつけてお散歩をすることは、大変上級者向けの行動と言わざる得ません。
犬とは全く異なり、基本的に猫は水平方向の運動がとても得意です。
壁を駆け上がり、ジャンプし、屋根や木の上などはるか高いところに登ることができます。
全身がバネと筋肉であり、本気を出されたらまず人間では捕まえることができません。
また外界の刺激に敏感で、犬の吠え声、人の声、電車の音、看板が風でなる音、自転車や車が近くを通っただけで、パニックになってしまうことも珍しくありません。
パニックになると、いかに普段穏やかな猫ちゃんでも飼い主さんが制御できないほど大暴れをし、持っていたリードを離してしまうことがよくあります。
犬たちよりもコントロールしづらく、練習や訓練を経た猫ちゃんであってもお散歩は難しいものです。
リードの状況や首輪を見るに、おそらく長くお散歩自体の経験があったのか、もしくはお家のお庭などに繋いでおいたのではないかと推察されますが、何らかの原因で逃げ出しこういった事故になってしまったのだと思います。
実は首輪やリードを繋げたままで外に出てしまい、これらが引っかかって身動きが取れなくなることは多くあります。
以前にも首輪が軒先に引っかかり抜けなくなったせいで宙吊り状態で二日過ごして、足を断脚せざる得なくなった子がいました。
猫の首輪は今はある程度力が加わると留め金が外れて解放されるものが多いのですが、昔ながらのベルト式や犬用の首輪を流用しているケースなどではどれだけもがいても暴れても首輪が外れず亡くなるケースがあります。
猫たちに関しては、お家にテリトリーを定めれば散歩は基本必要としません。なるべく安全に過ごすために、外に出すことは避け、お散歩もよほど自信があっても場所と時間帯を選んでいただきたいです。
また猫に首輪をつける際は外れるタイプのものをお勧めします。
リードや首輪でつなぐ際は決して目を離さず、に管理しましょう。
今回は珍しく二件の事件に遭遇しましたが、幸運にも二匹とも助けることができました。
ラッキーでしたが、こういったことが起きないように注意喚起を行う必要があるなと、心から思いました。
コラムを読まれた皆さんは周りにも教えてあげてくださいね。
2024-09-26
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