動物病院HOME < 院長のコラム < 早期発見のためにも健診を
秋の日差しに清々しさを感じるようになってきました。
ようやく秋がやってきた!と思ったらまた極端に急激に温度が下がったせいで、動物病院ではお腹のトラブルでの来院が頻発しています。
吐く、下痢をする、吐いて下痢をする、下痢していたら吐いた、口から肛門までが一本の消化管で繋がっていることを改めて感じる症状のオンパレードです。
同じ日に何頭も同じ症状でやってくる場合は、やはり季節性のストレスによるものがベースになっていると考えられます。
これ単独の理由ではないのですが、ここにいつもと違う環境変化、例えば食事が変わった、おやつが新しいものになった、ご家族の帰宅が遅かった、来客があった、目の前で道路工事が始まった、お隣にリフォームが入ったなど、人的な理由のほか、雨が降った、強風だった、雷が鳴った、地震があった、などの自然変化によるものまで、細かなストレスが積み重なって肉体の恒常性が壊れた時に症状が出てきます。
いつもは平気だったことが平気ではなくなるのが恒常性の乱れです。
乱れが強いと自力での回復ができないために、治療が必要になります。
あまり様子を見るのではなく早めにかかりつけの病院へ行かれてくださいね。
お話は変わって、少しご紹介したいわんちゃんがいらっしゃいます。
コロンちゃんはジャックラッセルテリアの男の子です。
昨年、おしっこに血が混じるということで来院されました。
いつもお外でお散歩をするのですが、外のコンクリートの上ではなくたまたま白線の上でしてくれたおかげで色が違うことに気が付いたと飼い主さんはおっしゃっていました。
尿検査では赤血球がたくさん検出されましたが、残念なことにいらっしゃる途中で排泄してしまったために尿量が取れず、超音波検査でも膀胱も縮んでしまってよく見えません。
別の日に尿を溜めた状態で検査をすることになりました。
改めてした検査での膀胱は、普通の状態ではありませんでした。
典型的な膀胱腫瘍の様相とは異なるものの、明らかに異常所見が見られました。すぐに異常箇所の採材と癌マーカーを検査に出すことにしました。
でも結果は一週間以上帰ってきません。
しかしもし、これが想定される膀胱腫瘍だった場合、膀胱全摘出手術を行い、尿管を腹壁に固定する再建術をおこうなう必要があります。
また膀胱腫瘍に多い移行上皮癌は非常に転移が早い腫瘍です。
現時点ではレントゲンや超音波検査に確認できる明確な転移は見られませんが、明日にでも転移はおこるかもしれません。
専門の病院は基本的に予約するのに時間がかかります。混み合っている診療科では、一ヶ月待つこともあります。
かつてうちにいたゴールデンレトリバーの仁くんは、上顎の扁平上皮癌でしたが、放射線治療の予約が取れたのは、病理検査が出てから一ヶ月後でした。
その間に見るまに癌は大きくなり、一気に病気は進みました。
当然、大きい癌に放射線を当てるのは、ちいさい癌に当てるよりも効果を得るのが難しくなります。
あの待っているしかできなかった一ヶ月は地獄のように苦しい時間でした。
話はそれましたが、飼い主さんにそういった事情を説明し、病理検査とマーカー検査の結果が出る前に予約を取ることをお勧めしました。
コロンちゃんの飼い主さんは了承され、最短での予約を取ることになりました。
幸い幸運にも翌週には予約が取れました。
またさらにラッキーなことに病理検査会社から通常よりも早い段階で、「癌マーカーは陰性だったが、どう見ても細胞所見がおかしい。ガンと断定はできないが、とても怪しいので精査をお勧めする」と送ってくれたことでした。
確定的な結果は得られないまま、限りなく疑わしいという状況で臨んだ専門病院での診察結果は、膀胱腫瘍、移行上皮がん疑いでした。最初の検査から二週間ほどの間に腫瘍はどんどん大きくなり、確定診断できるレベルになっていたのです。
移行上皮癌は犬では膀胱に最も多く発生する腫瘍で、性差はメスの方が多いといわれています。
ビーグル、シェットランドシープドッグ、スコッチテリアなどが好発犬種とされています。
すぐに膀胱を全摘出する手術をするか、抗がん剤をして様子を見てから手術をする提案を受けました。
移行上皮がんは非常に転移率が高く、すぐに手術をしても根治の可能性が低いからという説明だったそうです。
ちなみにこの時点でのコロンちゃんには全く自覚症状がありません。
元気いっぱい、食欲全開、血液検査に異常なし、日常生活も支障がなく、側から見れば健康そのものといった様子です。
膀胱全摘術というのは、先にも書いた通り膀胱と尿道を丸ごと切除し、腎臓から伸びている尿管をお腹の皮膚、ペニスの包皮の粘膜に開口する手術です。
この手術を行うと膀胱という尿を溜める組織がなくなるので、お腹に開口した尿管から常に尿が出続けることになります。
ですから日常的にずっとオムツを使用することになるのです。
オムツをわんちゃん猫ちゃんにしたことがある方はイメージしやすいとは思いますが、常につけているとどうしてもオムツかぶれができてしまいます。肌の管理が必要です。
またオムツをつけること自体に慣れていないので、嫌がって取ってしまったり、脱げてしまったりすることもあります。
排泄に関して生活という点大きな変化が家族に起こります。
また膀胱という防波堤がないので、皮膚の上にいる常在菌たちが尿路感染を起こしそのまま腎臓にまで到達して腎盂腎炎などを引き起こすことがあります。
この手術を受けての生存中央期間は六ヶ月から十一ヶ月です。
今後について相談にいらした飼い主さんと話し合い、手術をすることを決めました。
大きな勇気が必要な決断でしたが、抗がん剤の効果とリスク、その後のケアなど複合的に判断しました。
症状が出てからおそらくほとんど時間が経っていないこと、最初の超音波検査で腫瘤が確認できなかったとこと、何よりコロンちゃんが今現状たいへん元気で食欲もあり、臨床症状が血尿以外みられず、今が一番若いことが、手術のリスクを下げることを踏まえ、切除による根治の可能性にかけることにしたのです。
コロンちゃんの手術はたいへんスムーズに進み、回復も目覚ましいものがありました。
抜糸をする頃には今までと変わらぬ活動性を見せてくれました。
そして、今月、癌の診断から一年となりました。
未だ転移は見られず、元気いっぱいで、変わらずにアクティブでご飯をモリモリ食べています。
飼い主さんとお話しするたび、あの時に結果を待たずにすぐに専門病院への診察を決めたこと、予約がスムーズに取れたこと、リスクのある手術に勇気を持って挑んだことが結果としてこの元気さを生んだんだねと話しています。
「手術か抗がん剤で結果はあまり変わらないと言われた時、正直、抗がん剤でもいいのではないかと思ったけれど、勇気を出して手術をしてよかった。抗がん剤を選んでいたら、繰り返す検査と副作用、転移による他の症状に苦しめられて今のようにはいられなかった。非常に厳しい判断でしたが、手術を選んでよかった」
同じように悩んでいる飼い主さんの少しでも助けになれればと、飼い主さんがおっしゃってくださったので、このブログに取り上げさせていただきました。
これほど早期発見と早期治療が功を奏したケースは稀で、本当に幸運であったと思います。
病気は自覚症状がほぼない状態で見つけることができ、治療に臨むのが最も早く的確なアプローチです。
ですから健康診断で見つけられることが最高の治療となります。
残念ながらその時点でも間に合わないケースもありますが、まず健診しなければそのこの状態を知ることができないのです。
秋の健康診断も行っておりますので、勇気を持って検診は毎年受けていきましょう。
検査の結果を聞くのは嫌ですね、検査の日は気が重いし、結果が悪かったらと思うだけで苦しくて、夜だって眠れなくなります。
でも、現状から目を背けて結果的にそれを後悔するのなら、今の苦しみを乗り越えて結果に向き合った方が良いと断言できます。
苦しみはわれわれが一緒に受け止めます。動物病院はそのためにあります。
一人で苦しまず、一緒に悩んでいちばん良い選択を行いましょう。
2024-10-22
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