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SFTSウイルスの恐ろしさ
SFTSウイルスの恐ろしさ

梅雨入りの六月ですね。

朝扉を開けて外に出ると少し前のからりとした空気とは全く違う、この時期特有の湿度の高い粘性が高いような重みのある風が体にまとわりつきます。これぞジャパニーズ、ジメジメ。

日本人のオノマトペは大変豊かで素晴らしい文化だと思います。この音だけでどんな感覚を刺激するものなのかとってもよくわかりますよね。

雨の音一つ取っても、しとしと、ザーザー、ピチピチ、ポツポツと多くの擬音があることも、古来から物事の感覚面を言語化することに長けた民族であるな、と実感します。

春はあけぼの、ようよう白くなりゆく山際から始まる枕草子のように、数百年前から我々は好むもの、苦手なものに対しての判断が、とても繊細で細やかであるのです。

大きなくくりで好き!というだけでなく、この形のこういったシチュエーションで、こういうところが好き、と丁寧に表明してきました。

そのためには細分化された物事の表現が必要であり、だからこそ擬声語や擬音語が豊かに発達してきたのだと思います。

ですから犬や猫に対して、ふわふわでもふもふでふかふかでヤワヤワでむきむきで、ポカポカでツルツルでスベスベでザラザラ、なんて表現するのは当たり前のことでしょう。

どれだけ言葉を尽くしても筆舌尽くしがたい可愛らしさと愛らしさが彼らにはあり、時に我々の言語能力すら奪うこの幸せを享受できることが、彼らと暮らすなによりの醍醐味であると感じております。

hr

さて気温上昇により虫たちの行動も活発になってきた今、恐ろしいニュースが入ってきました。

このコラムでも何度かマダニの媒介するSFTSウイルスに関して取り上げてきましたね。

もしまだ読まれていない方がいたら、このコラムの前に、こちらからぜひ読んでみてください。

身近にある感染症の恐ろしさを実感できると思います→ノミ・マダニの危険性

そのSFTSウイルスに感染した猫の治療を行なっていた獣医師が、亡くなるという痛ましい事象が起きました。

過去にも大阪でSFTSに感染した地域猫をそうとは知らずに保護しようとして噛まれ、その後亡くなった女性の方がいらっしゃいます。

これは全国的にニュースに取り上げられたので、覚えている方もいらっしゃるかもしれません。

この時まで国内のSFTS感染者はマダニから直接人間が咬傷を受け感染するダイレクトなものでしたが、このケースのように猫を媒介して感染することが広く知らしめられたケースでした。

今回は獣医医療従事者として、感染例に直接対応をする立場の我々獣医師が亡くなったということで、私も非常にショックを受けています。

本年4月末に三重県で、九か月齢のSFTS感染猫二匹(これは同じおうちの兄妹猫でオスとメス、親猫と同居)の入院治療を行なう。

二匹の猫は経過良好となり、10日前後の入院を経て退院。

その翌日、獣医師は虚脱感、食欲不振、発熱なし

その2日後、夜間に息苦しさと呼吸困難で病院へ緊急搬送

その4日後、薬石効なく、逝去

症状を訴えてから一週間という、本当に恐ろしいスピードで病態が悪化しお亡くなりになってしまいました。

マダニに刺された跡はなく、この猫たちから感染したことは証明されています。

hr

SFTSは死亡率の大変高い感染症であり、特効薬はなく対処療法のみです。

予防としてのワクチンはないので、間接的にマダニの感染と接触を避けることしかありません。

また病態の悪化は早く、大阪の症例でも発症後2日で亡くなっていたと思います。

今回幸いにも他のスタッフや飼い主さんには異常が出ていませんでしたが、それはただ幸運だったという結果論であると思います。

残念ながらこの猫たちがどういった予防をされていたのかは判りません。

でも生活環境のどこかで、マダニと接触することがあり、SFTSに感染したのは間違いないでしょう。

最期まで獣医師としての本分を尽くし、亡くなられた先生には心からお悔やみを申し上げることしかできません。

いまここでもう一度、ノミ、マダニ予報について考えていただきたいのです。

よく「うちの子は家の中だけだし」とか「外にもあまり行かないから」とノミ、マダニ予防をされていない方がいらっしゃるのですが、相手が虫である限り、予防をしていない場合は絶対に感染しない保証はありません。

そしてもし、感染してしまった場合、その動物を経由でご家族だけではなく、その周囲にいらっしゃる方をも感染に巻き込んでしまう可能性があるのです。

hr

今回のケースではおそらく、この猫を飼われていた飼い主さんだけでなく、この病院に通われていた他の動物たちや飼い主さんたちも大きなショックを受け、悲しんでいらっしゃると思います。

ぶつけようのない苦しみは、生涯消えないものになってしまうでしょう。

たかだか虫の予防かもしれませんが、されど大きな感染症から己とご自身の動物たち、その周囲で関わる全ての人たちを守る砦なのです。

どうか、狭い視野でうちの子は大丈夫!の判断をする前に、一歩下がって、広い視野での決断をしていただきたいと願います。

これ以上こういった悲しい事が起きないように、どうぞ今一度、予防について考える機会にしていただけたらと思います。

2025-06-20

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