動物病院HOME < 院長のコラム < 夏の気配、必ず冷房を
梅雨入りまでのカウントダウンといった陽気になりましたね。朝起きた瞬間に差し込む日差しに、かなり力が感じられるようになりました。
そう、夏の気配。
紫外線がその攻勢を強め、空気は乾燥から一転して湿度を含み、肌や髪がべとつくようになりました。
季節の変化に動物たちは敏感で、ここ最近暑さと高湿度による病気が一気に流行しています。
垂れ耳の子たちは耳道内の外耳炎が、毛足の長い子たちは内股の部分に湿疹が、そして何より恐ろしいのは、この10日間ほどで4件の熱中症が起き、入院となったことです。
前代未聞で、獣医師になってからここまで集中して明確な熱中症が続いたことは初めてです。
どの子も小型犬で、熱中症に陥ったのは全て室内です。
症状としては主に吐き気、下痢、食欲不振、元気消失、ぐったりとしている、水も飲まない、など。
飼い主さんたちにお話を伺うと、
・風通しが良い部屋なので、窓を開けて換気していた
・日当たりが良いので、カーテンを閉めて日光を遮っていた
・除湿をかけていた
・サーキュレーターをつけて空気が流れるようにしていた
などの対策が目立ち、全ての症例でまだ冷房をつけていないことがわかりました。
これらの対策は春先の気温が25度程度にしか上がらない乾燥した陽気であれば、十分な対策といえますが、ここしばらくの朝夕は気温が少し下がるものの、日中は30度越えの恐ろしい暑さになり高湿度、といった気候に対応できていません。
また特殊なものでは、トリミングショップのお手入れ後に調子を崩したケースもあり、おそらく高温下での長時間のトリミングが、もともとデリケートな状態にあった犬たちに負荷をかけたと考えられるものもありました。
またほぼ全ての例で、飼い主さんたちが留守にされる時間があり、暑くなった日中に冷房をつけたりすることができていませんでした。
冷房をつけたつもりで、実はスイッチが入っていなかったケースもありました。
どの子達も暑さにさらされた当日ではなく、2、3日経ってから嘔吐などわかりやすい症状を出して来院されています。
炎天下の中でお散歩をした、というような原因がはっきりとわかる急速で重度の熱中症というよりも、じわじわと進行して気がついた時には重篤化しているようなわかりづらく気づきにくいタイプの熱中症です。
ですから実際に血液検査をしてみるまでは他の病気との鑑別がつきづらいのですが、結果を見れば一目瞭然で、重度の脱水とそれによって引き起こされた急性の腎不全が全頭で確認されました。他のデータにはほぼ問題がないので、彼らが短時間に一気に脱水状態に陥るような環境に置かれたことがわかります。
数値だけ見れば割と本人が普通の顔をしているたのが不思議でならないのも今回のケースの特徴です。
よって飼い主さんたちにはあまり死の危険性が伝わっておらず、数値を見せて初めて緊急事態なのだと理解していただくことが多かったです。
幸いどの子も治療にうまく反応し、食欲も血液検査の数値も回復してくれましたが、ダメージを受けた腎臓がどこまで回復するかは、治療までの時間に左右されるため、今後の経過観察が重要です。
慢性の腎不全へと移行してしまうこともあるため、命が助かった後もアフターケアに意識を向けていかなければなりません。
こういった症状は中高齢以降の動物たちにより顕著です。
また元々心疾患や腎疾患を持っている子、下痢や嘔吐など消化器症状が出やすい子などは、症状が重篤化しやすいので、普段から意識して絶対に熱中症を起こさないように対策しましょう。
実は昨今、真夏の7、8月は、人間が暑さに耐えきれないため冷房を使うことで、動物たちの熱中症は少なくなったと感じています。
もちろんまれにその暑さの中、空調を使用せずに飼い主さん共々熱中症で搬送、なんていう悲劇もあるのですが、かつて私が就職した当時よりもずっと明らかに暑さの中対策をせずに熱中症になったケースは減っているのです。
ですが、逆に5月から6月にかけて、暑さの感じ方に個人差が生まれる今の季節が、熱中症の主戦場になった気がします。
実際、今回熱中症になった子達の飼い主さんたちは、ご自身ではあまり暑さを感じておらず、心地よい風が入るから大丈夫、朝晩は涼しいからまだ冷房はつけていない、冷房をかけると人間が寒くて困るとお話しされていました。
そう、人によっては今の季節はまだ冷房を使わなくても凌げる程度の暑さでしかないのです。
対して動物病院の設定温度は冷房で23度です。これは暑い外を歩いてくる動物たちを病院で冷やすためです。歩かずともケージなどで運ばれる場合も体温は上がりやすく、来た時に開口呼吸なんてこともあるので、なるべく温度を下げています。もちろん人は寒いので、白衣やインナーで調整しています。動物ファーストです。
動物たちは基本毛皮に包まれています。
また発汗することでの体温調節ができません。パンティング(犬などが口を大きく開けてハアハア呼吸をすること)のように蒸散を使っての体温調節は、我々のように効率的ではありません。
人よりもずっと暑さに弱く、寒さに強い生きものなのです。
冷房をつけると寒い、とてもよくわかります。
でも、もしお家にあるのであれば、毛皮を着て生活してみてほしいのです。なければ、ヒートテックの下着にセーターとダウンを着てみてください。
今のその室温で快適に過ごせそうですか?
送風や除湿で、30分部屋にいられそうですか?
サーキュレーターや窓を開けて入ってくる風だけで耐えられそうですか?
飲むことができる水は冷蔵庫に入っている冷たいものではなく、部屋に置いたままの室温のものです。
排尿でしか熱を発散できませんが、もしかしたら器の飲み水が1箇所だと足りないために、十分に飲むこともできないかもしれません。
動物たちが過ごしているのは、極端に言えばそういう環境なのです。
ゾッとすることを書いてしまいましたが、熱中症は他の病気と異なり、対策と予防ができるものです。特に室内にいるのであれば、冷房をかけること、設定温度を少なくとも25度以下にすること、十分な水を用意することで確実に防ぐことができます。
だからこそ、熱中症になってしまったら飼い主さんは自らをひどく責め、自分を許すことができなくなることでしょう。
心を鬼にして申し上げますが、これからの季節は必ず冷房をかけてください。
人間のことは二の次にして、寒ければ上着を着てください。靴下やスリッパもお願いします。
動物たちの毛皮は脱ぐことができず、自ら冷房のスイッチを押すこともできません。
悲しい症例をこれ以上増やすことがないように、どうか強くお願いいたします。
2024-06-19
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