動物病院HOME < 院長のコラム < 嘔吐下痢は早めに来院を
梅雨真っ盛りですね。連日の豪雨にそうそう、六月ってこういう天気だったよね、と思うこともしばしば。
モチーフによる季節のイメージは非常にはっきりしていて、七月は七夕、笹の葉、短冊、天の川に、キラキラ星、八月ならスイカに浮き輪、海に花火、水着にビーチパラソル、九月なら…と考えて、九月が思いつきませんでした。え、紅葉?紅葉狩り?秋だよね?スタッフに確認する始末。
秋の始まりが9月でそこから11月まで。
最近のやたら長い暑さや、とんでもない台風などでなんとなく季節の感覚が狂っている気がします。
春も桜というより、花粉だもんなぁと情緒のないことを考えてしまいました。
さて、この雨の降ったり止んだりにより、ダイレクトに影響を受けているのが、消化器です。
この二週間、嘔吐下痢の来院件数がとんでもないことになっています。
なかには重症化して入院する子もいて、単純な嘔吐下痢では済まず、深刻な状況に陥るケースもあります。
特に高齢の犬猫たちには厳しいようで、基礎疾患として心臓病や腎臓病をもつ子達は重くなりやすいです。
日頃お薬をのんでいて、病状が安定している子たちが、急速に重症になってしまいます。
いつもいわれることは大体同じです。
「突然ぐったりして」
「朝までは普通だったんです」
「いつもなら吐いてもすぐ元気になるので様子をみてました」
悲しいほどに同じです。
病は突然くるものです。
ですが、意外でもなんでもなく、あたりまえなことなのです。
むしろ、多くの飼い主さんはご自分の動物たちを本当によくみていらっしゃるので、
「二週間前からずっと吐いてます」
「一ヶ月前から食欲がなくて」
なんていう主訴でいらっしゃることはあまりありません。
長く続く異常は、気づきやすいからです。
さて、犬の嘔吐に関して、少し気を付けてほしいポイントがあります。
それは、吐いたあと無理に食べさせないことです。
この場合対象になっているのは、若いわんちゃんでお腹が空きすぎて、勢い余って一気に食べてしまい吐いてしまって、その吐物を慌ててもう一度食べるようなケースではありません。
中高齢以上で、吐いた直後から少し元気がないようにみえたり、食欲自体が減少しているケースです。
この場合、無理に食べさせるメリットがあまりなく、少なくとも半日は食事をお休みして様子を見た方がいいと思います。もちろん糖尿病などの持病がない場合に限ります。
じつは背景に急性の膵炎などがおきていることがあり、食事を無理に食べると余計に症状が悪化するからです。
ご存じの通り、急性膵炎はストレスが引きがねになって起こるとされている消化器症状で、おもに嘔吐、下痢、発熱、腹痛などがみられ、食欲がおちます。
膵臓が分泌する消化酵素が、自分自身を溶かしてしまう、いわゆる自己融解がおきている状態です。
治療は人間と同じで絶食、そう食べ物、なかでも脂質を消化管にいれないようにすることです。その間は点滴により栄養をとります。
お腹を休めないと、膵臓の自己融解が止まらないのです。
急性膵炎の始まりは、たんなる胃炎や腸炎のような一般的な嘔吐下痢が多く、手当てが早く軽度で終われば気づかれずに治癒してしまうことも多いです。
実際、死後の病理解剖で、膵炎の既往歴がないにも関わらず、膵臓に痕跡がみられたケースは七割に及ぶと言うレポートもあります。
ですから、逆を返せば動物病院で入院するクラスの急性膵炎は命の危険が伴うことも多く、その多くが単なる嘔吐や下痢だと思われて、来院するのが遅れたことが一因であることが多いのです。
この遅れた、というのはなんと半日程度のことです。朝数回吐いて、夜になったら取り返しがつかない状態なんていうことも珍しくありません。なんていっても、急性の膵炎、進行が早く激烈に進むことがあります。
安易な様子見は治療の命取りになることが多いので、一度で終わらず数回繰り返すような嘔吐下痢の場合、様子を見ずに速やかに診察に向かってください。
現在、膵炎の診断には感度特異性ともにそこそこよいものがあり、昔に比べて診断しやすくなりました。
また簡便で効果的な治療薬も開発されています。
早急に治療にのぞめば、治癒する率が高い病気といえるでしょう。
ただし、その後の食事管理や投薬などが必要な場合もありますが。
もちろん、単純な膵炎だけではなく、背景に腫瘍や糖尿病、クッシング症候群などがあり、非常に重篤かつ致死的なものもあります。
どちらにせよ、治療が早いに越したことはなく、早期発見早期治療が必要です。
ちょっとはいただけ、ではなくその後の様子をよく観察し、続くようならなるべく早く診察にいきましょう。
この寒暖さと気圧差の激しい季節を越えて、早くお腹事情が落ち着くことを願っています。
2020-07-01
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