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ダニ感染例が出ています
ダニ感染例が出ています

スッキリ晴れ上がる日が続くかと思えば、また冷たい雨が降り、なかなか安定しない陽気がつづきますが、吹きわたる風はさすがに皐月を感じさせる爽やかさ。

春の花粉とおさらばできたので、胸一杯に吸い込むことができる涼風に、インドアの私でも心浮き立つような心持ちになります。

ノミの被害は感染した子だけではありません
ノミの被害は感染した子だけではありません

さて、浮かれてばかりいられないニュースが。

なんと!今年2例目のマダニ症例がやってきました!

まるで寄生虫の教科書の写真のように上まぶたにがっちりと食い込んでいたのは立派なマダニ!

それも血液をお腹一杯に吸い込んだ、飽血マダニの状態です。ということはもう少し前に寄生して、じっくり吸血をおこなっているということ!

お聞きするとご近所しか散歩歴のないわんちゃんで、今年の予防を始めようとしていた矢先の事件でした。

不運としか言いようがありませんが、すぐにでも摘出しなければなりません。

ここでポイントなのは、マダニは蜘蛛と同じく頭部と腹部の2つの部分で体ができているのですが、この頭部の部分にある口の部分がとんがっていて、ここをぶすりと皮膚に突き刺し、頭ごと中へつっこんでその回りをセメント質によって固め、容易には外れないように体を固定していること。

そう、ひっぱってはずそうとすると、頭が皮膚のなかに残ったままになってしまう…!

よって飼い主さんが頑張ってはずすのではなく、速やかに動物病院で摘出しなければなりません。

無事に取り外したあとには、頭の食い込んだ痛々しい穴がぽっかり。しかもその周辺はばっちり腫れています。かわいそうに…。

ノミの場合はこんな風な穴は空かないのですが、マダニは頭ごとつっこんでいるせいで、かなり大きめの穴が開きます。

マダニ媒介性でヒトに感染する怖い病気があります
マダニ媒介性でヒトに感染する怖い病気があります

そして怖いのはこの後。マダニの体内には以前にお知らせしたSFTS(過去のコラム参照 「ダニ媒介性SFTSの恐怖」「SFTSについての新情報」)をはじめとして、人に感染する病気がわんさかあるのです。

詳しくは厚生労働省のwebサイトを確認していただくこととして、ざっとあげても以下のものがあります。

  • クリミア・コンゴ出血熱
  • 回帰熱
  • 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
  • ダニ媒介脳炎
  • ツツガムシ病
  • 日本紅斑熱

よく一緒に予防するノミの場合、ノミのお腹のなかにいるサナダムシのなかまである瓜実条虫の駆虫をしてあげればよいのですが、マダニの場合は遥かに深刻。

人に感染した場合、死亡率も高いものもあるのです。

道路しか歩かない子もダニ感染します
道路しか歩かない子もダニ感染します

寄生される前に予防が何より大切です。

今では錠剤のように飲むタイプ、クッキーのように食べるタイプ、背中につけるタイプと多種多様の予防薬があります。ご自分のわんちゃん、ねこちゃんにあったものを使用しましょう。

「みたことないから」 「いままで感染したことないから」 というのはものすごく希望的観測でなんの根拠もない自信です。それは運が良かっただけか、もしくは気づいていないか。

今回のケースのように本当にこの荒川地区で、しかも土手やドッグランなどにいっていない子に、普通に感染するのです。

個人的にマダニ、ノミの予防はゴールデンウィーク前がいいと思っています。これはゴールデンウィークに多くの方が全国から東京にいらっしゃることで、そこに便乗したマダニやノミたちも一緒にやって来ることが考えられるからです。

そのまた逆もしかりで、東京から地方へ遊びに行き、そこで感染して戻ってきたのち、地元にマダニやノミを振り撒いてしまうこともあるのです。

人と動物の移動は、寄生虫を含めて、多くの感染症を移動させ、蔓延させる可能性があります。インフルエンザや麻疹などもそうですね。

感染症は一人で飛行機に乗ってやってくるわけではなく、誰かに感染して運ばれるわけです。そして運ばれた新天地で新たな宿主を探し、次々に感染を広げていく。

ウィルスが生物か、というのは議論がありますが、少なくとも寄生虫はしっかり生き物です。

子孫を増やすために、どんな犠牲も払う生き物ですので、一度広がると自然に終息するのはなかなか難しいのです。逆に終息するケースはエボラ出血熱のように宿主を短期間で殺してしまうために、次の感染者が出づらく、ひとつの村がみな一気に死に絶えてしまうような恐ろしい場合くらいだと思います。

狂犬病のリスク
狂犬病のリスク

先日、これと同じケースとして、もっと恐ろしいニュースがありましたね。

フィリピンに旅行に訪れたノルウェーの女性が、現地で具合の悪そうな子犬を保護しました。その犬は彼女を噛み、噛まれたまま彼女は帰国。体調を崩してなくなりました。

狂犬病でした。

ノルウェーの一部は狂犬病のない、狂犬病清浄国です。おそらく狂犬病が当たり前に存在する他の国に比べて、現地の動物とふれあうことのリスクを深く考えていなかったのでしょう。

ただ、その子犬を助けてあげたいと言う優しい気持ちからの行為のはずが、感染症にたいする意識の低さにより彼女の命を奪ってしまいました。本当に痛ましいことです。

無知が招いた悲劇
無知が招いた悲劇

では、日本はどうでしょうか?

多くの努力により日本はもうかなり長い間、狂犬病清浄国として頑張っています。

そのために、周りで狂犬病で人や犬がなくなるのを見たことがない人がほとんどでしょう。最近では「国内にないのになぜワクチンを打たなければならないの?」なんて、のんきな声も聞こえます。平和ボケというのはこういうことか…とぞくりとすることもしばしです。

今回のケースのように海外では狂犬病で死亡するのは珍しいことではありません。

また、海外にでかけて、日本国内のように動物とふれあうことのリスクを正しく理解しているかたが多いとおもえません。

可愛い犬や猫がいたら思わず手を伸ばしてしまいませんか?その子が弱っていたら優しさで助けようと思ってしまうのではないでしょうか?

我々のような職業で海外で現地の動物にふれあう場合は、渡航前に狂犬病ワクチンを接種します。

でも普通の方はそれを目的に渡航するわけではありませんから、自費でわざわざ打ちに行かないですよね。

今回のニュースの女性のようなことになるのは、全くおかしいことではないのです。

他人事ではなく、海外に出掛けた場合、そこは日本とは全く違う環境であり、感染症のリスクが多くあることを理解していただきたいと思います。

一度持ち込まれると封じ込めは困難です
一度持ち込まれると封じ込めは困難です

そして今回のケース、国内にないはずのノルウェーで狂犬病によってなくなった方がいる、というのは大変なことです。

おそらくノルウェーの検疫関係はとんでもなく忙しいことになっているでしょう。

感染症を持ち込まれてしまうと、そこから先ほど述べたように一気に回りに蔓延してしまうことがあるのです。

徹底的な封じ込めを行い、絶対に狂犬病が周りにうつっていない、と言う証明が出されるまで絶え間ない努力がつづくはずです。

もしそうなれば、狂犬病ワクチンを打っていない国内の動物たちにも影響があるでしょう。

あらためて法定である狂犬病ワクチンは必ず接種してください。

あのとき打っていれば…とおもっても、そのときはもう遅いのです。

マダニを実際に見たい方は、どうぞ!
マダニを実際に見たい方は、どうぞ!

ちなみに無事に取り除いたマダニですが、飼い主様のご厚意で診察室の寄生虫コレクションに加えることになりました。やったー!!

これで回虫、ノミ、マダニ、瓜実条虫が揃いました。

そういう表現もなんですが、メジャーどころは制覇といってもよいでしょう。

じっさいに本物のマダニを見たことがない方は、是非ご覧になっていただきたいです。

見ると必ず予防しようと心に誓うほどに、グロテスクですので。

いつでもお声をお掛けください、大喜びでご説明いたします!

2019-05-18

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