動物病院HOME < 院長のコラム < ダニ媒介性SFTSの恐怖
すっかり秋も深まり、紅葉も見頃を迎えました。
朝窓を開けると冷えた空気には冬の匂いが混じっています。
ああ、もう今年も残りふた月もないのだと、いつもながら時間の流れの早さにもはや笑ってしまうほど。
きっと体感時間で十年ほどで、現世から常世に住まいを移してしまいそうですが、早く感じるということは充実していることだと思いますので、ありがたさを感じながら、季節を楽しみたいと思います。
さて、恐ろしい報告がありましたので、コラムで取り上げさせて頂きます。
今年八月、宮崎県において動物病院に勤務する獣医師動物看護師が、あとから重傷熱性血小板減少症症候群(SFTS)と診断された猫を診察した際、SFTSウイルスに感染し、約十日後に発症したというニュースが報告されたのです。
これはとても危険な話です。
具合の悪い猫が診察に来て、それを診察した医療関係者が治療の際に感染するというのは今まで報告がありません。
しかもマスクと手袋という防護はしていたのにも関わらず、感染してしまったのです。
SFTSは2011年に中国の研究者らによって発表されたブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新しいウイルスによるダニ媒介性感染症です。
2013年1月に国内で海外渡航歴のない方がSFTSに罹患していたことが初めて報告され、それ以降他にもSFTS患者が確認されるようになりました。
SFTSウイルス(SFTSV)に感染すると6日~2週間の潜伏期を経て、発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が多くの症例で認められ、その他頭痛、筋肉痛、意識障害や失語などの神経症状、リンパ節腫脹、皮下出血や下血などの出血症状などを起こします。
検査所見上は白血球減少、血小 板減少、AST・ALT・LDHの血清逸脱酵素の上昇が多くの症例で認められ、血清フェリチンの上昇や骨髄での血球貪食像も認められることがあります。
致死率は6.3~30%と報告されています。感染経路はマダニ(フタトゲチマダニなど)を介したものが中心ですが、血液等の患者体液との接触により人から人への感染も報告されています。
出典:国立感染症研究所webサイトhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/3143-sfts.htmlより抜粋
以前にもコラムで取り上げましたが、SFTSはマダニが媒介する人畜共通感染症です。
猫の死亡率については啓蒙されていましたが、実際は日本人らしく喉元過ぎればなんとやらで、関西以南に症例が集中していることもあってか、特に関東地方では大して予防意識が上がっているようには見えません。
先月のコラムでも取り上げましたが、マダニより数段遭遇する可能性が高いノミの予防ですら、十分なされていない現状です。
このコラムを書いている11月半ばになっても、いまだにノミに大量寄生され、おそらくご自宅でノミが繁殖しているのが確実な動物達が来院している状態です。
ノミとマダニの予防は基本的に一体型の投薬、もしくはスポット剤ですので、マダニの予防も充分ではない子が多い状況と考えざるを得ません。
またその後にも飼い犬から飼い主の男性にSFTSが感染し発症した例が報告されましたが、幸い対症療法によって人も、犬も助かりました。
ですがそのために大きく報道されることはありませんでした。
今回も幸運なことに、獣医師、動物看護師ともに適切な対症療法を受け、回復しました。
現在、九州地方を中心にSFTSが非常に流行っている状態です。
九州地方の動物病院のなかには、SFTS感染動物が来院したことを受け全館清掃消毒のために休診にした所も出ています。
また現在報告まで至っていないものの、おそらくその可能性があるのではないか、という症例は増加していて、後にまとめられるであろう報告書にはかなりの数が記載される可能性があります。
2018年8月現在、SFTSが犬猫で発症したと認められる件数は、猫51、犬4。猫の死亡率は56.8%、犬は25%です。長崎、鹿児島、宮崎をトップスリーに九州、中国地方、四国、関西地域に発生がみられています。
当然狭い日本国内ですので、人、動物ともに移動が頻繁である関東、東北地方も時間の問題だといわれています。
また昔からマダニの被害は、西日本が多いのですが、温暖化が進み、今年の夏のような酷暑があればマダニの活動域も変化して当然です。
SFTSは有効なワクチン、治療法がありません。今回発症した動物も人もあくまで対症療法で治療しただけで、場合によっては亡くなることも全くおかしくありません。ちなみに人の死亡率は6から30%です。
予防はマダニに刺されないことがメインです。
猫の場合、室内飼育を徹底し、犬の場合、散歩中に草むらや畑などに近づけないことが推奨されています。
また定期的な予防、駆虫が強く推奨されているのはいうまでもありません。
これまでも繰り返し、各動物病院で獣医師がノミ、マダニの予防を推奨してきていますが、ここでもう一度改めて予防をして頂きたいとお伝えさせて頂きます。
飼っている動物が感染した場合、ご自分やご家族の命の危険があること、それだけではなく、感染源として周囲の地域の人たちにも公衆衛生上の迷惑になること、また動物病院などの就業者に感染させ、命を危険に晒す可能性があること。
おそらく予防をしない理由は、「面倒だ」「よく分からないから」「外にあんまりでないから」「感染したことないから」などがほとんどで、できないことに納得できる内容ではほぼありません。
危険であると知ったのなら、きちんとした予防を行って下さい。
幸い予防駆除薬も、食べるタイプ、のむタイプ、つけるタイプと多くの種類が開発され、その子にあったものが必ず見つかります。
月に一回、または三ヶ月継続で効くものもあり、ご家庭での便利さを優先して頂いてかまいません。
正直に申し上げて、予防している方が少なくなれば、感染リスクはひたすら上がるだけです。
ご自身の大切な動物を守るのは、ご自身だけであると思って下さい。
せっかく予防方法がある感染症であっても、残念ですが、人々の意識が変わらなければ、啓蒙が行き届かなければ、自衛に務めるしかないのです。
さて殺伐としたお話はここまでで、今回のモデルはゴールデンレトリーバーのかい君。
大きいけれど、まだ子犬です。この時でなんと18キロ。
病院が好きすぎて、お休みの時、閉まっているシャッターの前で動かなくなってしまうのだとか。
今回は抱っこをせがまれ、喜んで抱っこさせて頂きました。お互いにうっとり。
もう一人は二度めの登場、フレンチブルのつくねちゃん。
ある日飼い主さんが帰宅するとお顔が真っ赤に腫れていました。
おそらく何かのアレルギーによる急性の蕁麻疹ですが、とても痛がゆい!
そして短頭種であるつくねちゃんにとっては非常に危険な状態です。
元からせまい気道がアレルギーによってはれあがってしまうと息ができなくなってしまいます。
急いで治療し、翌日にはこの通り。
こういった急性のアレルギーの子が、このところぽつぽつ来院されていますので、このような顔になってしまったのを見たらすぐに来院して下さいね。
2018-11-19
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