動物病院HOME < 院長のコラム < 避妊手術はした方が良い?
インフルエンザが猛威をふるい、多くの方が風邪やら熱やらに倒れた季節ももうすぐ終わりますね。
それでも、高く青く澄んだ空は、冬らしく静謐な雰囲気を纏っていて、乾燥した風が見えないほどにつもった道端の塵を、枯れ葉とともに巻き上げる様を見ると、ますます寒さが加速する気がします。
二月の節分を境に、運気は新しい所へと移るそうです。
今年、前厄にはいる私は、同じ歳の友人と有名な厄よけ大師にでもいこうかと笑いながら話しています。
さて、良くお話に上る話題を一つ。
Q.不妊(避妊)手術はした方がいいですか?
A. はい
このやり取りはその行間にお話ししなければならない内容が実は山ほどありまして。
まず、犬と猫の違いですが、猫ちゃんを飼われている方はほとんどの方が、雄雌関係なく不妊手術をされている方が多いです。
これはなぜかというと発情兆候が犬よりもかなり強いので、その行動の変化に対応できなくなる飼い主様が多いからだと思われます。
実際問題、発情期のネコの声はとんでもなく(おそらく想像されているよりずっと)大きく、響き渡るようなもので、しかもかなり長い間その鳴き方を続けます。
またどうにかして外にいこうとして、窓や扉を引っ掻いたり、一瞬の隙をついて逃げ出してしまった、なども良く聞きます。また尿のスプレーなども 酷くなり、匂いもきつくなります。家中に漂う臭気に参ってしまわれる方も多いです。
発情に入ってしまって慌てて不妊手術を希望されるケースも少なくありません。
よって、猫の場合は皆さん、割と早い段階で不妊手術をする事になります。
犬の場合、雄はあまり明確に発情兆候が見られません。
基本的には雌の方が発情出血があったり、食欲低下や巣作り行動が見られたり、元気がなくなったり、乳腺と陰部の腫れが見られたりするので、そうと分かりやすいものです。
ですがその程度なので、手術しないと一緒に生活できないというほどでもなく、何故元気で何の問題も無い子にメスを入れなければならないの?と言う疑問は多くの飼い主さんがもたれるものです 。
不妊手術をした方がいい理由は、今の科学では残念ながらそれ以上にその子の寿命を延ばす有効な手段が無いからです。
寿命だけでなく、QOL、生活の質を高いままで健やかに暮らすために、必要な手術だと考えて頂ければいいと思います。
不妊手術をする事によって予防できる病気やそのメリットについては、以前のコラム「避妊手術・去勢手術のお話」でも取り上げていますので、よろしければご参照下さい。
犬は基本的に毎シーズン発情し、本来であればその度に交配し、子供を作ります。 これが、犬にとっての自然なことです。
しかし、通常ブリーダーさんでもない場合、この自然の要求に答える事はできません。
ですから子供を作れないで毎回の発情が起こる と、身体の中の性ホルモンは、自分に魅力が無いからなのかな?もっと分泌しなければ!と頑張ってしまい、またそれに伴うストレスも増加します。
そうして病気を起こしてしまう事が多いのです。
避妊をしないでおこる可能性の在る乳腺腫瘍や子宮蓄膿症は、命を奪う事も在る発生率の高い病気で珍しくありません。
そうなってしまったときは、手術を、という場合もありますが ある程度高齢になってからする手術は、当然ですが若いうちに行うそれと一線を画し、とても難易度もリスクもあがります。
心臓や腎臓、肝臓が弱っていて、麻酔をかける事自体が不可能な事もあります。
それだけでなく、呼吸の抑制や血圧の変化なども、回復力の高い若い子とは異なり、術後の 回復も目に見えて差があります。
簡単に言えば、傷のくっつき方一つとっても全く異なります。
通常、抜糸までは十日から二週間ですが、以前働いていた病院で、生後6か月の女の子のトイプードルが、術後三日でカラーを外し、糸を自分でとってしまった事がありました。
飼い主さんは大慌てで来院され、まだ三日しかたっていなかったので、すわ、縫い直しか…とスタッフが皆身構えたのですが、びっくりするほど綺麗にくっついていました。若いって凄い…とみんなで驚愕したものです。
これは人間の赤ちゃんが、朝に自分で引っ掻いた傷が夜には治っている、と言った回復力と同じ事だろうと思います。 そのくらい身体は正直です。
年齢を重ねれば内臓脂肪もついてきます、見た目が太っていなくても、お腹をあけたらびっくりするほど脂肪があって、 その脂肪に分布した血管からじわじわと出血が見られたり、取り出す卵巣が見えないほどの脂肪が巻き付いていたり、 手術としては同じ術式ながら、難易度が上がります。
また脂肪には麻酔が分布しやすいので、麻酔がかかりにくく、覚めにくいのです。高齢の手術のメリットは全くないなあと、手術を終えるたびに思います。
ある飼い主さんで、二匹の犬を飼われていて、ちょうど一歳にならない子と、五歳を過ぎた子の不妊手術をほぼ同時に行ったケースがあったのですが、その術後の回復の仕方や傷のつき方に本当に驚いていらっしゃった事がありました。
でもこれはあまり無いケースで、普通は比較対象が無いので、飼い主さんがこういった違いに気づかれる事はほとんどないのです。 この違いを目の当たりにすると、早くやってしまった方がいいんだなあやっぱり、と思う事が多いのですが…
不妊手術に関しては、ワールドコモンセンス(世界共通認識)という事があり、推奨されるべきだとされています。
多くの方が様々な考えや想いを持つ中で、まだ残念ながら不妊手術に勝るものは無いようです。
うちは自然のままでいて欲しいのでしないつもりです、とおっしゃる方も大変多いのですが、 今一度、何のために必要なのかというとても基本的な疑問を解決する一助になれば幸いです。
良くあるご質問ですが、とても大切な疑問です。
小さな事だ、と固定的に思わずに、是非相談してみてください。
思いも見なかった誤解が解ける事もありますので。
2015-02-15
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