動物病院HOME < 院長のコラム < 避妊手術・去勢手術のお話
今回は、皆さんも迷われる避妊・去勢手術について、少し、お話しますね。
一般的に避妊手術は女の子がする手術、去勢手術は男の子がする手術として知られています。 避妊手術に関しては、正確な定義からするとちょっと言葉のニュアンスがちがっています。
「避妊=妊娠を避ける」ですが、 わんちゃん、ねこちゃん、うさぎさんの場合、行うのは 女の子では子宮卵巣全摘出術(卵巣のみ摘出する方法もあります)なので、 厳密には「不妊=妊娠させない」手術です。 これは男の子にも使うことのできることばで、 男の子も女の子もまとめて不妊手術として、統一されているところもあります。
ただし、昔から避妊・去勢手術と言われてきましたし、 その言葉を使って誤解が生まれることも少ないので、 両方使って差し支えないと思っています。
ではなぜ、避妊去勢手術が進められているのでしょうか? これには大きく分けて二つの理由があると思います。
女の子のワンちゃんの場合、初めての発情=生理の前に避妊手術をおこなうと、 乳腺腫瘍の発生率を85パーセント予防できることがしられています。 乳腺腫瘍は皮膚に発生する腫瘍の中で、大きな範囲をしめる腫瘍で、できたものの約50%が悪性であるとされています。
また卵巣・子宮の腫瘍では、避妊手術をしてあげれば、腫瘍そのものの発生部位をなくすことになるので、最大の予防は避妊手術といわれています。 ワンちゃんの膣や陰部にできる腫瘍も91パーセントは未避妊の場合とされており、性ホルモンとの関連が示唆されています。(但し猫の場合は違います)
また、死因としていまだ高い発生率をほこる、子宮蓄膿症は、避妊手術をしていない高齢のワンちゃんに起こる病気です。 子宮蓄膿症は昔からよく知られた病気であるもの、特有の症状があまり見られず、見過ごされやすく、気付いた時には手遅れになるケースがほとんどです。
治療法は基本的に手術になりますが、膿をためた子宮から体内へ毒素がまわり、手術をしてもその後、一か月以内に亡くなるケースも少なくありません。
子宮蓄膿症で助かった、という子もいますが、それは九死に一生を得た、ということ他ならないのです。 予防するための薬もありますが、国内では手に入らず、毎発情ごとに注射をしなければならず、高額であるために、メジャーではありません。
また男の子では 肛門周囲腺腫という腫瘍の発生率を下げることが知られているほか、 前立腺肥大や会陰ヘルニアといった排泄の困難を伴うために、発症すると非常にQOL(quality of life=生活の質)を下げてしまう病気の発生も男性ホルモンの関与があり、去勢をしている子には起きにくい病気です。
猫ちゃんの場合、一緒に生活していて困るスプレー行動なども、その行為が始まる前に去勢手術をすれば防ぐことができます。
猫の発情特有の泣き方や行動は、飼い主さんたちとの生活の中では、ストレスを感じられる方が少なくなく、発情期に入ってからあわてて去勢を希望される方もよくいらっしゃいます。
無作為に繁殖され、結局飼うことが出来ずに捨てられたり、保健所に預けられて殺処分される子が後を絶たない現状では、子供を作ることは本当に真剣に検討し、考えなくてはならない問題です。
また、現在飼育されている犬は圧倒的に小型犬が多いのですが、ほぼすべてが、全く安産ではありません。
犬が安産の守り神とされているのは、日本古来からいた和犬は体も大きく、繁殖に適していたからであり、小型犬主体の現状とは全く異なっています。
帝王切開を含め、かかる費用はかなりの物ですし、
その過程で母犬が弱ってしまったり亡くなったりすることもあります。
これは出産に際し、何が起きてもおかしくないといわれる人間とまったく同じなのです。
また生まれた子供が何らかの先天性疾患を持っていたり、想像より多い頭数であったり、 その後の飼育が困難な場合もあります。
避妊・去勢手術のデメリットとしては、「子どもが得られないこと」「太りやすくなること」が挙げられます。
ただし、太りやすくなることに関しては、専用の食事を使うことや、今までより少ない量をきちんと計測してあげることで、 十分に対処できることがほとんどです。
避妊・去勢手術をすることで防ぐことができる病気が本当に多く、デメリットより、メリットが大きいため、一般的な病院では推奨されているのです。 これは world common sense といって、現在のところ世界的に推奨されている考え方です。
もし、今後手術をしなくても、これらのメリットを補うことが出来る何らかの方法が、見つかれば、手術をしなくても済む日が来るのかもしれません。
私は避妊・去勢手術は非常に難しい手術だと考えています。 それは手術技術、所謂、テクニックのことではなく、 健康な体にメスを入れて、健康なままもどす、ということが高度で、本当に難しいことだと考えているからです。
病気で止むをえず、手術をするのとはわけが違います。 また全身麻酔はどんなに短時間だとしても、 リスクがあるのに違いはありません。
それでも、病気に実際になってしまってからでは治療にそれ以上の困難とリスクが伴いますから、特別な理由がない限りは、やはり避妊・去勢手術をお勧めします。 毎回、避妊・去勢手術がその子の人生の中で、最初で最後の一生に一度の手術になりますように、といつも願いながら手術をしています。
健康で、元気に長く、ともに人生を歩んでいく家族として、 予防できる癌を、病気を予防するために、 もう一度、避妊・去勢手術に関して、考えて頂けたらと、切に願います。
2013-12-30
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