動物病院HOME < 院長のコラム < マイクロチップ義務化にまつわる話題
すっかり桜も散ってしまいましたが、街を歩けば花水木の新緑にはえる白、赤、八重桜のこぼれるような重みを感じさせる桜色、相反して地に落ちる椿の赤と季節の変化を花で楽しめる良い季節ですね。
網膜に映る色とりどりの花は、春が最も花に富む季節であることを思い出させてくれます。
花粉や黄砂、PM2.5とのたたかいは継続していますが、春はやはり胸躍るものです。
固くこわばった土から鮮やかな緑が芽吹く姿を見ると、この世界に希望が芽吹くように感じます。
さて、今年6月から、改正された動物愛護法により定められた動物たちのマイクロチップ装着義務化の法律が施行されますね。
現在でも大手のペットショップなどは販売する動物たちにすでに装着済みですが、それが任意ではなく義務化されるわけです。
繁殖を行うブリーダーやペットショップなどの業者は、販売用の犬や猫にマイクロチップを装着し、犬や猫の名前や性別、品種、毛の色のほか、業者名を国のデータベースに登録することが義務づけられます。
また飼い主側も犬や猫を購入する際、氏名や住所、電話番号などを購入後30日以内に登録することが義務づけられます。
よって、6月以降販売される犬猫に関しては、かならずマイクロチップが装着された個体のみになるということになります。
これは環境省のマイクロチップ情報登録の制度に登録が行われ、迷子になった際や災害で離れてしまった際に飼い主を見つけやすいことや安易な遺棄の防止が目的です。
実際、コロナ禍による家から基本的に出ない、またテレワークのため家にいる時間が増えたことなどで動物たちの販売数は増加しています。
こういった環境変化が永続的であれば問題ないのですが、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の解除により、テレワークや出社制限が取り消され、再び仕事による外出などが増加した結果、遺棄される動物たちもまた増えているのです。
ちなみに現在、すでにマイクロチップを登録されていらっしゃる飼い主さんたちに向け、この環境省のデータベースに移行期間が設けられています。これは令和4年5月31日までに移行登録サイトを利用すれば無料で行うことができます。
え?登録先が変わるの?と思われた方、そうなんです。
じつはこれから新たに始まる環境省のマイクロチップ情報登録の制度は、公益社団法人日本獣医師会が民間事業として実施しているマイクロチップ登録制度(AIPO)とは異なります。
また、AIPO以外にもFAMやJKCなどの既存の民間登録団体のデータベースに登録されている方もいらっしゃると思いますが、こちらも同じく環境省のデータベースへの登録を移行期間中に行えば無料です。
移行、といいましたが、実際は既存の登録に加え環境省のマイクロチップ登録制度にも登録を行うことで、今後、転居や譲り受けなど飼い主情報の変更でおこなう手続きが簡便化されるメリットがあります。
詳しくはこちらのページをご参照ください。
すでに飼っている人や、譲り受けた人、保護団体などは装着は努力義務となっているのですが、ぜひ装着していただきたい!と思う事件がありましたのでお話します。
先日、夜の時間にジャンボどうぶつ病院の駐車場に猫ちゃんが来院されました。それもお一人で。
我が病院の副医院長であるゴールデンレトリバーのアリエルが発見したのですが、逃げることもなく明らかに行き場に困った様子で、駐車場の車の下に隠れておられました。
おいでと声をかけると、ホッとしたように近づいてきて、ごろりと転がりお腹を出されたので、これは間違いなく迷子になって困って病院にいらしたのだと思い保護しました。
猫ちゃんは毛艶もよくふくふくとして、全身すこし葉っぱなどがついていましたが、怪我などはしていませんでした。
抱き上げて病院に戻るときも、全く暴れることなく、抱かれなれているのがわかります。外の猫ちゃんたちではこうは行きません。
簡易ケージにお迎えし、ご飯とお水を入れてあげると、にこにこしながらすぐにがっついて食べ始めました。警戒心はどこかに落としてきてしまったようで、これはますます迷子でしょう。
入れたご飯をすべて完食したあとのびのびとお腹を出して寝始めました。
きっとあちこち迷ってここまで来る間に、緊張と不安でいっぱいだったことでしょう。無事にたどり着いてくれてよかった…スタッフ一同胸をなでおろします。
さてここからが本番、首輪はなく、身元がわかるような飾りもついていません。
わかるのは性別、おおよその種と年齢、体重くらい。自己申告で情報は引き出せません。
ぷすぷすと鼻息をたてて健やかに眠る猫ちゃんからの協力は、しっかりたべてしっかり寝てもらうことくらいです。
ではどうやってこの子の飼い主さんを探しましょう?
「よし!マイクロチップ確認しよう!」
そう、マイクロチップが入っている可能性にかけ、読み取り専用リーダーで確認するのです。首から背中辺りにリーダーを滑らせるとピッ!と画面にナンバーが!
登録ナンバーは全部で15桁、この番号さえわかれば登録を確認して飼い主さんを見つけることができます。
「良かったねぇ、ちゃんとマイクロチップいれてもらっていて」
もの言えぬ動物たちが自分の情報を我々に伝える手段は、首輪などに名前や電話番号をつける方法もありますが、これは首輪の特性上、外で迷っている間に外れてしまうこともあるので絶対ではありません。
それに室内飼いをされている犬猫たちは、家の中で首輪をしていないことも多いため、首輪に情報を縫い付けていても、ふとした拍子に家から迷いでてしまった場合、身につけていないことになり有効性は失われます。
よってマイクロチップは話すことができない動物たちが周りの人間たちに自分のことを伝えるほとんど唯一といっていい手段なのです。
皮下組織に埋め込まれるマイクロチップは一度装着すればよほどのことがなければ外れることはありません。入れるときはワクチンなどと同じく一瞬痛みが出ますが、正しく装着すればその後は違和感もありません。
外見的には全くわかりませんし、本人も入っている自覚はほぼないでしょう。
マイクロチップのデータベースに登録されている電話番号に連絡をすれば、飼い主さんとすぐ連絡がつく、というわけですので即日帰ることもできる本当に有効な手段です。
マイクロチップと迷子に関してはこちらのコラムでも取り上げていますので、読んでみてくださいね。
逆にマイクロチップが入っていない場合はどうやって探すのでしょうか?
これは地道な人海戦術でポスターや施設へ連絡等を行い、探しているであろう飼い主さんからの連絡が来るのをひたすらに待つ、という受け身の姿勢でいなければなりません。
保護したこちらからアクションできることが限られてしまい、運が悪いと長期間に飼い主さんに会えない、もしくは見つからない、ということがよくあります。
保護した迷子の犬猫たちにマイクロチップが入っているのは、動物たちにとっても保護した人間たちにとっても、飼い主さんたちにとっても、とてもありがたいことなのです。
実はもう一つ、マイクロチップの有効性を感じたことがあります。
今回、迷子の猫ちゃんに関してポスターやチラシなどを制作する場合の注意点を警察に問い合わせてみました。
すると、想像していた以上のことが……。
まず言われたのは、ポスターやチラシに乗せる情報を極力少なくする、ということでした。
のせるのは犬か猫か、保護した日付、おおよその大きさ、毛色、保護した大まかな住所(具体的な場所はさける)程度。
本人の写真を乗せるのはNG、詳しい種、たとえば柴やアメリカンショートヘアなどをのせるのもだめとのこと。
実は純血種など血統証がついているような動物の場合、資産価値があると考えた悪意のある人間が飼い主のふりをして受け取りに来ることがあるのだそうです。
もちろん純血種だけに限らず、たんにタダで動物をもらいたい、というなんともびっくりな考えで飼い主のふりをする人間もいるのだとか。
ええ、そんなことするの?それはもはや詐欺なのでは……と絶句すること暫し。
実際、飼い主です、ときた人に迷い猫を渡したあと、本当の飼い主さんがいらしたケースもあるそうです。
当然その場合とてつもなく厄介なことになりますよね、想像しただけで震えが来ます。
警察の方のお話では動物たちの迷子は基本的に拾得物と同じ扱いなので、財布を落としたときと同じようなものなのだとか。
飼い主と名乗り出ても確固たる証明がなければお渡ししないようにとのことで、そのために詳細の情報はぼかし、最低限のデータのみを記載して欲しいと言われ、なるほど己の認識があまかったことを実感しました。
今回は幸い、別なルートからも飼い主さんではあるまいか?という情報があり、来院された飼い主さんからマイクロチップデータに登録した住所とマイクロチップナンバーを提示していただき、それをこちらで確認したものとすり合わせて特定したのですが、マイクロチップがはいっていなかったら、確認作業自体がもっと神経質で手間のかかるものになっていたと思います。
今回のケースを見ても、マイクロチップの有効性は二重三重の意味でとても高いとおわかりいただけたと思います。
阪神大震災以来、国の方針としてマイクロチップの導入が進められてきたことの意義を身を以て体感しました。
ちなみに完全室内飼い主の猫の飼い主さん数人に聞いてみたところ、うっかり窓の網戸を閉め忘れた、とか、鍵をかけ忘れた、とかで知らずのうちに猫が外に出ていたことは結構あるそうです。
ヒヤリハットな体験が案外多いことにも驚きました。また犬の飼い主さんたちはリードが外れて逃げてしまった、という体験をされた方もちらほら。玄関のドッグガードの鍵をかけ忘れて、外に出てしまった、というおはなしもありました。
マイクロチップの装着は、いわば万が一の保険です。
うちの子は逃げたりしない、ではなく万が一迷子になってしまったときのために、その動物自身と飼い主さん、また保護してくださった方、すべてのためにかけておくべき保険です。
また迷子の犬猫を保護した人が勝手に飼育し始めることもあります。
悪意があるわけではなく、野良犬、野良猫だ、と思って飼い始めるかたもいて、この場合良いことをしたという考えが背景にあるため、余計に厄介です。
もちろん悪意があり、これは迷子だとわかっていても自分のものにしてしまうこともあります。
私が聞いた話ではロングコートのチワワちゃんが迷子になり、飼い主さんが必死に探したところ、ある方がその子らしい犬を連れていたという情報を得てその方に直接交渉に行ったそうです。
そうしたらなんとそのチワワちゃんはは長かった毛が短く刈り込まれ、外見上別の犬のようになっていた、というのがあります。迷い犬のポスターなどに出ている写真の姿とわざと変えていた、という話で、ぞっとしますね。
その方は自分の犬だと言い張ったそうですが、幸運にもそのチワワちゃんにはマイクロチップが装着されており、飼い主さんが持参したリーダーによって読み取りナンバーを確認したことで、無事に手元に帰ることができたのだとか。
マイクロチップのおかげでこれはうちの子です!と証明することができましたが、つけていなかったケースでDNA鑑定まで行った、というのも聞いたことがあります。
なんとも恐ろしい話ですが、実際にあったことばかり。
今後、6月以降販売される動物たちにはこの懸念はなくなるのだと思うだけで、だいぶホッとしますね。
いままでマイクロチップに関してはなるべくつけていただくように啓蒙してきたのですが、今回のケースを踏まえその意識がより強まりました。
残念なことに花盗人に罪はないのように動物好きには罪人はいないという感覚ではどうやらいられないようです。
現在飼育されている動物たちにマイクロチップが入っていない場合、なるべく速やかに装着してデータベースに登録していただけたら、と思います。
ついでにもう一つ。
今回の猫ちゃんは完全室内飼いであったため、ノミ、マダニの予防薬を使われていませんでした。
ですが今回外に出てしまったことで、ノミに感染するリスクが……予防薬を慌ててつけましたが、たとえ完全室内飼いをしていても、毎月のノミ、マダニの予防薬、フィラリアの予防はやはりきっちりしておくべきだな、と感じました。
2022-04-18
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