大雪から始まった一月後半、急激な寒さと気候の変化に体調を崩す動物達が増加しています。特に多いのは嘔吐、下痢といった消化器症状を主訴として来院するケースです。
よくお聞きすると、普段はあまり散歩をしない子が雪の降ったあと、せっかくだからと長く散歩にでたりしたケースも。 雪の中は楽しいのでしょうけれど、温度の急激な変化に体がついて行かないようです。
特に高齢の子達にはかなり堪えるようで、水を飲んでも吐く、血を吐いた、などの極端な症状を訴える子達もいます。
嘔吐、下痢などの消化器症状は若い動物達の場合は、二、三日で良化する場合もあります。その場合は食欲などは落ちず、お水を飲んでも吐いたりはしません。 高齢の動物達の場合、その様子見に駆けた日数分、悪化することが多く、自力では治癒することができず、下血や血便、脱水、吐血、食欲廃絶などがみられ入院の必要がでてくるケースもあります。
今一度、飼っている動物達の年齢やコンディションを振り返り、この位なら元気はあるし平気!という過信はしない方がよいと思います。
高齢犬や高齢猫であることを自覚するのは飼い主なら誰でも辛いことですが、「今まで大丈夫だったから」が、致命的になる場合もあります。
今回きた動物達の中で、急性膵炎を起こしている子が何頭かいました。
急性膵炎はメインの原因がストレス、というとてもつかみ所がないもので、糖尿病やクッシング症候群のように、もとから膵炎になりやすい状況の子達もいますが、どの動物達でもいつなってもおかしくない病気です。
今回のように降雪や台風、雷のような気候変化、普段は来ないお客様が続いたり、お子さんが遊びにきたりする人為的な変化、普段とは違うことが全て引き金になる可能性があります。 ですから「なんでなったのか?」を探るのは難しく、「なってしまったからにはきっちり治療する」というのが重要になります。
急性膵炎では血液検査である消化酵素の上昇と、急性相タンパクの上昇が見られます。
また来院された状態によっては軽微な上昇しかみられないこともあるので、確定診断として膵特異的リパーゼを検査します。これは基準値より上昇していれば膵炎と確定できますが、上昇していないからといって否定はできないという検査です。
特異性と感度に関して話してしまうと長くなるので省略しますが検査というのはなかなか奥深いものなのです。それでもこの検査項目ができたことで、迅速な膵炎の診断ができるようになりました。
急性膵炎の治療は絶食と点滴です。なるべく食べ物を入れずに膵臓を休ませる事が大切になります。
ですから通常入院をして静脈から持続点滴を行い、それ以外の炎症に対しての治療や二次感染を防ぐための治療などを行います。
ですが高齢の動物達の場合、入院自体が新たなストレスになる場合も多く、残念ながら通院で皮下点滴をせざる得ない場合もあります。
その場合は入院よりも時間はかかりますが、継続した治療を行うことで、ゆっくりとした回復をサポートします。
ところがここで困ったことが。
毎回悩ましいのは、食事です。そもそも食欲低下を主訴に来院されている場合が多く、回復して来ると「食べたがってる!たくさん上げなきゃ!」と喜んだ飼い主さんが色々とご飯を上げたくなってしまうのです。
食べたがっているのに、食べさせないのは至難の業ですね。
先ほどお話しした通り、膵炎は膵臓自体が自分の消化酵素で自己融解を始めているので、そこから新たな消化酵素を出させるようなことはなるべく避けなければなりません。
ですから上げるのであれば、それ専用の食事に切り替えなければならないのです。
しかしこの療法食、普段食べている食事が市販のおいしいものだったりすると全く食べようとしないことも多く、食事に苦慮するケースも少なくありません。缶詰にしたり、手作りして頂いたり、手を替え品を替えの食事の準備で飼い主さんにかかる負担は相当です。
ですが急性膵炎の治療を集中的に行う必要があるのは、きっちり治さないと慢性化し、慢性膵炎へと移行してしまうからなのです。
慢性膵炎になると、食事制限は一生つきまといます。
食事をコントロールしていても、本人が調子を崩すとあっという間にふたたび食べない、嘔吐する、などの症状がでてしまいます。その度に通院や入院になってしまうので、できれば避けたいことです。
膵炎の治療が難しいのは、飼い主さんが思う気持ちが強いほど、制限されることを辛く感じるからかもしれません。
通常、膵炎を疑う症例の場合、以上のようなお話をさせて頂くのですが、初めは「なんでなったんですか?」「原因は?」「食べ物ですか?」といったご質問をよくいただきます。
原因は分からないことが多いですよとお話しして治療を開始し、食欲が回復して来ると「なんで食べさせちゃいけないんですか?」「だってすごく欲しがってるんです」「このご飯食べないんです」「家族が食べさせたがってるんです」となります。
食欲がない時は、食事制限にうんうんと頷けていた飼い主さんも、良化していくに連れて、どうしても食べさせたくなってしまう。
本当に辛い病気だなあとしみじみ感じます。慢性化させないためにしっかり治療しましょう、というお話もするのですが、「それでうちの子は急性膵炎ですか?慢性膵炎ですか?」という質問もしばしば。
骨折などとは違い、なかなか説明が難しい病気であるからこそ、治療も難しいのだなあとよく思います。
どの治療もそうですが、治療の難しさには理解のしやすい病気かどうかも大きく関わります。それを説明してこそ初めて上手くいくのですが、これはお互いの信頼関係でまた大きく変わります。
よく話をして、その飼い主さんが望む形に添うように診療を行うことが一番大切だと思います。
そんな中で、対応に苦慮する場面もしばしばです。
たとえばこういう方がいらっしゃいました。 状況からして精密検査をする必要があるかもしれないので、専門病院をご紹介させていただこうとお話した時でした。
「うちは獣医さんの知り合いの方がいるので、そちらにやって頂きます」と言われたので、それはとてもありがたいことです。信頼できるかかりつけ医さんがいるのでしたら、その獣医さんにいち早くみて頂いた方がいいですよとお勧めすると、「でも、遠いんですよね」とおっしゃいます。
どうしたらいいのか、分からなくなってしまう例です。
また治療の経過から本当は入院したほうがいいけれど、ストレスなどを考慮して通院を選択し、最低でも三日できれば一週間は点滴をしにきてくださいとお伝えして、二日で来なくなってしまう方もいました。
以前テレビで人間のお医者さんが、処方したお薬をきちんと飲みきってもらえないと困ってしまう、とお話ししていましたが、動物達でもこれは同じです。期間を指定したからにはきちんと理由があります。それだけじっくり取り組まなければ、すぐまたぶり返してしまったり、さらに悪化してしまうかも知れないからこそ、通院の指示をしているのです。
その方の場合、飼い主さんからご連絡があり、よく食べて元気になったからいらっしゃらなかったのだということが分かりました。元気でいてくれさえすればよいのですが、治療を中途半端に打ち切ってしまっているので、あとのことが心配になります。
困ってしまう例は他にもあります。
「治療をすべきかどうか、迷っている」
これは高齢期の動物が病気になった場合、どうしても悩む所です。このまま何もせずに見送りたい、という方もいれば徹底的に検査し原因を突き止めたいという方もいらっしゃいます。
強制給餌をするのか、チューブフィーディングを行うのか、麻酔などのリスクのある検査を行うのか、放射線療法や抗がん剤などはどうするのか。点滴はするのか、入院はさせるのか、お薬は飲ませるのか……。
全て一つ一つ考えていかなければなりません。
正解はそのご家庭ご家庭でみな違います。
そしてはっきりと申し上げますが、どの選択肢をとっても皆さん後悔します。治療をしなかった方は、したほうが良かったかなと、治療された方はしなければ良かったのかなと、IFに関して悩むのは、もう人の性なのだと思います。
それは仕方ないことですが、さらに困るのはご家庭で治療への意思が統一されていない場合です。
たとえばお父さんは原因を調べて治療したいと思っているけれど、お母さんはもう無理をさせてくないと思っている。 または娘さんが飼っていた犬をご両親が引き取って飼っていて、娘さんは治療を望んでいないけれど、面倒を見ているお母さん達は治療したがっているなど。こういう場合、獣医師による治療以前の問題です。
ご家族の大切な動物達に、どのようなサポートを望むのか、これをよく話し合って頂かないと、病院で大げんかなんてことになってしまう場合もあります。
これは動物達が一番悲しむ結果になります。病院でご家族同士が刺々しいやり取りをしているのに遭遇すると本当にとても困ってしまいます。
荒々しい捨て台詞を投げたり、ご家族やスタッフをまるきり無視して帰ってしまったり、病院の自動ドアの扉を叩き付けるようにして開けて出て行ったりなどちょっと驚くようなこともあったりします。お互いに気分が良いことではありませんよね。
ご家族とはいえ、皆さん一人の人間ですから、そういう心ない態度には傷つき、後々までしこりを残してしまったりします。
また私たちスタッフも同じく人間ですので、同じように傷つきます。
悩んだり、辛い気持ちを何処かに打ち明けたい、というのは当然のこと。病院にはできるだけその気持ちに寄り添ってお話を聞く用意があります。けれど来て頂いたご家族同士で言い争うような状況だったり、信頼関係が結ばれていないと、病気と闘うことはおろか、目の前の症状に対する手助けさえもできなくなってしまいます。
飼っている動物達の具合が悪くなったとき、それは想像するだけで悲しくなるようなシュチエーションです。
けれど絶対にそういうことはないとは言えません。残念ですがほとんどの動物達は病を得て、年をとりなくなっていきます。
その最後に何をしてあげたいのか、ということをいざその時になったら、辛くても悲しくてもきちんと向き合って話し合って欲しいと切に願います。そして信頼関係がしっかり結ばれた獣医さんのもとで、しっかりと治療を受けて頂きたいです。
そういう飼い主さんとともに、いざという時には正面からその病と闘えるように、私も日々精進したいと思います。
2018-02-02
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