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獣医師のコスチューム事情
獣医師のコスチューム事情

生暖かさが抜けなかった十一月が一転、真冬の本気を見せてきました。

街ゆく人たちの街灯が軒並みダウンになり、私も慌てて冬物のコートをクローゼットから引っ張り出してきました。

院内ではスクラブの上下に着替えて行動しているので、そのままの格好でうっかり外に出るとあまりの寒さに震えるほどです。

でも考えてみれば十一月は厚手のコートを着ていたのが当たり前だったなあ、暖かい日が長くなったなあ、なんてカレンダーを見ながら思いを馳せます。

だいたいこの時期のコラムはいつもと趣向を変えて、獣医領域とは全く異なる話題を取り上げたりしているのですが、さて今年はどうしようか。

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ジャンボどうぶつ病院ではスタッフも私も上下ともスクラブスーツと言われる、いわゆるオペ着を着用しています。

これは仕事中に糞尿で汚れたり、薬剤がついたり色々な汚染が起こることがあるので、簡便に洗濯と消毒を行うことができ、なおかつ動きやすいもの、という視点で選んでいます。

院内での格好は特に決まりはなく、清潔で洗濯しやすい、という前提のみです。

よってどこの病院でも院長の趣味が反映されるので、例えば看護師さんは全員ピンクのワンピースにエプロン、だとか、獣医師はワイシャツにネクタイ、上から白衣、だとか、首元が少し立ち上がっている、ケーシーといわれるものだったりとか、様々ですね。

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大学の時に行ったペンシルベニア大学の動物医療センターでは、看護師さんがスクラブ、獣医師たちは皆スクラブの上に個性的な白衣を羽織っていました。

このスクラブも日本だとあまり見られない鮮やかな色が多く、看護師さんたちはレモンイエローや蛍光オレンジ、ド派手なピンク、まばゆいスカイブルーに、ビリジアングリーン、アニマル柄や迷彩、花柄なども入り乱れ華やかでした。

対照的に獣医師が身につけているスクラブは、ネイビーやダークブルー、ワインレッドなど暗めの配色が多く、その上に白衣が飜る様はなんともかっこいいものでした。

獣医さん用のデザインもあって、犬や猫、鳥やウサギなどのデザインがユーモラスに描かれたものが多かったように思います。

診察に使うスケーラーやハサミ、聴診器につけるネームタグもキリンやワニなどアニマルモチーフのものがたくさんありました。どうやら小児科用らしいですね。

白衣もいろいろな形が出ていて、大学の実習で使っていたのは、そでにゴムの入った、綿100パーセントのものだったのですが、他にもストレッチ素材で動きやすかったり、汚れがつきづらかったり、機能性の高いものがたくさん出ています。

海外のものはデザイン性が高く、面白かったのは白衣の下のズボンに手が入れられるように一見ポケットに見えて切り込みになっているものや、背中で紐を結んで腰の周りを調整するものなど、ポケットがとっても大きくてB5のノートが左右に入るものなど、同じデザインに見えて細かなとところが違い、値段も国内で買うよりも安かったので、何枚か買って帰ったものでした。

実は靴もそれ用のものがあって、サンダルやスニーカーではなく、まるで木靴のように硬い皮で作られたスリッポン型のもので、大型犬に足を踏まれたりしても全く痛くない堅固なものでした。底も分厚く、針を真上から踏んで貫通しても足の裏には刺さらないようになっているのだと聞きました。医局の先生方が皆それを履いているので、やたらに格好良く見えて、売っている薬局を教えてもらい休日に友人と買いに行ったところ、足のサイズが小さすぎてなかなかジャストフィットのものが見つからず、かろうじてギリギリ履けるものを買って帰ったのを覚えています。

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さて白衣の中には何を入れるのか。

実は結構な量を持ち歩いていました。

大学病院で勤務しているときは、三色ボールペン、油性ペン、マーカーペン、よく切れるハサミ、ステックのり、ミニノート、まとめノート、薬用量マニュアル、計算機、スケーラー、サージカルテープ、体温計、聴診器、スマホ、デジタルカメラなどが入っていました。たまにガムテープなんかも持ち歩きました。

白衣のポケットに入れるか、ウエストポーチ的なカバンに入れて腰につけて、MRIの時や手術の時は白衣ごと、もしくはポーチごと外して、専用の処置室に入るので、たまに置き忘れて探し回ることも。

一度色々なメモをまとめたノートを丸ごと何処かに忘れて大学中を探し回ったことがあります。

結局犬舎のかたすみから看護師さんが見つけてくれて、スタバのフラペチーノを奢ったんでしたっけ。

はたから見たらズタボロのノートなのですが、ありとあらゆる知識を書き留めためちゃくちゃ貴重なものなので、なくした時は落ち込んでご飯も喉を通りませんでした。

今だと全てスマホに入れて管理できるのかも。でもアナログな人間なのでどうしたって紙のノートにまとめてしまうんですよね。

デジカメなんてもう持ち歩いていないでしょう。この間見た時はみんなiPadやiPhoneで手術中の記録を撮影してました。動画も撮れるし、そういう意味では本当に記録媒体が進化して機能的になったな、と思います。自分の脳の容量は一向に拡張されないのですけれど。

文房具はこだわる方なので、お気に入りのボールペンとマーカーペン、のり、厚手で水に濡れても破けないしっかりした作りの罫線のないミニノートをいつもストックしておいて、なくならないようにしていました。

実際結構な重さになるので、白衣のポケットがほころびて切れたり、ポーチの金具が壊れたりなんていうこともしばしば。

ポーチも革製で頑丈なものを使っていて、それでもそこが擦り切れて敗れてしまい、お役御免にしたのでした。

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大学病院時代も勤務医時代もスクラブなどは目立たない色のものにしていました。シックな色合いの方がかっこいいと思っていたので。それに血液などの汚れも目に優しい茶色になるので、青や緑、バーガンディをセレクトしていました。

今のスクラブはわざと花柄のド派手なものを選んでいます。

なぜか。

これはひとえに看護師さんと見分けがつくようにですね。

柄の目立つ格好の人が獣医師、というようにわかりやすくしている、つもりです。

実は年齢と性別の関係で、初めて来る業者さんや飼い主さんたちは、私が院長であると気づくことが少ないのです。

まだ獣医さんのイメージは男性なんでしょうね。年齢がもっと上であれば一目でわかっていたでけるのかもしれませんが、まだ貫禄が足りないようです。

「院長先生はいらっしゃいますか?」と聞かれるのに慣れてはいるのですが、「あ、私が院長です」と言った時の相手の気まずそうな顔ときたら!

こちらが申し訳なくなるので、せめて格好が違うようにした方がいいな、と。

うちは基本的に私も受付に立って飼い主さんとお話しするので、いる位置で獣医師かどうかの判断は難しいのだと思います。

受付に立ってる女性イコール看護師さんか受付スタッフ!という発想はあながち間違いではありませんが…。

寒い時は白衣も着るようにしているのですが、これをきていれば獣医さん!と思ってもらえる率は高まります。

でも白衣、動きにくいんですよね。

かがんだり立ったり動いたりまたしゃがんだりする、ずっと椅子に座ったままではいられない診察形態なので、白衣がじゃまだな、と感じてしまって、なかなか着たままいられません。慣れればいいのでしょうけれど、スクラブの動きやすさはダントツなので、なかなか難しい。

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そういえばずっとずっと昔、新卒で勤務していた病院で、「女性獣医師がすごく冷たく対応した!」というクレームが入り、女性獣医師が集められたことがありました。

ところが誰もそのことに心当たりがない、誰かが嘘をついているのか?すわ、火◯サスペンス劇場か?という感じの犯人探しが起きそうだったのですが、よくよく聞いてみると、その冷たい女性獣医師は受付にいたのだというのです。

当時の病院では完全分業制で、受付業務に獣医師が立つことはなく、受付担当の事務員さんと、看護師さんしか応対はしていませんでした。

なにかおかしい?獣医師は処置室かと診察室から出る暇もないのに?

結局、実は受付の事務員さんがその「冷たい女性獣医師」だったということがわかったのですが、なぜ飼い主さんは事務員さんを『女性獣医師』と勘違いしたのでしょうか?

じつは、看護師さんはピンクのワンピース型看護服だったのに対し、受付事務は薄いブルーの白衣を自前の洋服の上に着る、というスタイルだったんです。

ちなみに獣医師は男女共ワイシャツネクタイのうえに、完全真っ白な白衣でした。

白衣イコール医者!という固定概念が生んだ悲劇、あわや犯人にされそうだった我々は白けムードでしたが、その時も服装って大事だなあと思ったのでした。

コスチュームというのは身分を表す重要なアイテムであることがわかります。

病院で白衣やスクラブを見たらその人は医療関係者だと思うでしょう。たとえそれが単なる事務員さんでも。

宅配便の方々の制服を身につけていたら、その業界の人たちだと思うし、学生服なんてその学校を背負って歩いているようなものです。

ですが中身が本当は何かなんて、一見するとわからないどころか、うまく隠れることができるものだな、とも思うのです。

よくスパイ映画などで警察や警備員の服装になって入り込むシーンがありますが、まさにそれ。

これは何もコスチュームだけでなく、年齢や性別などでも言えることですね。

60代の男性と30代の女性が白衣を着て立っていたら、どちらが院長に見えるでしょうか。

当然男性の方ですよね。

実は獣医大学は浪人生や社会人経験者などが多いので、見た目ではその経験値を測れないことも多いのですが、そんなことは世間一般ではわからないことです。

60歳男性で定年退職後に入学した大学一年生と現役で6年生を卒業した24歳の女性獣医師を見てそれが分かるかと言われれば、傍目からではまったくわかりません。

実際童顔で若く見られる友人たちは臨床の現場ではなかなか苦労していて、もう10年以上キャリアがあるのに若造扱いされる、という話もよく聞きます。

逆に私のように年齢以上に見られるタイプは得で、大した経験もないのに妙に信頼してもらえたりもすることがあり、老けて見えることにこれほど感謝したことはありません。

人は固定概念で知らず知らずルックスからいろいろな情報を汲み取っていて、それがマイナスにもプラスにも作用するものだな、と思います。

ですが実際口を開いて話してみれば、見た目以上に情報が得られるものです。

食わず嫌いに近い固定概念は一度捨てて、実際の中身に接していけたらいいのになと思います。

2022-12-05

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