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歯磨き粉の底力
歯磨き粉の底力

九月に入り、一気に朝晩の気温が下がるようになりました。

日中はまだ日差しの中、暑さを感じることもありますが、いったん影の中に入れば冷んやりとした空気に包まれて、ああ、秋がここにある、と感じます。

季節は止まることなく流れ、2022年もあと残すところ二ヶ月半、本当にあっという間に過ぎていきますね。

寒くなれば流行る病気はまた変わってきます。

水分をとる量が減ったことで起こる隠れ脱水、それにより起こる膀胱炎など流行の兆しが見えます。

暖房などを使用する機会も増えていくと思いますので、気がつかないうちに体から水分が失われていくことも。今までよりなるべく水分を取らせる工夫をしてあげて下さいね。

hr

話は変わって、先日、歯磨き粉の底力を実感した症例がきたのでご報告します。

ある朝、口臭が気になるとのことで猫ちゃんが来院されました。

年はまだ若く、元気で毛艶もいいきれいな猫ちゃんです。

口の中を見ると歯に触れている歯肉のみが赤くなって、歯肉口内炎になっています。

加齢に伴って増える歯垢、歯石がたくさんついて炎症がおきている、というよりは若年性の歯肉口内炎がひどくなっているケースでした。

猫の歯肉口内炎はいくつかのタイプがあり、若齢性の乳歯の生え変わりによって起こるもの、中高齢期に長年かけて沈着した歯垢歯石によって起こるもの、そしてそれとは少し理由が異なって起こる難治性で重度の歯肉口内炎です。

生え変わりにともなうものは、人でも起こるものなのでイメージしやすいですね。一時的な炎症と口臭はおきますが、生え変わりが終わる頃には自然と治っていきます。

中高齢に多い年月とともに蓄積される歯垢歯石によって起こる歯肉口内炎は、歯磨きやスケーリングなどで原因になる汚れを取り除き適切な処置を受けることで改善します。状況によって投薬なども必要になります。

最も厄介なのは慢性の難治性歯肉口内炎です。

これははっきりとした原因がまだわかっていません。ですが歯垢や歯石が歯肉に触れて起こる直接的な炎症によるものだけでなく、どうやら免疫的な問題が根本にあり、その子の歯自体や根本に付着している口腔内細菌に免疫機能が過剰に反応して攻撃し、重度の炎症を引き起こすものです。

他にはウイルスなどの感染も関与していると言われ、猫後天性免疫不全ウイルスやヘルペスウイルス、ワクチンにも含まれているのでご存知の方も多いカリシウイルスなどのキャリア(感染)猫に八割以上の歯肉口内炎が認められています。

え、菌やウイルスならわかるけど、自分の歯なのに免疫が反応しちゃうの?!と思われるかもしれませんね。

私もこれを聞いたとき随分と難儀な疾患だな、と思いました。

自分の歯を異物のように認識し、免疫機能で攻撃を仕掛けるなんて、アレルギーみたいですよね。

ではこの暴走を抑えるのは、どうしたらいいでしょうか?

歯自体が敵と免疫に認識されているのでこの場合、最も有効とされている治療は、全抜歯、全ての歯を抜くことなんです。

歯が一本もなくなってしまうの?それって困らないの?

生活していけるの?ご飯は食べられるの?

など当然疑問に思われると思いますが、実際問題として痛みの原因が口腔内にあるよりもはるかに快適に生活ができます。

今まで痛くて食事も満足にできなかった子の食欲が、抜歯の翌日からハチャメチャに上がる、なんていうことも珍しくありません。

もちろんドライフードも食べられるようになりますし、生活に支障は出ません。

犬歯がなくなるので可愛い舌がペロリと口から出てしまうことはありますが、それも何か支障になることはありません。

元来、人と犬猫の歯の数や役割は大きく違います。

消化に臼歯というすりつぶすための歯が重要な人間と、噛みちぎり基本的に丸呑みでも消化に問題がない犬猫は、歯自体の重要性が異なるのです。むしろ歯が痛みの原因になってしまうなら、ない方がずっといい!ということになります。

とても効果的な全抜歯ですが、問題としては根元もぐらつかない強い歯の場合、非常に抜歯に時間がかかる、イコール麻酔時間がながくなることでしょうか。

大学病院にいるときに全抜歯が必要な猫ちゃんの処置に、なんと6時間ほどかかったことがあります。

まだ3歳と年若く元気な猫ちゃんで、全ての歯に重度の難治性歯肉口内炎が起きていたのですが、どの歯も見事に歯の根っこまできっちりと残っていて、奥の臼歯は割って摘出しなければなりませんでした。

よって全抜歯はとても有効な処置でありながら、とてもやっかいなものでもあるのです。

hr

ワンちゃんも猫ちゃんも言えることですが、口に何かを入れるのはとっても難しいことです。

例えば口を開けて見せてくれない子に、画一的に歯磨きをしてくださいと言っても、それが正しい処置であってもできるはずがないのです。

ただこの子は初対面の私が口を開けるときに嫌がらずに見せてくれる子でした。

飼い主さん自身も、お願いをしたところ塗ることならできる、とおっしゃってくださったので、この作戦で行くことにしました。

一ヶ月後、猫ちゃんが再来院し、口の中をチェックすると、なんとびっくり、口臭がめちゃくちゃ減っていたのです!

もちろんそれだけでなく、歯肉の赤みがずっと少なくなり、食事もよく食べるようになったとのこと。

これが歯磨きペーストだけとは信じられず、ものすごく驚いて、思わず飼い主さんに、「どうやって使っていたんですか?」とお聞きしました。

すると、「食後3時間以内に必ず毎食、お母さんが抱っこして、お父さんが口に塗っていた。奥歯は塗りにくいので綿棒で塗っていた」と!

歯垢ができるのは食事をしてから2時間から3時間、と言われています。ですから歯みがきを食後数時間以内にするのは大変理にかなっているのですが、それにしても猫ちゃんでここまできちんと処置してくださるとは!

感激してしまって大興奮でこんなに綺麗になってくれたのを見たことがない!とお伝えしました。

今まで口腔ケアでいろいろな方法にチャレンジしていただいていても、動物本人が協力的ではなかったり、飼い主さん側が毎日定期的にできなかったりすることが多く、それは仕方のないことなのですが、逆にキッチリやればペーストだけでこれほど改善するのだという、いい指標になりました。

口臭が治ったからもうやらなくてもいいものか?ときかれたので、この素晴らしい状態をキープするためには是非習慣化して続けて欲しいとお願いしたところ、結果がはっきり現れてとても嬉しかったから今後も頑張る、との言葉をいただきました。

もう一頭の猫ちゃんにも使ってみようと思う、とおっしゃってくださって、これでこのお家の猫ちゃんの口腔内平和は永遠に守られるな、とジーンとしてしまいました。

口腔ケアはいくつものアプローチ法があります。

最も優れているのが毎日の歯みがきなのは間違いないのですが、それができなくても他の方法をいくつか重ねて、今よりもずっと良い状態を保つことができるかもしれません。

そんな風に希望が持つことができた症例でした。

「でもそんなこといっても、歯ブラシ見せたら逃げちゃうし、口いじること自体絶対無理!」という方、ジャンボどうぶつ病院では歯みがき処置もしています。

飼い主さんからのご希望が多く始めた処置なのですが、月に一回程度の歯磨きでもきちんとすればこれほど綺麗になるんだなあと、私自身が驚くことが多くあります。予約制になりますので、どうぞお気軽にご相談ください。

ご自宅で嫌がってできない子でもひょっとすると病院ではできるかもしれません。実際いらしていただいている子達は病院だといい子にできる子が多いです。どうか諦めずにチャレンジしていただきたいと思います。

2022-10-18

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