院長のコラム

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歯磨きってスゴイ
歯磨きってスゴイ

まだ、私が大学を卒業してはじめて獣医として診察に出始めたころ、 うちには四頭のゴールデン・レトリバーがいました。 二人は10歳、もう二人は7歳で、大型犬としてはシニアですね。 とても良い子たちでしたが、なかなか歯磨きが出来ず、結構な歯石がついていました。 歯肉炎もおきていて、うっすら腫れている様子。 うう、歯周病だなぁ、でも年齢だしなぁ、麻酔も怖いし、どうしようか、と思っていたころ。

ある日、12歳のゴールデン・レトリバーの女の子が、検診でやってきました。 全身をチェックしていく中で、 口を見るとき、高齢な子ほど、それなりに汚れていますから、予測を持って口唇をあげるのですが、(びっくりするくらい歯石がついていたりしますので) その子の口は、つるつるピカピカで、汚れが全くない! もちろん口臭なんてなく、歯肉もピンク色で、まったく炎症もない。 まるで子犬のように美しい歯をしていたのです。

びっくりして聞いてみると、 その子は小さい時から歯磨きの習慣をつけていて、 毎食後、お母さんが歯磨きしているんだとか。 ご飯を食べ終わるとちゃんと足もとに来て、磨いて!とアピールするのだそうです。 なんて素晴らしい!!!

今に至るまで、この女の子ほど美しい口腔内は見たことがありません。 歯石除去のお水やご飯、ジャーキーにスプレー、多種多様な歯のケア用品が世の中にあふれていますが、 それよりなにより歯磨きに勝るものはないのだと、痛感しています。

その後うちの子は麻酔をかけて歯石をとりました。 でも日々のケアさえ、きちんとしていたら、麻酔をかけなくたってあのゴールデンの女の子のようにきれいな歯でいられたはずなのに、 と悔やみました。

歯石とは
歯石とは

歯周病に代表される口腔内疾患は、非常によくお目にかかる病気です。 たいていのシニアの子たちには大なり小なり歯石がついて、歯肉炎が起きています。 実際、肥満の次に多い疾患であるといわれています。

さて、どうやって歯石が作られるのでしょうか?
唾液中には、カルシウムやリンが飽和状態で存在しています。 これらのイオンが歯の汚れ=歯垢(プラーク)内に蓄積して石灰化して歯石になります。

じつは犬の口腔内環境は、アルカリ性(約pH8)なので、人よりずっと早く歯石が作られることが知られています。 あるデータでは5倍速く(約3~5日)で歯石が形成されるのだとか。 歯石の中では細菌は石灰化され、菌としての能力を失っていますので、 歯石自体が直接的に害になる、ということはありません。

が、歯石の表面はでこぼこしていて新たな歯垢を付けやすく、どんどん歯石自体が大きくなりやすい状態になります。 大きくなると歯石が口腔粘膜に直接あたるようになり、表面に付着した歯垢がびらん、潰瘍などおこしたり、穿孔したりすることも、 大きい歯石がじゃまになり、物理的に噛み合わせを障害することもあります。

歯垢は菌のかたまり
歯垢は菌のかたまり

問題なのは歯垢(プラーク)の方です。 この歯垢(プラーク)、最近人間の歯磨きのCMなどでも取り上げられていますが、 非常に厄介なものです。

まず、食べ物を食べると、20分くらいで糖タンパクが歯面に吸着して、薄膜(ペリクル)が形成されます。 その表面に、口腔内の細菌が付着、増殖して、約6~24時間で歯垢(プラーク)が形成されます。

これは細菌をたくさん閉じ込めた袋のようなもので、なかでは多種多様な細菌が共生・拮抗しており、抗生剤が効きにくいことが知られています。 歯垢1mg中に約10億個の細菌がいるといわれており、楊枝(ようじ)の先に歯垢を取ると、その中にはおそらく何百億もの細菌がついていることになります。 (うひゃ~とおもって、正常な反応だと思います)

粘ちょう性があるので、単なる口腔の自浄作用だけでは落としきることができず、次第に歯の表面に溜まっていきます。 だから物理的に歯の表面をこすってきれいにする歯磨きが大切なわけですね。

この歯垢が口の中にずーっとある状態というのは、要するにずーっとこの菌を食べている状態。 これはあまりいい状況とは言えないですよね。

歯垢が引き起こすトラブル
歯垢が引き起こすトラブル

この歯垢に接している歯肉は、菌より炎症をおこし、歯肉炎となります。 歯肉炎から歯周病への移行は年齢を重ねて、多量の歯垢が慢性的に蓄積したり、 歯周組織の防御反応がうまく働かないと、引き起こされます。

歯肉が後退し、歯が抜けてしまったり、 菌が歯の根元まで感染し、根尖膿瘍といって膿をため、顔が腫れあがったり、 腫れた部分に穴が開いて膿が出てきてしまったり。 結果的にあごの骨まで溶かし、骨髄炎をおこしたり、簡単に折れてしまう状態になったり。 様々な病態としてあらわれます。

もちろんそれだけではなく、 増殖した細菌が血液中へと入り、全身流れだし、菌血症を引き起こします。 これは心内膜炎から心不全の原因になったり、糸球体性腎炎を引き起こしたりします。 また口から気管へと誤嚥することで、細菌性気管支肺炎になることもあります。

自覚症状がなくとも高齢の子のレントゲンを撮ると、妙に肺が汚いことがあり、 口が非常に汚れている!!これか!!と思うこともしばしば。  そう、人間と同じで、歯の汚れは万病のもと。歯は命なんです。

ついてしまった歯石を除去するには
ついてしまった歯石を除去するには

歯石が形成されてしまうと、全身麻酔下で超音波スケーラー等を用いて、適切な処置や治療が必要になります。

麻酔をするための検査をした後に、麻酔下で、口腔内の詳しい検査をし、必要ならレントゲンを撮ります。 その後、口腔内消毒してから、超音波スケラー、手動スケラーにて歯石を除去し、歯周ポケット内の歯石を取り、壊死組織や炎症組織を掻き出して洗浄。 抜かなければならない歯はぬき、状況によっては歯肉のフラップをつくり、抜いた歯の穴をぬったりすることもあります。

その後、新たな歯垢を着きにくくするため、歯面を研磨します。 抗生剤の注入を行うこともあります。 ここまでの過程で、結構な麻酔時間がかかります。

残念ながら、汚ければ汚いだけ、歯周病が重度なら重度なだけ、時間は長くなってしまいます。 たんに汚れているものをきれいにするだけなら、2時間くらいで済むものが、 歯を抜いたり歯肉をぬったりする場合は、長ければ4~5時間かかることもあるのです。 全身麻酔のリスクがさらに上がる状況になる前に、処置がしたい、と常々思います。

また、うちは、歯石をとらせてくれるから大丈夫、と爪やスプーンやハンドスケーラーではがし取っているお話をよく聞くのですが、 実際には、歯根面の歯石やプラークは除去できず、歯面には傷がつき、より多くのプラークを蓄積させやすくするだけで、みえないところで歯周病が進行しているのです。

また、おとなしいわんちゃんで、お父さんが千枚通しで歯石をとっていたところ、 歯を折ってしまった、というのを見たことがあります。 とっているうちに、歯が抜けてしまって同時にあごも折れた、という小型犬も見たことがあります。 どうか、ご自宅でのケアは歯磨きまでにしていただければ、とおもっています。

まずは、関心を持つのが大切
まずは、関心を持つのが大切

歯磨きの習慣は、とても大切です。 お口を見ること=口腔内腫瘍などの病気も見つかりやすいということ。 口腔内腫瘍はとにかく早期発見が大切ですから、 歯周病の予防だけでなく、腫瘍のチェックもできて一石二鳥です。

もし今、まだ歯磨きが出来る状況なら、ぜひ、していただきたいです。
もちろん、初めから歯ブラシを使った歯磨きは難しいですから、 どうやって歯磨きを進めていくか、という具体的な方法がわからなかったり、 またそうはいっても、心臓も悪いしもう麻酔もかけられないし、どうしたらいいの?と悩まれている方は、 お気軽にご相談ください。
その子その子の状況にあったケアを一緒に考えていきましょう。
なにより、歯磨きがなぜ必要なのかという意識を待つことが、 歯周病予防の第一歩なのですから。

毎回毎回、長い文章になってしまって、申し訳ありません。そして、最後まで読んでくださってありがとうございます。

2013-11-15

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