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甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症

一足飛びに秋になってしまった感じがする十月です。

今年も残す所、二ヶ月半…、師走の到来にそろそろ怯えなくてはなりません。

秋から冬まではまた加速的に進むのかしら、と気温変化についていくのに苦労している人間の身に対して、暑さの苦手だった短頭種の犬達や大型犬の子達は元気になって参りました。

豊かな被毛も自慢げになびかせてお外に飛び出したくなる季節ですね。

マダニ感染が起きやすい時期です
マダニ感染が起きやすい時期です

しかしちょっと注意が必要です。実はマダニの感染が多く認められるのは、今の季節。

真夏ではなく、今のように少し涼しくなってからなんです。十月から十二月当たりまで結構な数の感染報告があります。

一つにはマダニのいる草むらや山などの環境に出かけやすくなることもあるでしょう。紅葉狩りやキノコ採り、秋のキャンプや釣りなどアウトドアも楽しい時期です。

また予防しなければならない時期の感覚が夏を中心としている飼い主さんが多く、十一月くらいまではなんとかフィラリアの予防とともに行っていても、その後していない方がぐっと増えるのも、感染を広げるポイントかもしれません。

できたら年内いっぱいは予防を徹底して頂きたいと思います。

ちなみにマダニと違ってノミは増減はあれど、一年中感染します。ですから本当はノミ、マダニも通年予防をして頂くのがベスト。

大きな公園やドッグランなど、多くのわんちゃん達が集まる場所にいかれる方は特に気をつけましょう。多くの動物がいるということは、感染するリスクも大きくなる、ということですので。

甲状腺機能低下症とは
甲状腺機能低下症とは

さて、現在進行形で増加中なのが甲状腺機能低下症です。

この長い漢字ばかりの病名は人間でもメジャーな病気ですので、聞いたことがあるかもしれませんね。

犬も猫も甲状腺という気管の横に左右一対、ホルモンを分泌する腺があります。

普通の状態では触っても分からないくらい薄べったい楕円形の組織ですが、実は体にとってとても大切な働きをしています。

甲状腺は甲状腺ホルモンを合成し、分泌します。詳しくいうと、サイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)という名前のホルモンですが、名前を覚えて頂く必要はあまりありません。ただ原料がヨウ素という物質から出来ていることを何となく知っておいて下さい。

このヨウ素は土壌に分布し、水や食物から小腸を通して吸収されます。ですから土壌のヨウ素の多い少ないは結構重要です。実はこれ以外にも体内のカルシウム濃度を低下させるカルシトニンというホルモンも分泌しています。小さな組織ですが色々働いているんですね。

この甲状腺ホルモンは、実は甲状腺自体が合成分泌を調整しているのではなく、脳がコントロールしています。

脳の視床下部から甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が分泌されると、これは下垂体前葉に働きかけ甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌されます。

TSHは甲状腺を刺激し、ここでようやく甲状腺ホルモンを分泌する訳です。この二段構え、さすがホルモン制御機構ですね。

一般的にホルモンが行う仕事は一つの挙動だけではなく、多数に渡るものが多いのです。

甲状腺ホルモンでしたら、

  • 1熱産生、酸素消費の増加:最もメインの機能。寒冷などに対応する。
  • 2タンパク代謝:酵素タンパクの調整、成長期の体タンパクの合成
  • 3炭水化物代謝:組織のアドレナリン感受性を上昇させ、グリコーゲン分解を促進させ、血糖の上昇を起こす。インスリン感受性も上昇させグルコース利用を増加。
  • 4脂肪代謝:脂質の合成分解ともに促進。通常は分解の方が強い。

など複雑な効果を持っています。ですので、調整には何段階にも渡る保険が仕掛けられていることが多いのです。

甲状腺機能低下症の症状
甲状腺機能低下症の症状

では具体的に甲状腺機能低下症になるとどのような症状が出るのでしょうか?

  • 1脱毛……左右対称性の体側の脱毛
  • 2筋肉量の低下に伴う体重減少
  • 3多飲多尿
  • 4かったるそうにねている、元気がない、歳をとったように見える
  • 5食欲低下
  • 6悲しげな表情……側頭筋萎縮によるもの
などが現れます。

原因は最も多いのが加齢です。犬の場合は年齢を重ねると甲状腺ホルモンが足りなくなってしまうのです。

ゆっくりと進むせいで飼い主さんたちには自覚が少なく、「最近年取ったみたいで、老けちゃって」などといわれてしまいますが、それ、甲状腺ホルモンが足りないせいかも知れませんよ!

特に秋から冬の寒冷時期には甲状腺ホルモンの必要量が高まるので、夏にはギリギリ自前の甲状腺ホルモンで足りていた子でも、この季節は足りなくなってしまいやすいようです。

また元々低下症でお薬を飲んで補充している子でも、やはり少しお薬の量を増やさないと追いつかないことがあります。

投薬を初めてすぐ効くタイプのお薬ではないため、気がついた時に早めにはじめるのが大切です。

適切な投薬で良くなります
適切な投薬で良くなります

以前、どうしても投薬に抵抗があり、低下症だと分かっていたものの頑にお薬を使いたがらなかった飼い主さんがいらっしゃいました。

そのわんちゃんは実は皮膚の状態も非常に悪く、年間を通してかなりマメなケアをされていましたが、お薬を使わないでコントロールすることは困難でした。

ですが二年かけてお話をし、体の恒常性のためにホルモンを補って欲しいこと、平行して分子標的薬を使って副作用の少ない痒みのコントロールをおこなうことをお話しし、投薬をはじめた途端、おどろくほど改善しました。

そう、皮膚病とも甲状腺ホルモンは密接に関係しているのです。

よく話をうかがってみると、飼い主さんがお薬を使いたがらなかった訳は、ずっと昔、飼っていらしたわんちゃんが抗がん剤の副作用で苦しんだからでした。

しかし実際には、何十年前につかわれた抗がん剤と、甲状腺ホルモンのお薬や分子標的薬は、全くの別物といっていいほど作用機序も効果も違います。どういった効果があり、どういった副作用があるのかをきちんと説明を受けた上で、投薬ができればわんちゃんのQOLは劇的に高まります。

事実、そのわんちゃんは投薬してすぐに驚くほど深く眠れるようになりました。これは薬に鎮静効果がある訳ではなく、痒みのせいもしくは寒さのせいで、夜十分に眠れないのが改善したためです。

もっと早く投薬していれば…と飼い主さんは後悔していました。

お薬は日進月歩の進化をとげ、副作用が少なく安全性が高いものがたくさん開発されています。

昔のお薬のイメージだけでいたずらにお薬を避けるのではなく、きちんと説明を受け適切な投薬を行いましょう。

正しい情報と合理的な治療
正しい情報と合理的な治療

一番悲しく思うのが、それが正しいかどうかの判別がつかない方が、自己流でネットの情報を鵜呑みにし、インチキ医学のような知識にまどわされて、獣医師の説明をまともに聞く耳を持てなくなってしまうことです。

エビデンスにのっとった治療を行うことが出来ず、酷く長いこと苦しい状態においてしまっている場合もあります。これは多くの獣医師が経験していることですが、大変残念でなりません。

疑問に思ったら調べることはとても大切です。ですがその根拠となる知識が、見知らぬ誰かのブログでは話になりません。

どの病院でも、基本きちんとしたデータのある論文をベースとした治療を行っています。

疑問があるならば是非、かかりつけの動物病院にご相談下さい。

2019-10-15

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