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飼い主はかかりつけ医?
飼い主はかかりつけ医?

夏の名残がまだ空に張り付いて、日中は熱さにげんなりしますが、それでも夜になれば少し冷えてきた空気に、ようやく秋を感じることができるようになりました。

今年の夏はひどく気温が高く、その疲れが今の季節の変わり目にでてきているように感じます。

これは室内で長く過ごした動物達も同じで、夏バテなのか食欲が落ちたり、お腹を壊したり、原因は分からずとも元気が出ない動物達もいます。

夏の間に体重が増えている場合は、基本的にあまり心配ないのですが、減ってしまっている場合は秋冬に備えて一度健診をお勧めします。

知らないうちに腎不全が悪化しているようなケースもあるので要注意です。

絶対に見逃してはいけない症状
絶対に見逃してはいけない症状

多くの飼い主さんは非常に敏感に動物達の変化を感じてすぐに来院されるのですが、なかには基本的なことを知らないために来院が後手後手になり、結果として致命的な判断ミスをする場合があります。

たとえば猫の場合、二日食事をとらないと、肝臓が脂肪に置き換わる肝リピドーシスになります。

また犬猫関係なく結石などが詰まって尿が二日でなければ、急性腎不全で尿毒症を起こし死亡します。水を二日のまなければ脱水により体に致命傷を受けます。

これらは非常に有名なことで、知らない方はいないと思いますが、二日という短い期間の変化なので、気がついた時に手遅れになっている場合も多いのです。

それでも普通二、三日食べない、水を飲む量が少ない、ですと来院する時期として決して遅くはないのですが、今年の夏は異常気象だったため、その二日で腎不全になって入院したケースもありました。

またおそらく熱中症を起こし、その日はなんとか生きながらえたものの、結局内臓に受けた障害はリカバリーできず、四日後に死亡した例もありました。

こういった事例を含めても、通常、一週間以上の食欲不振は異常です。

何がきっかけになるかは分かりませんが、手で上げれば食べる、おやつなら食べるけれど、普通のご飯を食べない、などは背景に腫瘍や心不全などの重大な病気が潜んでいる可能性があります。さらに二週間以上の場合重大な疾患が隠れていることが強く疑われます。

全く食べない、でなくともいつもの食事を残す、であってもすぐに来院して下さい。

私の後悔
私の後悔

昔、私が学生時代から飼っていたゴールデンレトリバーは元から食が細い子でした。さほどがっついて食べることもない彼がある時少しだけ食事を残すようになりました。でもとても元気で、いつもと同じように散歩をし、同居の犬達と遊びます。排尿も排便も異常はなく、「あれ、なんか気分がのらないのかな?」と思っていました。

二週間続いて、流石におかしいと思い母に病院へ連れて行ってもらうと、脾臓に大きな腫瘍ができていました。その病院では手術して助けることさえもできないほどの。

どうしてもっと早く、病院へ連れて行かなかったのか。私は当時就職したての新米獣医師で、仕事に慣れることでいっぱいでした。忙しさにかまけて、そして彼が具合が悪いことを認めたくなくて、なかなか病院へ行くように指示ができなかったのです。

これほど後悔したことはありません。

異常に気がつきながら、これくらいはまあ普通かな、と自分に言い聞かせ、動物病院に連絡すらしなかった自分は、この仕事に就く資格はないと思いました。

かれは別の病院で手術を受け、そして二週間経たずに亡くなりました。

全ては私の責任でした。

誰のせいにもできません。

食欲不振の定義を、きちんと知らなかった私のせいなのです。

だって、少しは食べてたし、おやつは食べてたし、元気だった。

気付けるのは飼い主さんだけです
気付けるのは飼い主さんだけです

獣医師として十年以上勤務している今、私と同じように考えてなかなか連れてこない飼い主さんのいかに多いことか。

教科書には具体的に何日食べないと異常などという表記はありません。それは常日頃、一緒に暮らす飼い主が判断することで、通常の生活との差が基準となるからです。

飼い主はまず第一のかかりつけ医なのです。

それとは別に上記したように、これは絶対に駄目!という基準があります。これはむしろ動物を飼う最低限の知識であり、知らないではすまされないことです。

もし知らなくとも、おかしいなと思った時点で、動物病院に電話をし「こういう様子ですがどうせしょうか?」と聞くことは簡単です。その手間は惜しまれるものではありません。

自らインターネットで調べることもいいでしょう。また詳しい方に聞くのもひとつですが、残念ながらその正確性を判断する能力がないことが殆どだと思います。

また正しい知識を対面で説明していても、はっきりと申し上げれば七割から六割しか伝わらないことが多いのです。 医療関係者の方々はまた違いますが、そもそも専門用語を噛み砕いてお話ししても、わかりやすい単語を使った分それに捕われて、本当に説明している内容を耳からこぼれ落としてしまうケースもたくさんあります。

驚くような行き違いもあります
驚くような行き違いもあります

例えば以前、うさぎさんの爪きりでいらした飼い主さんがいらっしゃいました。このかたはそれまで一回しか来院されておらず、しかもその時から一年近くいらしていない方でした。動物病院に来なれていらっしゃらない飼い主さんです。

うさぎさんはかなり長く爪切りをされておらず、長く魔女のようにのびた爪が巻いてしまい、足裏に触れていました。また数本の爪が既に折れていて、通常皆大体同じ長さであるはずの爪が、まちまちの長さになっています。正直に言うと虐待かな?と思うほどひどいものでした。

「おかあさん、爪が三本ほど折れています。長過ぎる爪は折ってしまうだけでなく、床材に挟まったり引っかかったりして足を骨折してしまうこともあります。もっと短い期間で、定期的に爪切りにいらして下さいね」

と説明しました。飼い主さんのご様子からわざとではなく、たまたま連れてくるタイミングが遅かったのだろうと判断したからです。

ですので、なるべく単純で優しい言葉を選び、もっと細やかなケアが必要なことを説明しました。

その時は納得していた様子の飼い主さんから夕方電話がありました。

「あの?足の骨が三本も折れているのに、何も処置はしないんですか?」

「??」

「主人と娘に足の骨が折れてるっていったら、なんで治療しないんだといわれて…」

目が点になりました。

折れているのは爪ですし、足が折れているなどとは一言もいっていません。

また折れていた爪も、随分前に折れたものらしく、傷などにはなっておらず普通に短い爪になっていたことも説明したからです。

「ええと、折れているのは爪で、それは定期的に切らずに放置していたせいだと説明しましたよね?」

「はあ、そうでしたっけ」

「いや、骨折していたらまず普通にお返ししませんし、おおごとになってますよ?爪を伸ばしていると折れてしまうリスクがあるから気をつけてケアに通ってくださいね、とお話ししましたよ」

「あら、私折れているという言葉だけで驚いてしまって、ちゃんと聞いてなかったんですね…」

動物病院との関係性
動物病院との関係性

これは病院としては非常にこまったケースです。なぜなら信用問題に関わるからです。言ってもいない内容をまるで言ったように、間違って伝えられては、せっかくの説明も好意も台無しです。

このときはすぐにご主人と娘さんに連絡をして頂き、心配をぬぐってもらいました。またご自身が話を理解できておらず、他の方に間違った情報を伝えてしまっていることも説明していただきました。

けれど、この時に自分が説明した内容の理解度は自分が思っているよりもずっと低く、また簡単な言葉を選んでも、骨折のように意味が強い言葉に引きずられて本来伝えたい内容が伝わらないのだということを、痛感しました。

こういう意思疎通が上手くいかないケースは、総じて「狂犬病ワクチンなどの義務化されたワクチンがなく、滅多に動物病院にいかない動物たち」で「そもそも飼い主さんご自身が動物病院になれていない」状態で、「定期検診などには行かず具合が悪くならないと連れて行かない」考えの方の場合がほとんどです。

そのために知識が制限され、病院とのコミュニケーションが上手くとれず、いざの時には緊張してしまい聞いた内容を理解できない、もしくは覚えていられない、といった事態が起きてしまうようです。

これでは負のループです。

一番大事なのは協力体制
一番大事なのは協力体制

自分で不調を訴えられない動物達が長生きするためには、飼い主さん、かかりつけの動物病院、二次診療施設、救急施設、この四者が四角形を作りそのうえに動物をのせて運ぶイメージが大切です。どれが欠けても上手くいきません。

例えば、大学病院のような二次診療施設に偏りすぎては、小さな疑問や軽微な不調はみてもらえませんし、緊急時の対応は専門が行った方が当然効率がよいのですが、緊急以外は対応しませんし、飼い主さんが気がつかなければそもそも診察が始まらず、かかりつけ医がなければ日常ケアの相談や二次や専門への紹介もおこなわれません。

全てが互いを信頼し、中央にのっている動物達を守る気持ちでいなければ、決して獣医医療は上手くいかないのです。

コミュニケーションはただでさえ難しいものですが、病気という異常事態の前ではさらに困難を極めます。

たまに転院されてきた飼い主さんから「前の獣医さんが信頼できなくて…」という非常に悲しい言葉を聞くのですが、そういった場合たいていは、おそらくその獣医さんもこの飼い主さんを信頼できていないだろうな、と思うようなお話がぽろぽろできててきます。

どちらが悪いのではなく、お互いにうまくコミュニケーションがとれていないのです。

人間同士のやりとりなので、合う合わないは絶対にあります。けれど最初から相手にあわせようとする努力がお互いにないのは切ないものだな、と思いながらお話を聞きます。

しかし、最終目標が大切な家族である動物を助けたい、ということであれば、自ずととるべき姿勢は決まって来ると思うのです。

どの子もかけがえのない家族です。

その子のために何ができるのか、今一度考えてみる秋にして頂けたらと思います。

お楽しみコーナー
お楽しみコーナー

さて今月のモデルは可愛いフレンチブルドックのぽんずちゃん。

病院が好きでお休みの時でもシャッターの前で開くのを待ってしまうのだとか。とっても素敵なコスプレを披露してくれました。

じつはぽんずちゃん、ジャーキーが喉につまって九死に一生をえたわんちゃんです。

そのジャーキーを飼い主さんのご厚意で写真にとらせて頂きました。

実際触るとかちかちで、とても手でちぎれる堅さではなく、重量もあって釘が打てるほどです。

注意書きには切ってあげても、そのままでも、と書いてありましたが、切って上げて詰まってしまったので、それもどうなのか…。

結局細かく切ってお湯でふやかして与えて頂くことにしましたが、皆さんもどうぞお気をつけ下さい。

2018-09-04

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