動物病院HOME < 院長のコラム < 衝撃の米国研修(前編)
ゴールデンウイークも終わって、新しい環境にも慣れてきた頃合いでしょうか?
次は、梅雨に突入!と考えなければならない日本の四季は
慌ただしいものですね。
動物たちのことでいえば、この時期から皮膚の状態が夏に向かって加速度的に悪くなる子も多いので、 要注意です。
かゆがり方やフケの出方など、背中の毛を逆毛を立てるようにひっくり返して、 みてみてください。 また、万歳をしてもらって、体の内側もチェック! ぽつぽつと湿疹があったら、細菌性膿皮症の可能性もあります。
尿がついたり、皮膚同士がふれあって蒸れやすい内股は 皮膚も柔らかく、悪くなりやすいところです。 なめ壊してしまうことが良くあります。 見つけたら早めに来院してくださいね。
前回のコラムではちょっとしんみりするお話しになってしまいましたので、 今回は獣医学生のときに行った海外の大学のお話を。
大学六年生の夏に、海外研修というのがあって、 希望者がアメリカのフィラデルフィアにある、ペンシルバニア大学で約二週間、 病院実習ができる機会がありました。
余談になりますが、日本の獣医を取り巻く現状は未だ、本場ヨーロッパ、アメリカのものに比べると、 あらゆる意味で歯がゆいような状況です。
それは獣医医療が、というよりも根本的にはどうぶつを取り巻く環境が 全く違うせい、といっても過言ではありません。
ワクチンの接種率、動物と人間と心地よく共存するという意味でのしつけの普及、 近親交配や乱交配のない病気の予防という観点からのブリーディング、 遺棄される動物の数、獣医医療に関する意識とそれに伴うコストへの理解、 などなど、むかしから諸外国に対して日本は30年遅れている、といわれてきました。
多くの優秀な諸先輩方が必死で、努力しているため改善もみられますが、 まだまだ、遅れを取っているといえるでしょう。
法的に定められている狂犬病ワクチンですら、きちんと接種されていないのが残念ですが、日本の状況を表しています。 接種頭数が法的な絶対数ですから、法律に働きかけたりするには、実際に飼育されている数より、動物の絶対数が足りず、 マイナーだからと、後回しにされがちな気がします。
そんな訳で、本場アメリカの獣医医療をみたい!と参加しました。
見たかったものの一つに、猫の腎臓移植の現状と、人工透析についてがありました。 ペンシルバニア大学では猫の腎臓移植がチームで行われていて、 実績数もたくさんあったのです。
猫の腎移植は慢性腎不全になった猫(レシピエントといいます)に、ドナーとなる猫が腎臓を提供します。 腎臓は二つありますから、健全な腎臓なら、一つでも十分機能することができるのです。
老齢猫の慢性腎不全は至極一般的な病気で、 治療としては主に点滴、活性炭の投薬、ACE阻害薬の投与、腎臓用の療法食、腹膜透析などが 行われています。
今一歩踏み込むと、透析や腎臓移植になるのですが、 実際には透析は中毒などの急性の腎不全、 もしくは腎移植を控えているが、手術のリスクに耐えられない慢性腎不全の術前処置として行われていました。
印象的だったのは、ドナーの猫は腎臓をもらったレシピエントのお家に引きとられることでした。 腎臓を一つしか持たない二匹の猫は、同じうちで寿命を全うするまで生きていくのです。
そういった臓器の兄弟ともいえる状態で、幸せに過ごしている猫達が行った先が、 泌尿器科の壁に貼られたおおきなアメリカ全体の地図に、ピンで示したありました。 そこに、行った先のお家での、ツーショットの写真なども貼ってあり、 その家でどれだけ大切にされているのかが忍ばれました。
また、透析は新生児用の透析用チューブを使って行われていましたが、 やはりコストが最大のネックになっているようでした。 体の小さすぎる個体にも向かず、大型犬での使用が研修中には多くありました。
一番衝撃的だったのは、やはり安楽死に対しての考え方でしょうか。
エマージェンシーサービスという、救急専門の科の研修中、 一頭の大型犬がだるそうに運ばれてきました。 検査の結果、肝臓に大きな腫瘍があり、余命4ヶ月と診断されました。
そこまでを聞いて、オーナー様が検討したいとおっしゃったので、一度診察室を出ました。
5分くらい経って、タオルをかけられた犬がストレッチャーで運ばれて出てきました。 ついていた看護師さんにきくと、処置をしたとのことでした。
残された時間がたった四ヶ月ならば、 苦しませたくないからと、安楽死を希望されたのだそうです。
日本ではおそらくあまりみることがない光景でしたし、 さっきまで息をしていた子が、この短時間で天国に旅立ってしまった状況が しばらく理解できずに呆然としてしまいました。
看護師さんは、ここでは良くあることなの、といっていました。
経済的な面でも、治療には費用がかかります。 残された時間がわずかで、完全に治癒することがないなら、安楽死という選択もアメリカでは一般的なんだと、国民性の違いに驚いたのでした。
同時に、アメリカでのデータをそのまま、日本に当てはめることはできないと思いました。 環境も考え方も、飼育されている犬種も猫種も、その生活スタイルもこんなに違うのに、 データの数字だけを取り出して比較するのは無理があるものが多いのではと強く思いました。
重い話になってしまいましたが、前篇はこのあたりで。
次回は少し肩の力を抜いて、思わず笑ってしまうような衝撃のエピソードをご紹介します。乞う、ご期待!
2014-05-15
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