ようやくの梅雨明けに、夏が来た!と実感する暑い日々がやってきましたね。
数年前の酷暑よりはマシ、とおもいたかったのですが、どうやらいい勝負のようです。
日中外に出れば、頭皮から流れ出る汗が瞼にかかるのを拭う始末。なにより熱い、ジリジリ肌や頭が焼かれているのが分かります。黒髪の切なさをこんな所で味わうとは……。
実は黒ラブや黒ポメ、黒のチワワちゃん達、黒色被毛を持つ動物達は我々日本人と同じく熱を吸収しますので、より気をつけて下さいね。
年を重ねてから顔に以前はかかなかった汗をかくようになり、マスクをしているのをいいことに化粧をしない生活に邁進しています。
そうはいっても、そもそも仕事中はほぼしていないのですが、この暑さで化粧が崩れない方法がわかりません。いつもきちんと美しく装っていらっしゃる女性の皆様に尊敬しかありません。努力する方向が迷子なので、一度したら一週間くらい持つお化粧が開発されることをおとなしく期待したいと思います。
さて、今回は死の感覚のお話をしようと思います。
少し苦手に思われる方がいらっしゃるかもしれませんので、その場合は今回のコラムはお休みして下さいね。
人様にきちんと語れるほど死生観を持っている訳ではないのですが、この仕事をしていれば死を感じることは非常に身近なことです。
通常の診察をしていても、最悪の症状やコンディションに遭遇することは珍しい事ではありませんし、どれだけ安定している動物達であっても、最も悪い結果が出ることを想定しないことはありません。
かつて獣医学科の生徒として大学の門をくぐった時に、果たして自分が助けることができる命の数は生涯をかけてどのくらいなのか、と考えたことがありました。
卒業後の進路は初めから臨床現場、要するに今の仕事スタイルをめざしていたものの、大学の諸先輩、諸先生からは、大学の研究室の残ってより良い治療法を研究をすることや、新薬を開発することなどのほうが、結果的に相当数の動物を助けることになる。それは臨床現場で365日不眠不休で働いて一生涯かけても追いつかない数なのだとさとされたこことがきっかけでした。
確かに一つの新薬、新しい治療法は、それが成り立てば世界中の何万頭の動物達を救うことになります。それは末端である臨床現場ではまず不可能な数です。
実際研究に進まれる先生達はそういう想いを胸に秘めて働いていらっしゃると思います。
また公務員などを志せば、今回の感染症などの対策に関わり、動物だけでなく人間の生活も守ることができるのです。
獣医師の進路は幅広く、一般臨床以外に、研究所や大学関係、一般企業ではフードメーカーや、雑誌関係、マスコミ関係、国家公務員や地方公務員や科学捜査警察など多種に富みます。それぞれの獣医師が自分の信念に照らし合わせ進路を選択します。
みなさんの獣医さんの印象は一般臨床のいわゆる動物のお医者さんだと思いますが、実はそうでない獣医師の方が多いのです。
でも、例え助けられる数が少なかったとしても、私は臨床の現場に行こうと思いました。
たとえどれだけ質の良い治療法が分かっても、より良い薬が開発されても、それを手に取って使うのは末端で働く臨床獣医師です。
正しくそれらを扱い、きちんとした説明とともに治療をし、死をデータとして捕らえるのではなく、肌でぶつかり合って競り合うのは現場でしかないのです。
実は、強く死を感じる時があります。
よくある怖い話しのように黒い影みたいに?
それとも物語に出てくるような死神のようなルックスで?
いいえ、違います。
今、ここで命絶たれんとしている動物の緊急処置をしている時、まるでラグビー選手がスクラムを組んで、必死に自陣から敵陣に突っ込んでいくような圧力を感じるのです。
実際、もっと具体的な感覚です。
大きくて分厚い壁に右肩を押し付けて体を傾けながら全力でこちらに進んで来るそれを押し戻そうとしている感じです。
スターウォーズのエピソード4で、両サイドから壁が迫ってきて主人公達が押しつぶされそうになるシーンがありますよね?
あれの片側の壁だけのようなイメージです。
突然の映画のお話で申し訳ないのですが、スターウォーズ大好きです。旧作が好きですね、ハン・ソロほどかっこいい悪漢はいないと思います。
押し返している時に考えることはたった一つ、この命を助けることです。
即座の診断と検査、薬と処置、全身が死と戦うためにアドレナリンを出し、集中力が異常に高まり、普段以上のエネルギーと精度でもって治療に当たります。
じりじりと圧力と押し合うその間に、刻一刻と変わる症状と状況、処置への反応や薬の反応を見て、即時に治療を追加、必要なら変更していきます。
脳の一部が酷く冷静に物事を判断している時に、体はその大きな圧力と押し合うような感覚を得ます。
恐ろしい圧力がかかり続け、目の前が暗くなりそうになっても、一瞬でも自分が諦めれば一気にこのまま押し切られる、というのが分かるのです。
それこそ、少年漫画の主人公のように「うおおおおおおお!!」と怒鳴りながら、こちらが相手を押し切るまで必死で治療を止めないようにするのです。
ある地点になると、すっと圧力がきえ、こちらの陣地が広がったのが分かります。
これは、この数年で急速に感じるようになったもので、それ以前は全身を覆う恐ろしく冷たい不安のような漠然としたものでした。
ひたひたと体が冷えていく感覚、気づくとそれに全身が包まれている、そういう夢をよく見ました。
今は夢の中でも治療をしていることが多く、漠然としたあのうす青いもやのようなものは見なくなりました。
どうして感覚が変わったのかは分かりませんが、眠っていても戦っている自分はなかなかすごいなと思いつつ、ちゃんと休む方法も会得しなければならないなとも思います。
けれど、その圧力を永遠に退けることはできない。
なぜなら、生を受けた瞬間から、生き物はすべからく死に向かって歩いくものだからです。
それは人であろうと、動物であろうと、植物であろうと変わりません。
中にはある種のクラゲのように不死に近いメカニズムを持って存在する物もいますが、それは非常に稀なケースです。
自ら死に歩み寄っていくうちに、死の壁が今までとは違う速度で急に迫ってくることがある。
そのとき、医療という武器を上手く使えば、その壁をもう一度あるべき位置まで押しのけることができるかもしれない。
人によっては、その壁の近接を運命と呼ぶのかもしれませんし、実際理不尽な事故などのようにそうとしか思えないこともあります。
けれど、もし戦う方法が残されているのであれば、やはり戦うしかない。
例え、いつか死を迎えるとしても、今ではないと言い聞かせながら。
私だけではなく、医療関係者はそうやって、死と戦っているのだと思います。
そういう仕事なのだということが、少しだけでも皆様に伝わるといいな、と思います。
2020-07-15
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