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痛み止めの驚くべき効果
痛み止めの驚くべき効果

全国的に梅雨入りした途端、急に夏の日差しに変わりました。皆さんはこの変化についていけていますでしょうか?

あまりに強い直射日光に半ば魂ごと蒸発しそうな気持ちになりましたが、そんな軟弱な大人がいる一方、街をいく子供たちがプールのバッグを持って嬉しげに登校する様子に、夏の楽しみ方を思い出しました。

とはいえ、暑いものは暑く、むせかえるような湿度、これは動物たちには非常に危険です。毎年のようにこの季節の変わり目には熱中症への警戒を呼びかけていますが、今年もすでに発症してしまった犬猫が来院しておりますので、繰り返し注意喚起をしたいと思います。

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最近実感しているのは、同じ人間であっても体感温度がかなり異なるということです。

熱中症予防を呼びかける上で、飼い主さんたちから家での冷房使用率をお聞きしているのですが、現時点では全く未使用の方から、5月の連休あとからすでに使っていらっしゃる方まで幅広くおられます。同じ日に同じように伺っても、暑い、そうでもない、すごく暑い、と感想はさまざま。院内は動物たち仕様にかなり冷やしてあるのですが、快適に感じる方もいらっしゃれば、少し寒く感じる方も。服装も半袖の方も長袖の方も上着を重ねているかたもいらっしゃいます。

年齢、性別にもだいぶ左右されるのですが、年配の飼い主さんが「そういえば自分自身が暑いと感じにくくなった気がする」とおっしゃっていました。

すでに日差しがかなり強く気温も上がっているのに、長袖をなんとなくきてしまうのだそうです。暑くない、と感じているというより、惰性でなんとなくそれを選択してしまう。そもそも「半袖を箪笥から出そうと思う気持ちがなかなか湧いてこない」んだとか。

季節の移り変わりに関して一番敏感なのは最初に夏を感じさせてくれた子供達ですが、逆に大人になればなるだけ環境への適応能力が高すぎて、変化に対して意識的に対応しないと動けないのかもしれません。

ただ人はそうであっても、動物たちは基本的に毛皮を身に纏っていますので、体感温度は高め、しかも体温も高いので、人が肌寒いくらいの方が呼吸や寝方なども落ち着きます。

自分が一枚余分に着たとしても、動物たちのために少し設定温度は下げて頂き、冷房が無理であれば除湿などで対応して頂きたいと思います。またサーキュレーターなどで室内に空気の流れを作り出すのも効果的です。

猫は直接の風に当たるのは苦手ですが、間接的に空気が巡るのであれば大丈夫です。

空調の位置を確認しながら部屋に一つ置いてみてもいいでしょう。

スコティッシュホールドのエミーちゃん
スコティッシュホールドのエミーちゃん

さて、写真は少し前からお話ししている新しい痛み止めを使用してとても元気になったスコティッシュホールドのエミーちゃんです。

エミーちゃんは生後半年で跛行(足を引きずるなど、足が不自由な状態)を呈し、骨異形成症候群と診断され、約一歳の時に放射線治療を受けました。

それから10年、骨変形は進み、ジャンプも走ることもできない生活でした。骨異形成症候群はスコティッシュに特有の先天性疾患で、手首や足首の骨、背骨や尻尾の骨が増成し痛みを出す病気です。

根本的な治療法はなく、あくまで対症療法です。しかもこの痛みは通常捻挫など軟部組織の挫傷によって起こるものとはレベルの違う強い痛みで、非ステロイド系の痛み止めなどほとんど効きません。

放射線治療後はある程度痛みのコントロールができましたが、徐々に効果が薄れ、最近はレーザー治療を定期的に受けて痛みを緩和し、筋肉量を落とさない処置を行なっていました。それでも室内ではゆっくりと歩くことはできても、階段の昇降などは難しく、早足も困難でした。

歩けないということは正しい形で爪は削ることができず、筋肉も萎えやすいことをしまします。定期的な爪切りをしなければ指に刺さってしまい、指先の骨にまで変形が出て、指先を持たれるだけで我慢強く大変いい子のエミーちゃんでも、痛みのために鳴いてしまうほど。

それが、今年、新薬を使ったところなんと家の中を走り回ることができるようになったのです!

発売前からこれは効くのでは、と飼い主様と相談を重ねていたこともあり発売開始直後から使用したのですが、効果てきめん、あっという間に結果が出ました。

本当に驚きましたし、何より嬉しくて、飼い主さんともども涙ぐみました。

なんと階段も上り下りするようになったそうで、一気にイタズラを始めたのだとか。

「10年ぶりに走ってるの見ました」

とお母さんが言うのにまた涙が出そうになりました。

元気になったと言うことは、それだけ彼女が痛みを我慢して生活していたと言うことなのです。それを思うだけで胸が苦しくなりますが、痛みから解放されて明らかに活発になった姿を見ると、まるで若返ったようで、本当に使って良かったと思いました。

同時に予想外だったのは、なんと足を使いすぎて今まで使わず柔らかかった肉球が、靴擦れのように擦れて出血してしまったことです。

これはなかなか激しい症状だったのですが、出血の痛みもなんのその、本人は全く構わずに家を飛び回っていたので、お家の中は血の肉球スタンプが乱舞する有様に。

ご家族は大変だったと思います。

投与から三ヶ月経った今、ようやく肉球が固くなってきて出血自体も無くなりました。

さらに指の歪みも歩行を繰り返す中で少しずつ正しい位置に戻り、爪も削れるようになりました。おかげでしょっちゅう爪切りをしていた回数が減り、また爪切りの時に鳴いて怒る様子もなくおとなしくできるようになりました。

加えて、実は中程度の歯肉炎があり、食欲が落ちるたびに定期的なケアをしていたのですが、鎮痛効果のためにご飯を食べられなくなることがなくなりました。

これも嬉しい誤算でした。

ただ実際には歯肉炎自体は残っているので、歯磨き等のケアは継続しなければなりません。また今まで炎症の指標としていた食欲低下がでないため、逆にこちらが気を使ってケアを怠らないようにしなければ、逆に悪化させてしまう可能性も出てきました。

歯肉炎に関しての認可はとられていないのですが、そもそもが全身における鎮痛効果をもたらす薬ですので、効いているのは間違いないと思います。

エミーちゃんは現在、投薬プロトコルを終え、今後は痛みが出たらお薬を使うという第二段階に入りました。現在のところ最初の投薬以外は行っていないのですが、調子は上々で快適に過ごせています。

これだけの効果があったことを、ぜひ今困っている他の動物たちにも伝えたい、と言うことで、飼い主さんのご厚意もありこうしてブログに登場してもらうことになりました。

痛みを隠すのがうまい動物たち
痛みを隠すのがうまい動物たち

動物たちは痛みを隠すのが本当にうまく、ご家族がその痛みに気づいていないことも多いのではないかと思います。

実際に痛みの症状を見ていても、それが老化やもともとの性質からくるものだと誤解したまま過ごしているのかもしれません。

今回のお薬は犬のものも発売開始され、現在使っている犬たちも驚くほど動きが良化し、皆若返った、と喜ばれています。

特に注目しているのは、その子達が他の痛み止めを継続的に今までも使っていた、ということです。結果として既存の鎮痛剤よりもより安全でより良好な効果を生んでいるのです。

今回の新薬は抗体医薬という新しいカテゴリーの薬です。人間で最も売れているのはリュウマチの抗体医薬であるそうです。

10年以上前から研究が重ねられ、ようやく昨今実用化され始めた分野ですが、今後もこの領域の薬は増えていくことでしょう。

薬、というと副作用や飲み合わせなど色々な側面を持っているものですが、日進月歩の技術革新により、そういった不安からだいぶ解放された薬が作られてきました。

その恩恵は動物たちにも反映され、今後はもっと健やかに暮らしていくことができるようになるのだと思います。

変化のない世界はないものですし、暗い話題も多く、何かと気が塞ぎやすい時代背景ではありますが、不断の努力と情熱によって昔よりも明らかに良くなったことがたくさんあります。

多すぎる情報に振り回されることなく、自分自身の認識もアップデートしていかなければならないな、と感じた初夏でした。

2023-06-20

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