動物病院HOME < 院長のコラム < 注意が必要な市販おやつ
桜の開花が例年になく早い今年、すでに満開を迎え、夜の中でも一際華やかに白く咲き誇る姿は圧巻です。
枝に葉のない状態で花だけがぱっと咲いている様子は、なんとも可憐ですね。
そしてまたあっという間に散ってしまうその儚さが、栄枯盛衰を感じるようで、その美しさに心奪われずにいられないのでしょう。
そんなロマンチックな桜の花の話題はさておき、非常に恐ろしい事件がありましたので、注意喚起も兼ねてコラムで取り上げようと思います。
先日、緊急に一頭のわんちゃんが飼い主さんに抱きかかえられてやって来ました。犬種はワイヤーフォックステリア、割と大きめの中型犬に分類されるわんちゃんです。
状態を見ると、小刻みに震えていて背中わ丸めています。とても苦しそうで、肛門から血が流れています。
何度もいきんで何かを出すようなそぶりをするのですが、うんちも含め何も出て来ません。聞くと朝も昼も全く元気でよくご飯も食べ、いつものようにお散歩に行ったと言います。その途中で急に様子がおかしくなり、慌てて来院したということでした。
「何か引っかかっているのかも?」
肛門から指を入れて探ると、かなり奥の方にとても硬いものが触れました。それは私の小指の半分ほどの太さで、かなり硬く、そしてしっかりと直腸に真横に引っかかっています。
左右の端っこを探ると、どうやら腸壁に突き刺さっている様子。つまむことができるほど手前ではないので、なんとかそっと先端を外し、かなり苦労して直腸の外へ引っ張り出しました。
「これは?」
取り出したそれは血まみれで、明らかに何かの骨でした。それを見た飼い主さんがあー!と驚きの声をあげます。
「それ、いつもあげているおやつです!」
おやつ?これが?!
正直びっくりするほどの硬さ、どう考えてもおやつにしていいような固さではありませんし、しかも突き刺さっていた端っこは、まるで和菓子を切る菓子切りのように尖っています。
それに結構な長さ、これをよく飲み込んだな……と思うほどで、人差し指ほどの長さがあります。
よく見るとどうやら元々もっと長いものが割れてこの長さになったようで、破片もついていてこれもまた尖っているのです。
「これはどういうおやつなんですか?」
お聞きすると、どうやら牛の肋骨を乾燥させた肉つきのおやつだということ。
この子は毎週一回、ご褒美としてこのおやつをもう随分前から食べているのだということです。
けれどこんな事態になったのは初めて。
「今までが運が良かっただけなんですね……」飼い主さんもショックを受けていました。
私もショックでした。今回のことも幸運としか言えません。私の指が届くところまで、骨が動いてきてくれたからこそ、麻酔もかけずお腹を開けることもなく、取り出すことができたのですが、これがもっと奥、お腹を開けなければわからないようなところで引っかかっていたら……と思うと怖くなります。
発見も遅れるでしょうし、最悪の事態も考えられます。
これは結構いいお値段で市販されている一般的なおやつだそうです。
注意書きを調べていただいたところ、「丸呑みしないように注意して与えてください」というような記載はあったそうですが、分割して与えるような指示はなかったとのこと。
もともとのサイズも子牛のものなのか、逆にそう大きなものではなく、これだと飼い主さんが端を持ってゆっくり与えるというのはなかなか難しそう……。
かといって切って与えるには随分硬く、ちょっと力を入れたらすぐに崩れるような、そんな脆いものでは全くありません。
圧力などをかけて加工された柔らかなものは見たことがありますが、あまりに硬すぎました。そして折れ方もまるで鳥の骨のように鋭利に折れているため、おそらく腸管を通過する際に傷つけていると考えられました。
でもどこをどれだけ傷つけているのかわかりませんし、最悪どこかの腸管壁に穴を開けているかもしれません。
念のため血液検査をすると、炎症マーカーと言われる数値が高いことがわかり、やはり長い腸管のどこかを傷つけているようです。
抗生剤を長めに服用すること、腹膜炎などにより様子が急変する可能性があること、穿孔などがあった場合は、最悪開腹手術をするかもしれないことをお伝えしました。
幸い経過が良く、炎症マーカーも下がり、お薬もようやく終了しましたが、本当に怖い事件でした。
今回みなさんにも是非こういうことがあると知ってほしいとこの骨のおやつの写真を撮らせていただき、今回の事件をコラムに載せることに快く許可をいただきました。
たとえ市販に普通に売っているおやつであっても、こういったことは十分起きる可能性があるのです。
基本的に馬の蹄や骨は野生動物が好んで食べる部位ではありません。
野生の狼は内臓や肉を食べますが、骨はちゃんと残しますし、硬い筋や腱なども残します。噛む力は犬より強い生き物ですが、食べる部位ではないと判断しているのです。
こういった蹄などの硬いおやつは、犬が噛むと歯がかけてしまうことも良くあります。実際上顎の後臼歯が割れている犬が結構な数いて、よくきけばそういった硬いおやつを好んでいたりします。
「でも硬いものを噛んだ方が、歯が汚れないんですよね?」というご質問も聞きますが限度があります。歯みがき用のガムなどケアに適したものを使用してください。
歯が欠けるとそこには余計に歯石が付きやすくなりますし、歯髄が出てしまうと抜歯が必要になることさえあります。
ちなみに某有名メーカーの歯石ケア用のガムは、一般市販用と病院専用のものがあるのですが、ほとんど販売の値段が変わらない割に、中の成分が段違いに病院用のものの方が良いのだと、そのメーカーさんがおっしゃっていました。原料も良いものを使っていて、ケア成分の割合を多くしているのだとか。
このメーカーの製品はたとえ丸呑みしてもちゃんとすぐに溶け、閉塞などを起こさない作りになっています。
こういった病院用の歯みがきガムは、もちろん丸呑みして欲しくはないのですが、これは噛まないとケアの意味がないためであり、飲んだとしても大丈夫なように安全面に配慮して作られています。
ではなぜ蹄などのおやつが高い値段で売っているのでしょうか?
言ってしまえばこれは生体廃品の利用のためでしょう。蹄は肉をとった牛の体の中で、骨に続いて使いづらいところです。そのままなら廃棄処分となる生体組織をなんとかして利用したいと、知恵を絞って犬のおやつとして作られていると考えられます。
以前狂牛病などで問題になった肉骨粉もそうですが、使えない生体組織は総量になると非常に多く、多くがゴミになります。
このゴミを減らしたいがために、またそれを何かに使えないかと考えたがために、牛に牛の骨を粉にした飼料を与え、結局あのような予想もできないプリオン病が起きたわけです。
話が逸れましたが、今回を伝えしたいことは、『たとえ市販で良いお値段がついて売っていても、安全なおやつだとは限らず、あげ方に注意しなければならない』ということです。
実はこの後に異物を食べてしまったので吐かせる処置をしたミニチュアダックスフントの胃袋から、これもおやつとして売られている、馬のアキレス腱が出てきました。
こちらも写真を添付しますが、胃袋の中に結構な時間あったはずなのに、全く溶けていませんし、カチカチでした。
そして見ていただくとわかりますが、こちらも結構な大きさで丸呑みしていますよね。
どうぶつたちに「自分でよく噛んで食べてね」などと言い聞かせても全く意味がありません。大きなおやつであってもある程度小さくして、飲み込めるサイズまでになれば丸呑みしてしまうこともしばしば。
手に持ってかみ切らせ、持てなくなるぎりぎりまでつかんでいても、そこから丸呑みにされることもあります。
たとえそうなっても胃袋や腸管できちんととけるよう加工された病院用のおやつは良いのですが、それ以外のおやつはそこまで考えられて作られているでしょうか?
どれだけのおやつが、そういったことまで考えられて作られているでしょうか?
かつて歯みがきガムが腸管に詰まり、開腹手術を受ける犬が多発したことがありました。歯のケアということにだけ注視した結果、そういった悲劇が起きたのです。
そのメーカーはその結果を受け、もう一度そのガムの作り方を見直し、現在はまるまるそれを飲み込んでも、つまることがないように開発し直しています。大手のメーカーだからできたフィードバックだと思います。
オーガニック、手作り、保存料なし、個人の通販のみ、などなどいろいろなおやつが世の中に流通していますが、今一度、考えて欲しいのです。
今食べている、おやつ、本当に安全にあげられていますか?
ぜひパッケージなどを確認し、正しいおやつのあげ方を確認してみてください。
2018-03-31
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