夏の暑さも少し和らいで、湿度の高い風が吹くようになりました。
夏草の香りを含んだそれは、過ぎ行く夏の気配をつげ、蝉時雨も少し寂しそうにきこえます。
ノミとその他の寄生虫に振り回された夏が終わるのに少しほっとしていますが、季節の変わり目には体調を崩す場合多いので、それにも備えていかなければなりません。
さて、今回は歯磨きのお話。
ほとんどの場合、齲歯といわれる虫歯は犬猫には起こりません。
その代わりに毎日の歯ブラシケアがないことから、歯石の沈着から重度の歯肉炎を起こすことが多いのです。
歯石というのは簡単にいえばばい菌の塊です。しかもあっという間に形成されるたちの悪いもので、単なる汚れ、というには少々悪者過ぎる側面があります。
そもそも、なぜ口腔ケアがこれほど声高に叫ばれているのかといえば、歯石から起こることがその場限りの歯肉炎にとどまらず、心内膜炎といわれる心疾患や、腎不全、気管支炎や肺炎などを起こすことが分かっているからです。
これは場合によっては死に直結する全身疾患であり、口の中の不調にとどまらない重篤な病気です。
実際、高齢の犬猫に麻酔をかける際、事前の胸部レントゲン上で軽微な慢性気管支炎が見られたり、喉頭鏡でのどの奥を覗くと真っ赤にはれあがっていたりしますが、これは口腔内に慢性的に存在する歯石による影響です。
あまりにゆっくりと慢性経過をたどるので、飼い主さんがこれによって起こる咳などの症状に慣れてしまっていることも特徴です。
水を飲んだり、散歩で首輪が喉に食い込むと咳き込む、ということが異常であることに気がつかないほど日常になってしまっているのです。
そういう背景もあり、歯磨きは毎日した方がいい日常のケアですが、これがなかなかに難しいものです。
子犬、子猫の時から、物心がつく前からと言ってもいいと思いますが、歯磨きをすることが習慣づいているならよいのですが、そもそも口の中は爪先などと同じで急所ですので触らせることが苦手な子が多いのです。
また、中高齢になってきて口腔が汚れて来ると口内での炎症もおきてきて、口元を触られるだけでも痛みが出てしまうこともあります。
口が痛いのに、無理に押さえられて開かせられ、歯ブラシなんてされたら……言葉や状況が理解できる自分でも、きっと泣いてしまう。
ましてや言葉も理屈も分からないわんちゃんや猫ちゃんが、嫌がってしまっても仕方ないなあと思います。
言うは易し、行うは難しの口腔ケア、もしいま、動物病院での定期検診などで「歯が大分汚れていますね」と指摘を受けたら、どうしたらいいのでしょうか?
スケーリング処置を受ける。
これは全身麻酔をかけ、すみからすみまで超音波スケーラーで歯石を取り、歯自体を研磨して歯石をつきにくくする処置です。
みなさんも歯医者さんで受けたことがあるでしょうか?キイイイと独特の響きがするあれです。もちろん口を開けててね、なんて頼んでも動物達はできませんので、全身麻酔をかけることになります。
酷くなっていると歯根まで菌が入り込み、抜歯しなければならない場合もあります。歯を抜けば状況により開いた穴を埋める処置も平行で行いますので、大掛かりな口腔外科手術に近い状態になる場合もあります。
できればこの状態になる前に、ケアを行っていただきたいですね。
ですが、圧倒的にこの状態になってからの方が、来院されるケースは多いのです。
お家での口腔ケアを始めましょう。思い立ったが吉日。
歯石ケアスプレー、ジェル、歯石ケアサプリメント、歯石の付きづらいフード、オーラルケアガム、そして歯磨き。
複数のケアを平行して継続するのが成功のコツです。
まずは口元を触る所から。
いきなり歯ブラシを出して気合いを入れて触ろうとすると動物達にもその勢いが伝わり、身構えてしまいます。
頭や首をなでて褒めてあげる要領で、口元もなでてあげるようにしましょう。マズルはやはり急所ですので嫌がる子もいますが、辛抱強くなでていくとそれが褒めてもらっていることだと理解するようになります。
そうなったらしめたもので、唇をひっくりかえしたり、口を開けさせたりすることを始めます。
根気づよくこつこつと。
顔をなで、マズルをなで、口唇をひっくり返し、口を開け中を見る。
この一連の流れを繰り返せるようになったら、大成功!
次の段階へ進みましょう。
シート上のケア用品を使ってもいいですし、端切れでも構いません。
動物用の歯磨きペーストをつけた布を指に巻いて口の中に入れてみましょう。
最初から歯に擦り付ける必要はありません。
ようは異物を口にいれるのに慣れさせて下さい。指の延長として慣れてもらうのがコツです。
ここで美味しい歯磨きペーストを使うとわりとスムーズです。
おやつだとおもってあぐあぐ噛んでくる子もいます。
嫌がらずにやらせてくれるようになったら、なんとなくそっと歯を擦ります。ちょいちょい、とやってすぐやめましょう。
初めから全周をやろうとしないこと。
擦ってはとりだして頭なで、また入れてそっと擦る。
嫌がるほどにはやらず、すぐにやめられるようにしましょう。
口のあちこちをこすれるようになったら、とうとう最終段階。
歯ブラシに歯磨きペーストをつけて、口の中に入れてみます。
指の時と変わらずそっと歯に触れてまた取り出します。諦めずに繰り返します。
慣れていると、この時点で、歯ブラシを自分で噛みはじめます。
前歯は嫌がる子が多いのですが、無理にやらず二三回擦ったら辞める、をくりかえして少しずつ回数を増やすといいです。
長い時間拘束して行うと一発で嫌いになりますので、絶対に辞めましょう。
短時間を繰り返し行います。
そのうち歯ブラシの行為自体が、遊びの延長だと思ってくれるようになります。
その際、痛みが出るほどやるのもやめましょう、そっと、焦らずに優しく少しずつ。
この流れを見て頂くと分かるのですが、実は歯ブラシにたどり着くまで大分時間がかかる方が普通です。
子犬、子猫から行っているとスムーズにできることが多いのですが、それでも無理せず少しずつが鉄則なので、根気づよく進めましょうね。
ちなみにこれが上手くいって自ら歯ブラシを持って歯磨きを行うワンちゃんがいます。
動画の心丸君は歯磨きが大好き、上手に両手で持って歯磨きします。
ここまで上手くいくのはとってもレアなことですが、いない訳ではないのです。
他にも、歯ブラシを見せると嬉しくてよってきてしまう子や、毎食後にわざわざ磨いてもらいにくる子なども、犬猫関係なくいらっしゃいます。
是非諦めずにトライして頂きたいと思います。
よく頑張りましたね、でも上手くいかないこともよくあるんです。飼い主さん達が悪い訳では全くありません。
この場合は、病院で歯磨き処置を行うので、遠慮せず言ってくださいね。
実は案外病院ではやらせてくれる子が多いんです。
もちろん麻酔はかけません。朝お預かりして昼休みの時間帯に歯磨きその他をします。仕上げに歯磨きジャーキーを貰って食べてから帰るので、わりと喜んで処置に来ます。
頻度は週に一階が理想ですけれど、一ヶ月に一回でもきちんとは磨き処置を行うと大分綺麗にできることが分かっています。
トリミングのついでに行っている子も多いので、ご相談下さい。
飼い主さんからの質問を受けることが多い歯磨きですが、地道でとても大切なケアであることが伝わったらいいなと思います。
そしてケアの努力が実を結ばなくてもあきらめず、病院で申し出て下さい。
いろいろな方法でアプローチできるのが、歯のケアのいい所、諦めずに色々試してみましょう。
2020-08-31
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