動物病院HOME < 院長のコラム < 過去のカルテの有難さ
ようやく秋らしい日が続くようになりましたが、今度は台風三昧で今年はいささか落ち着きに乏しい季節が巡ります。
九月の初めの週は驚くことに、同じ日に同じ病気が集中しました。
一つは外耳炎です。
真菌であったり、うみが出ていたり、酷くはれあがって中が見えなかったり、これが全て同日に十件以上来院されたので、おそらくこの湿度が高い季節がらのせいだと思います。
また秋の草にアレルギーがある子達が一気にかゆくなってしまいました。 目の回り、口回り、耳の中、手足の先など一気に赤くなり、場合に寄っては引っ掻き傷になってしまうことも。
これは犬だけでなく、猫でも見られたので、やはり環境アレルギーに寄るものでしょう。
季節の変わり目はどうしても、体調を崩しがちになりますが、次への季節への備えのために体の中が変わって行く過程なのかな、とも思います。
ただ年単位で通院されている方のカルテを見ると、驚く程この季節から痒みが始まっているケースも見られるので、やはり過去のデータの積み重ねは非常に重要だな、と思います。
蓄積されて初めて分かることも多いです。来年は一ヶ月早めに薬をはじめてみましょうね、とかなりの長期スパンで話をすることができています。
そしてふと、こうやって年単位のカルテをじっくりひっくり返してみることが、今までに果たしてどのくらいあったかな、と考えこみました。
なぜか、というのは少し特殊な仕事事情によります。
大学六年間を終え、国家試験に合格すると、そこからすぐに私たちは獣医師として資格を持ち、仕事の現場に出て行きます。
ちなみに皆さんの目によく触れる獣医師は、動物病院の獣医師で、所謂動物のお医者さんですね。これは小動物臨床という分野になり、私の卒業した大学では全体の六割程がこちらの道に進みます。これ以外に農林水産省や東京都、県庁などの公務員獣医師、企業などの研究職、フードメーカーや動物保険会社、公衆衛生関係、人間の医療に関する研究や科捜研など、かなり多様な職に就くことが出来ます。
絶対数としては臨床が多いのですが、小動物臨床を取りまく世界は厳しく、離職率も高いのが現状です。 小動物臨床に進んだ獣医師は、だいたい三~五年単位で病院を移って行きます。
自らのスキルアップを願ってより専門的な病院や二次診療施設などへ向かう場合や、結婚や出産を機に常勤ではなくアルバイトやパートなどがしやすい病院へ移動するケース、雇用的な問題でより良い条件の病院へ移動する場合、など様々ですが、理由の一つには長く雇用する力が動物病院自体にない場合も多いからでしょう。
また獣医師というのは、一人一人が一軒のお店屋さんの様なもので、個性的な人が多く、多くの人数がまとまって長く働くことが出来るか、というとなかなかに難しいのです。
勿論長く一つの病院で働かれている先輩方も沢山いますが、数としては少ないと思います。
よく来院された飼い主さんに言われるのですが、勤務医の先生がどんどん変わってしまって…というのはこの辺りの事情がかかわっています。
また担当制を取っている病院もあれば、来た患者さんをいる獣医師が順番で診る、ということもあり、純粋に自分だけが記入し全て把握すると言うカルテは、あまりありません。
カルテをじっくり、というくだりは、開業してみて初めて自分だけが記入するカルテだから、という話なのです。
現在では私が就職した十年以上前とは事情が変わっているので、変化があったかもしれません。
でも私が大学に入った頃あたりは、三年単位ぐらいで病院を移り、六年目か七年目辺りで開業、という先輩方が多かったように思います。
いまでは都内など首都圏では、動物病院が飽和状態で、新しい開業は難しいと言われるようになってきました。開業したからと言って、継続して行くことが出来る保証もなく、昔のように予防中心でやっていける病院はあまりない、昔のように開業したから安泰、ということは幻の様な物です。
またペットブームと言われつつも、日本経済の状況では、動物を飼うことにはお金をかけていられなくなっていると言ったことも指摘されています。 動物達を取りまく状況は厳しく、飼い主さん達の高齢化などはこれから先も続くでしょう。
対して、狂牛病や鳥インフルエンザなど、広域な感染症に伴う公務員の需要は特に地方では増えていますので、そういった方面への進出が見直されていくのかもしれません。
実際のところ、同級生や後輩にも臨床をやめて公務員になった獣医師は沢山います。
飼い主さん達からすると、昔はここしかなかった動物病院が、今はあそこにもここにも、沢山ある!選択肢の幅が広がったということになります。
眼科、整形外科、歯科、皮膚科、エキゾチックアニマル専門など、分業化もすすみ、それぞれに個性的で、得意分野も違う病院が沢山あります。
24時間受け付けてくれる所、緊急専門、夜間専門、往診専門と、形態も様々になってきました。
どこが良いのではなくどこも全て良い所があるのです。 何が自分と飼っている動物達に取って一番良いことなのか、それをきちんと見極めて病院を選択する時代になりました。
選ぶ、ということは自分が責任を負う、ということです。 よくよく調べた上で選んでもらえればなあと、思います。
体はデジタルで出来てはいません。とても原始的で効率の良い形をしています。つまり、何処か一つだけを切り離してそれをノリでくっつけて成り立っている訳ではないのです。
目が悪くて、皮膚が悪くて、足も悪くて、耳も悪い。年を取れば必然的にこういった状態になります。 さてどこにかかれば良いのでしょうか?そもそもそれは本当に、皮膚や、足や、耳や目の問題でしょうか? その判断すら自分でしなければならないのでしょうか?
昔は全て一つの動物病院が見ていましたが、今後はそれぞれ全部違う専門病院で見てもらわなければならなくなる時代が来るのかもしれません、それこそ人間のように。
それって、便利になったのかな?と時々ふと思うのです。
眼科にいってコンタクトを処方してもらい、皮膚科にいって皮膚の薬を貰う、耳鼻科にいって花粉症の薬を貰い、風邪薬を内科で出してもらう、たまの休みに病院巡りをしながら、一日があっという間に過ぎるのを見ながら、考えてしまいます。
何かあれば頼れる病院があって、必要な時には専門的な病院や緊急病院などを紹介してもらう。
ホームドクターと飼い主さんと専門的な病院の三者が、三角形を作ってその上に動物達がいる。
そういった理想的な状態に少しでも多くの動物達がいられたら良いなと、色々な事情で病院難民になってしまったご相談を受けながら思うのでした。
2016-09-15
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