気がつけば今年が終わろうとしています。
年々時が経つのが早くなり、体感だと一年が三ヶ月くらいの感じですが、一体これは何なんでしょうか。
子供の時はあれほど夏休みまでが遠かったというのに、不思議なものですね。
そんな話をすると、もっともと早く感じるようになるのよ、と言われることも多く、人の一生というのは実は子供時代の十数年が半分以上を占める様な、そんなものなのではないかしら?と思います。
人間の時間軸であれば一、二年は大した時間ではないのですが、動物達にとってはとんでもなく長い時間です。
ジャンボどうぶつ病院が開業してから、四年めになります。最初の年に来院した動物達が三歳でも、今年はもう七歳、シニア期に入っているのです。
不思議なもので、初めに会った時に三歳の子は、なぜかずっと三歳のイメージがあって、あ、そういえばもう七歳か!と、びっくりすることもしばしば。
これはやはり感覚的なもので、年を取って欲しくない、いつまでも若く健康であって欲しい、という希望もあるのだと思います。 その気持ちはいかんともしがたいのですが、それでも元気に年を取るために、向き合わなければいけないなと思います。
健康を維持するためには、病気の症状が目に見える前に、早く見つけ早く治療に入ること、すなわち早期発見早期治療、また病気になりづらい体でいるための予防医療が大切なのは、動物の世界でも変わりません。
けれど動物は口がきけない分、どうしても発見が遅れがちになります。また時間の流れが我々よりもとても早いために、病気の進行も凄まじく早い場合があります。
せめて一年に一回くらいは、という気持ちで春の健康診断をお勧めしているのは、そういう事情です。
飼い主様の予防医療への意識が高く、ご家族でとても大切にされていて、毎年欠かさず健康診断を受けていたミニチュアダックスフンドの子がいました。
心臓が少し悪くなっていたので、毎月聴診や視診によって健診をしながら、お薬を飲んでいました。
今年の三月末にも血液検査と腹部の超音波、レントゲン検査を受け、心臓のチェックと他の内臓に異常がないことを確認しました。14歳には見えないくらい見た目も若く、毛並みもつやつやでもふもふして、表情もとても可愛い男の子です。
10月、三日前の夜からなんだか急に元気がないということで来院され、酷く貧血していることが分かりました。
お腹の聴音波検査で、肝臓に腫瘍ができていることが分かりました。その腫瘍から出血し貧血していたのです。
前回お腹の超音波検査をしたのは、半年と少し前のこと。その時には全くなかった腫瘍が、しっかりと映っていました。
言葉を失いました。たったそれだけの期間で命を蝕む腫瘍が出来ていたことに。
腫瘍のある範囲が大きく手術は難しい状況でした。すぐに輸血を中心に対症療法を行いました。
ショック状態から回復し、わんわんといつものようにほえたり、ご飯を食べたりし始めてくれたその子は、お家に一度帰ることができましたが、それから間もなく腫瘍から派生した血栓症で亡くなりました。
本当にかわいい子でした。
ご家族も含め、病院に来て頂くのが楽しみな、本当に可愛くて良い子でした。
獣医師の立場で泣いてはいけないと思いながら、涙がとまりませんでした。
また10歳を超えたゴールデンレトリバーの子が三ヶ月前、別の疾患で腹部超音波検査を行ったことがありました。
その病気が安定したため、その後病院へいらっしゃることはなく過ごしていましたが、急な嘔吐、食欲廃絶が主訴で、その時以来久しぶりに来院されました。
黄疸が出ていたため再び腹部音波検査を行った所、肝臓全域に腫瘍が及んでいました。やはり、対症療法しか出来ない所まで来ていました。その子もしばらくして亡くなりました。
とても愛らしくて人なつこく、穏やかな女の子でした。病院は好きでなくてあまり来られなかったけれど、来ている間はどんな治療にも協力的で本当に優しい子でした。
ゴールデンレトリバーが腫瘍好発犬種であることは、今まで四頭のゴールデンを飼ってきて本当に良く知っています。
それでも、何か出来なかったのかと、やはり涙を止められませんでした。
しばらくずっと、悩んでいました。
なぜ、こんな短時間で、腫瘍ができるんだろうか。
どうしてこんなに早く悪化するんだろうか。
臨床症状が出ないで進行するものを、どうやってみつけたら良いのだろうか。
毎月のように超音波検査をしたら良かったのか。
一年に一度の健康診断での血液検査ですら、なかなか受け入れてもらえないのに、どうやって意義を伝えていったら良いのか……。
血液検査をはじめ、検査というのは臨床症状がなければ基本的には行うことはありません。
逆に臨床症状がなくとも行う検査として、健康診断や人間ドックの様なものがある訳です。 そうでなければ、過剰医療になってしまいます。
ですが、人間ですら一年に一回の人間ドックが薦められているのに対し、動物は一年に一回の健康診断ですら浸透していないのが現状です。人の約四倍の速さで年を取る犬や猫であれば、一年で四回は検査しなければならない計算です。
それでも、意識が高く年に一度の健康診断をしていても、今回のケースのように半年くらいの中で劇的な変化があることもあるのです。
結論として、10歳を超えたシニア後期の子達に関しては、今回の様な場合があることの説明の上、希望があれば超音波検査等の本人の負荷の少ない検査を提案することにしました。 検査のハードルを下げ、定期検診の時に気軽にできる内容にしていくのが当座すぐにできる対策だと考えたからです。
それとは別に三月から六月までくらいの間で行う健康診断は、外注検査会社のキャンペーンを利用して通常より安価で検査が出来るので、おすすめです。
主に血液検査が主軸になりますが、超音波検査やレントゲン検査、眼圧検査や心電図などほかの検査も組み合わせることが出来ます。
調べて、異常が出たらどうしよう?という不安は勿論当然だと思います。
私も同じように感じています。
異常なんて見つかって欲しくない、でも見つけるなら早い方がいい。 そうでないと、治療すら、ままならないのです。
年を取らない生き物はいません。人も、動物も同じです。永久に生きる生き物は存在しません。
生まれてから全ての細胞は、いずれ来る生き物の死へと向かって活動しているのかもしれません。
それでも、すこしでも心地よく、苦しまず、生きて行って欲しい。
そのための時間をうまく確保して欲しい。
健康診断は、そういった目的のために行うものであると、知って頂ければ幸いです。
2016-11-30
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