動物病院HOME < 院長のコラム < ウィルスによる感染症
今年は梅雨入りも暦通りになりそうな気配ですね。
重たげな雲が夜の空を足早にかけていくのをみつつ、じっとりとにじむ雨の気配を肌で感じます。全くまとまるつもりのない髪の毛をぐいぐいとしばって、手術帽子のなかにいれると若干すっきりします。
いえいえ、中はもったり蒸れるので、まったくスッキリではないのですが…。
この状況、しばらく美容院へいかれていないかたも多いのではないでしょうか?
本当につらいですよね。時期も時期ですし、動物たちがすっきりサマーカットになっているのをみると、羨ましく思う始末。
自粛対象になっていないはずなのに、やはりいくことがためらわれるのは、やはりある程度の時間、近い距離でいるからでしょうか。
万が一、自分が感染していて誰かにうつしてしまうのでは、と考えてしまうと、なかなか足が重くなってしまいます。
感染することよりも、無症状ですでに感染していて、知らず知らず発症リスクの高い方にうつしてしまう可能性があるというのが、今回の新型コロナウィルス感染症の怖いところだと思います。
自覚する一般的な症状が出ないけれど、ウィルスや細菌に感染していることを、『不顕性感染』といいます。
また、この状態は『ウィルスに感染しているけれど発症していない』とも言い換えることができます。
『発症』とは、症状が出ることです。
自覚する一般的な症状を『臨床症状』といい、今回の新型コロナウィルス感染症の場合では発熱や咳、倦怠感などがこれにあたります。
『不顕性感染』では『臨床症状』がでないので、自分が『感染者』であるということがわからず、いつも通りの生活をします。けれど、この間も体の中でウィルスが存在しています。
こういった人を『保菌者』ともいいます。
正確にはウィルスは細菌ではありませんが、いい方として通りやすいのでそう呼ばれたりします。
この『保菌者』がウィルスを体外にだす状況を『排菌』といいます。
繰り返しますが、ウィルスは細菌ではありませんが、排ウィルスだと言いづらいので。
『排菌』は目に見えませんので、知らないうちに誰かにウィルスをうつしてしまい、感染が拡大するという状況が起きているのです。
現在、かなりの数の感染している方の報告が連日されていますが、多くがこの不顕性感染です。
これはよく、猫白血病ウィルス感染症や猫エイズウィルス感染症でも見られる状態です。
咬傷や性交渉、親子の間に起こる胎盤感染でウィルスに感染し、症状を出さずに日常をすごしていると、ある時に突然発症するということが起こります。
食欲不振や下痢、嘔吐、白血球が異常に増えたり、感染症にかかりやすくなったりするわけですね。
発症要因は様々ですが、高齢や免疫が弱くなったときに起こることが多いようです。
また、感染はしているので同居の猫にうつしてしまうことが多々あります。
同じお皿を使ったり、グルーミングをしあったり、喧嘩をしたりするとうつってしまうのです。
密接な生活をしていると避けられないので、感染している猫を発症していなくても他の猫と隔離しなければならないのは、こういう事情です。
猫白血病ウィルス感染症に関してはワクチンがあるのですが、残念ながら猫エイズウイルス感染症のワクチンは現在使われていません。
どちらも感染すると命にかかわる感染症ですので、保護猫たちがおうちに迎え入れられるときには、必ず血液検査でチェックしています。
これはなんと血液検査キットで調べることができるのです。とても簡便で精度が高いキットが発売されています。
月齢にもよりますが、おおよそ二回ほどの検査、しかも一回十分ほどで確定診断が出ます。
もしおうちに迎え入れた猫ちゃんで、検査をした覚えがないようでしたら、一度検査をしておくべきでしょう。
また、外に遊びに行く猫たちは、この二つの感染症のどちらにも常に感染するリスクがあります。
毎年、ワクチンの時期に血液検査をし、チェックしましょう。
なぜ猫のウィルス感染症にこういった簡便で精度の高い検査キットがあるのに、新型コロナウィルス感染症ではないの?と聞かれることがありますが、それはひとえに新型だからです。
猫白血病ウィルス感染症にしても、猫エイズウイルス感染症にしても、もうずいぶん前から存在し、研究されている感染症です。
多くの猫たちが感染し、苦しみ亡くなっていく犠牲の上で開発が続けられて来たものです。
そのお陰でこういった血液検査キットが作られるまでにいたりました。
そう易々とできるものではありませんが、それでも今、多くのメーカーが研究開発を続けているところです。
おそらく、新型コロナウィルス感染症が世界からなくなることはないでしょう。
けれど、研究がすすむことで、早く簡単にそして正確に感染を特定し、対応する薬やワクチンが徐々に開発されていくはずです。
それはいままでも繰り返し行われてきた、医学の進歩なのです。
それまでの期間、我々が今できることをきちんと行い、日々を過ごしていくことが必要なのだと感じます。
まだまだ苦しいこともありますが、皆様どうぞもう一辛抱していきましょう。
2020-06-17
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