動物病院HOME < 院長のコラム < 猫の血尿は緊急事態(1)
桜の木の枝先がほんのりと赤く染まっているのに気づきました。
固く縮こまっていた蕾がいつの間にか膨らんで、中に閉じ込めていた花弁をほんのりとほころばせ始めたのですね。
桜前線がそこまで来ている、来週には東京でも花が咲くのだと聞いて、桜前線という言葉を作る日本人の真髄は平安時代から変わらないよなぁなんて思いました。
花の色は人の心をなぐさめるもの、でも花自身にそんな気持ちがなくて、ただそこで咲くだけの命の真摯な美しさが心を揺さぶるのだなぁと思います。
このところの急な気温上昇に体がついていかず疲れやすさを感じたり、加えて花粉の嵐に顔面が大雨洪水警報発令中になっているため、春の気配を喜び尊ぶ事自体がかなり難しいのですが、そんな人間の都合は関係なく、季節はうつろっていくのを実感します。
春だなぁ、と思える気持ちの余裕がとても大事、といいつつ、春は動物病院の繁忙期。のんびりともしていられず、バタバタと仕事をしています。
さて3月に入り劇的にある病気が増えました。
そう、猫の血尿です。
毎日のようにお電話で「おしっこが赤いのですが」「トイレに何回も行きます」「尿が出ないようです」というご連絡をいただき、「急いで病院にいらしてくたさい!」とお答えしています。
女の子、男の子関係なく、比較的若い猫たちにあまりに多いので、季節的な要因がかなり関与しているに違いない、とおもっています。
おそらく、もとからあまり水を飲む欲求が少ない猫ちゃんたちは、寒い時期から引き続きあまり飲水する気持ちが高まらなかった→急激に短期間で気温が上がってしまい、そうとは知らないうちに体から水分が失われていた→自覚のないうちにしっかり脱水してしまう→尿が少なくなり、濃くなる→トイレに行く回数が減り、間隔が長くなる→尿の滞留時間が伸びる→膀胱炎という状況ではないでしょうか。
これに加えて、急激な寒暖差や温度変化にストレスを受ける→膀胱炎になる
が加わっているのは間違いありません。
こういった場合、単純な膀胱炎だけではすまずに尿石症を併発していることも多いのです。
尿石症は若いうちに発症する場合、基本的に体質なので、一生付き合っていかなければならない泌尿器疾患です。
尿の中で尿結晶を作りやすく、尿結晶が集まり時間がたつと尿結石になっていきます。一度できてしまうと溶けない結石と、できてしまっても尿をコントロールすることで溶けてくれる結石があります。
この尿石症、男の子はとくに尿閉という恐ろしい症状がみられることがあります。
これは尿道に細かな結晶や血球、膀胱の上皮などが固まってつまり、おしっこを出したくても出せなくなる状態です。とんでもない緊急事態で、丸2日この状態で過ごしてしまうと死んでしまいます。いち早くおしっこを出す必要がある状況です。
だいたいがその前に頻尿、すなわち繰り返しトイレに行く様子や、しきりにお尻を気にして舐める様子、一回のおしっこの量が少なくなる様子などがみられます。
その時点で来ていただければまだ間に合うことが多いのですが、完全に出なくなってしまってからいらっしゃった場合は、飼い主さんたちも獣医師も覚悟を決めなくてはなりません。
とにかく、何が何でもおしっこを出さなければならないのです。
オスの猫の尿道はとても細く、固く詰まってしまった結晶などのかたまりである尿栓を膀胱内に押し戻し再び尿道を開通させるのはとても大変なことです。
細いカテーテルや留置針の外筒をつかい、尿道に生理食塩水や麻酔薬をいれて圧力をかけ、尿栓を中に押し戻す処置をします。
ダイレクトに言うと、ペニスの先端から細い管を突っ込み、外から液体を注入する圧力でつまりを膀胱の中に押し戻す処置です。
文字で想像するだに恐ろしい方法ですよね。
おしっこができなければ、死んでしまうから!という理解があっても怖い処置なのに、猫たちは何もわからず行われるわけです。
おまけに尿閉はとても苦しい状態なので、猫たちはたいてい不機嫌で怒っていて、普段では信じられないレベルで暴れたり叫んだりします。ものすごいストレスがかかっているのです。
鎮静剤を使う場合もありますが、おしっこが出なくなってからの時間が長いと、急性の腎不全をおこし、全身状態が非常に悪くなっているので、使えないこともあります。
そこで横に押さえつけられ、ひたすら尿道が開通するまでがんばります。
これが成功したらそのままカテーテルを膀胱に入れたまま留置し、中に溜まっていたおしっこを急いで出して、膀胱を洗浄し、そのあとは血液検査の状況等で入院で治療を行います。
なぜカテーテルを入れたままにするかというと、再びすぐに詰まってしまう可能性が高いからです。 ほとんどの尿道閉のこたちは膀胱内に驚くべき量の結晶やその他の炎症細胞、剥がれ落ちてしまった粘膜細胞などが溜まっています。
尿道が通るようになっても、それらがすぐに全て外に出せるわけではありません。固まっていたりするとカテーテルの細い管では外に出せないことも多く、また詰まる原因になります。
また、尿閉解除は尿道にダメージをあたえる処置です。結果として尿道が腫れ、狭くなってしまうので、余計に詰まりやすくなります。
よってカテーテルを入れたままにして、尿道の開通を維持しなければならないのです。
また点滴により尿量を増やし、膀胱内に溜まった結晶などをなるべく外に排出しやすくするほか、尿の濃度を薄くし、新たな結晶を作りづらくします。
他にも消炎剤や抗生剤、フードの変更、サプリの使用など症状に応じた薬を併用して治療していきます。
これは尿閉になってからどのくらいの時間が経過したか、たまっている結晶などの量、膀胱や尿道の腫れ具合などによりかわりますので、一概にこのくらい治療する、とはいえません。
とはいえ、頻尿になったら、すぐ診察に来る!という意識でまちがいないとおもいます。
では、これがうまく行かなかったら?
尿閉解除ができず、おしっこが膀胱の中に溜まったままになってしまったら?
先程覚悟を決めると言いましたが、その覚悟が物を言うことになります。
ですが、だいぶ長くなってしまったので、詳しいお話は次のコラムで。
2022-03-18
「うちの子の様子がおかしい?」「狂犬病の注射を受けさせたい」「避妊手術はいつすればいいの?」など、お気軽にご相談ください。
tel03-3809-1120
9:00~12:00 15:30~18:30
木曜・祝日休診
東京都荒川区町屋1-19-2
犬、猫、フェレットそのほかご家庭で飼育されている動物診療します