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熱中症と獣医師の思い
熱中症と獣医師の思い

梅雨入りはいつなのか?水不足は大丈夫なのか?と思うほど早々から暑くなっている日本列島。と書いていたら、ニュースで明日からでも梅雨入りするといっていた。雨が恋しい。

夏の幅が大分大きくなっていやしないか、これが温暖化?などとぼんやり思うも、空調の利いた部屋のなかから全く出る気がしなくなる。外気が強い光線で色鮮やかに浮き上がり、緑も歩く人の日傘の影も濃い。

力強い色の輝きは、アフリカなどの国々で身につけられている色とりどりの洋服達を思い起こさせる。あちらでは、一つ一つの色がとにかく生命力に溢れ強く見えた。

光の強さがイコール色覚刺激の強さなのだろうとは思うが、目に痛いほどだったと記憶している。

真っ青な空に真っ赤なマサイ族の着物と、美しく繊細なビーズの首飾り、滑らかな黒蜜のような肌。周りにある土の色とサバンナの緑。

国営放送の特集をそのまま目の前に広げたような、そんな光景だった。

うっそりとアフリカ大陸へと想いを飛ばすが、肉体のあるアジアは暑い。そして、また暑い。

犬や猫の場合毛皮を纏っているのだから、その暑さ推して知るべし。

想像してみて下さい、陽炎さえ立ち上りそうなこの炎天下、毛皮のコートを着て地面に素足で四つん這いになって歩くことを。

……地獄ですか?何かの修行でしょうか?

いいえ、ただの拷問です。

真昼のお散歩はどうか避けてください
真昼のお散歩はどうか避けてください

熱中症の注意をこれだけ各方面がお伝えしている現代、それでも真昼の太陽光線が最もシビアな時間のお散歩はやまない。

人でも動物でもどちらも気をつけなければ、命の危険がある。散歩に出かけて互いに倒れてしまったらどうするつもりなのだろうかと、みているこちらがハラハラする。

病院であればもちろん無茶なお散歩はおやめ下さい…!と突撃するのだが、普通に道で行き会った方にそれをしたら、ただの不審者である。

結果ハラハラとドキドキを抱えたまま、もやもやとその場をあとにすることになる。

残念ながら炎天下お散歩組は一定数いるようで、病院いいらした飼い主さんからもよく報告を受ける。

大抵、「あれはないわ~」「大丈夫、じゃないですよね?」「どうしてあの時間なのかしら?」という疑問と困惑である。皆さん声をかけていいかどうか悩まれている。優しい方が多いのだ。

通常暑くなってからのお散歩は、明け方とても早い時間か、夜遅くになる。

とくに短頭種や大型犬を飼っていらっしゃる方は、暑さに敏感で太陽の出ている時間はお外に出さない、という徹底ぶりであったりする。

もちろん、家の周りで排泄だけ、という短時間なら問題はないが、明らかに長いお散歩コースを巡る人もいて、悩ましいものだ。

またどうしても外出しなければならない場合、ケージのなかには保冷剤などをタオルやビニールに包んで、入れて頂きたい。全面に敷く必要はない。半分くらいで良い。

全面に敷くと体が冷えすぎて下痢などの消化器症状を起こす小型犬も多い。何事もほどほどである。移動して自分で体温調整できる余地が必要だ。

もしくはケージの外側から冷やすタイプでも良い。ポケットに入れるようになっているタイプもある。

飲み水も持ってほしい。こまめな給水はとても大切だ。人間も動物も。排泄を流すためのものだけではなく、少し多めに持って欲しい。最悪体温が高くなりすぎた時に、頭から水を掛ける必要があったりする。

でもできたら日の高い時はお外に出ないで欲しいなあと思う。熱中症は死ぬことがある。

その死は全く予想もできないものだ。事故と同じである。

病や加齢のように先を見据えながら、残された時間をともに寄り添って過ごすのとちがい、飼い主に何の心の準備も許されてはいない。

当然、実際におきた場合、とてつもない罪悪感と悲しみにより、長く喪失感に苦しむことになる。そういったケースを、たくさん見てきた。

おそらく臨床獣医師であれば必ずそういったケースに遭遇し、その時の無力感とやり場のない怒りに尾を引く記憶を誰でも持っている。

だからこそこのコラムのように啓蒙することに頑張らざる得ないのだが、それでもなくならないことはとても切ないものだと思う。

多くの諸先輩方が同じように苦悩した結果が現状であるなら、あとはどのような方法があるのだろうかと考えることもしばしばである。

生まれた時から一生寄り添う立場で
生まれた時から一生寄り添う立場で

考えてみれば、我々の仕事は生まれてから死ぬまでその動物に寄り添う仕事だ。場合によっては帝王切開で子供を取り上げ、その子が年老いてなくなるまで、ご家族と見守るのだ。

気持ちが入るに決まっている。もはや第二の家族のような立ち位置でその子の幸せを願っている。

これは人間の医者ではまずないことだ。そもそも寿命が違うので、赤ん坊を取り上げた先生が老衰で亡くなるそのこを看取ることはない。その前に自分があちらにいっている。

だからこそ、最期を迎える時にどのように心を整えていくのか、が大きな課題になる。

病と闘っている時は必死だ、正直脇目も振らず治療に一直線である。

でもそのあとに、全ての終わったその先に、戦い終わった先をどのように迎えるべきなのか。 その答えがいまだ出ない。

死について考える時、対して生についても考える。 人類が永遠のテーマとして悩める、何のために生まれるのか、ということまで考えはじめると、まるで熱中症になったように脳が煮えてしまうので、ある程度で思考を引っ張り戻してこなければならない。

死がすぐ傍にある仕事であるが故に、そこから目をそらすことはできないのだけど。

暗い思考とは対極の強く鮮やかな夏の訪れを感じながら、獣医師の悩みは尽きない。

2014-06-15

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