八重桜、ジャスミン、薔薇、と彩られた新緑の五月が去っていきます。梅雨入りの足音がそろそろ聞こえてきそうですね。
雨の季節は自転車が使えないので、徒歩が多くなりますが、雨用のブーツに傘をさしていつもより少し湿った町並みを歩くのはわりとすきです。
特に夜の雨が好きなのは繰り返し書いているので恐縮ですが、色を伴わない雨が暗闇の中で銀色に光るその様子はなんだか胸の奥がざわめく不思議な気持ちを呼び起こすものです。
さてコラムは今月三回目の更新となります。履歴をみると随分数が増えたなあと、感慨深く思います。
計算してみると一年で24個、三年ですから72個になる訳ですね。今年中に百近くになると思うと、おお、頑張って書いたなあとしみじみしてしまう今日この頃です。
量がたまったら、自費出版で本にでもまとめようか…記念本だなあなんて、にやにや考えています。
一冊から作ってくれる印刷所があるそうなので、わりと現実的な野望かも知れません。そのためには原稿の〆切を突きつけられる前に、自主的に書いていかなければならないのですが。
先日、いらしたトイ・プードルの子犬さん、涙の量が左右で違うのでよく見てみると、やはり逆さまつげが生えていました。
正確には睫毛乱生といい、普通生えるべきではない所から睫毛が生えてしまうことをさします。
このこの場合は、左の上まぶたの縁から、目の中にまっすぐ真下に向かってぴょこんと一本はえていました。
これはちくちくと目を刺激するため、涙がその刺激で増えてしまいます。それだけでなく、目を気にして擦ったりすると、角膜を傷つけたり炎症が起きたりしてしまう困った症状です。
点眼麻酔をしてそっと抜いてあげると、しばらくは落ち着きます。ですがまた延びてくるので、涙の量などを目安に定期的に目のチェックを行い、ある程度延びたらまた抜く、という処置を繰り返します。
全身麻酔をかけて、その毛の生えている毛穴をレーザーで焼く、という方法もあります。これは永久脱毛とおなじ理論なので、今後延びてくることはありません。
睫毛乱生はトイ・プードルをはじめ、シーズー、ヨークシャー・テリアなどの小型犬に多くみられる疾患で、命に関わらないけれども、涙ヤケや目の充血などQOLに関わって来ることの多いちょっとめんどうなものです。
涙焼けは、余分な涙を鼻の中に捨てるための管である鼻涙管が、炎症や種の骨格などの原因で狭くなる鼻涙管狭窄症に伴うものが多いのですが、実はこれが原因だったりすることもしばしば。両方の場合もありますので、気になる方は診察をお勧めします。
また通常、この毛を抜く処置は点眼麻酔などの局所麻酔で可能なのですが、目の周りは急所で暴れてしまう子もいるため、場合によっては鎮静をかける場合もあります。
こういう時、恐がりの子は本当に損だなあと、切ない気持ちになります。
病院に慣れていない動物達は、来ること自体がストレスになってしまいます。
具合いが悪いのにさらにストレスをかけるなんて!と飼い主さんが感じるように、動物病院の獣医師である私も、それだけ怯えている子たちを見ると、本当にかわいそうだなと思います。
以前勤めていた病院で、チンチラの十四歳の女の子が運ばれてきました。
文字通り、運ばれてきたのです。
抱えられた腕の中でぐったりと体を横倒しにしている様子だけでも状況が厳しいことが伝わってきました。
聞けばもう一ヶ月以上前からろくろく食べられていないのだそうです。
「病院に連れてきたかったんですが…とても気性が荒くて、ケージに入れるだけで大暴れなんです。
それに以前病院に来た時には、スタッフの方に怪我をさせてしまって……心苦しくて」
ここまでぐったりしてくれなければ連れてこられなかったのだと、息も絶え絶えなその子を見ながら飼い主さんは辛そうに言いました。
ひどい腎不全だったその子は治療を行いましたが、亡くなりました。
病期が進みすぎて、治療をしても間に合わなかったのです。
あの子のことを思い出すたびに、病院に行き慣れているということは、それだけで予後にかかわるのだと思い返します。
たかだか病院に来る、という行動ですが、それを日常になじませていれば、あの子はもう少し早く治療ができていたでしょう。
ではどうやって慣らしたら良いのでしょうか?
これは小さな頃から頻回に病院へ通うしかないのだと思います。
それこそ爪切りやホテルやトリミングなどで幼い頃からきている動物たちは、初めこそ固まりながらも徐々に慣れていくのがよくわかります。
たとえば腎不全で毎日のように点滴にきている猫は、最初はうなり続けていても、ゆっくり慣れていくことがほとんどなのです。
年に一回、それも痛い注射のためだけにしかきていない子と、毎月のようにきてはおやつをもらって帰る子、どちらが慣れるかというのは自明の理です。
うちの子は病院が嫌いだから…というのはほとんどの子に当てはまることです。
中には散歩のたびに病院によってくれる子や、来たら嬉しすぎておもらしをしてしまう子、ホテルに預かるとお迎えが来てもケージから出ないで帰らないと主張する子もいますが、それは非常に稀なケース。
ほとんどはみな、病院が苦手です。
だからこそ普段元気な時から慣らしていってほしい。
いざというときに、ためらう気持ちを待たずに来院できるように、そう思っています。
2017-05-31
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