動物病院HOME < 院長のコラム < 夏のお出かけには対策を
二週間後には気温が下がって30度を超える日は少なくなるというのに、ほんの少し停車していた車の中に戻って室内温度計を見たら、37度ありました。
座席のシートはジリジリと熱く、衣服との間にじんわり汗を溜めていきます。
先ほど残していったペットボトルホルダーに挿さったジャスミンティーはすっかりホット飲料になっていました。
急いでフルパワーで冷房をかけるも、出てくるのは、まるでグアムのような湿度の高い高温の空気。サウナレベルの暑さが解消するまで、信号機を3個は通りすぎました。
確かリチウム電池を車内に残して戻ってきたらあまりの高温に爆発していたという恐ろしい話がありましたが、本当に今の時期の日中に止めた車の中は灼熱地獄なんだなと実感します。
今年の夏も車内に取り残された幼児が熱中症で亡くなる痛ましい事件が続いています。
なぜ忘れてしまうのだろうという疑問はさておき、こうならないために人が注意する以外のアイテムを用いて対応すべきだと思います。
対人感センサーを搭載している車なら、車内に残された人や生き物に対して警告ブザーを鳴らすことなんて簡単じゃないかな?と思うのは全くの素人だからかもしれませんが、誰かが注意したらいい話、ではなく技術やテクノロジーによって人の不注意などの弱いところをフォローできればいいのになと思います。
幼児の置き去りは事件になりますが、犬や猫の置き去りはよほどでない限りニュースになりません。
先日、商業施設で日陰にある駐車スペースに車を停めると、すぐ隣にミニバンが滑り込んできて停車しました。エンジンをすぐに止めて中から中高年のご夫婦と思しき方が二人降車し、ショッピングモールへと歩いていきました。
よく見ると窓が少しだけ空いています。
その窓のそばに一匹のトイプードルが、飼い主が歩いていく方向を見つめていたのです。
よく晴れた日の時間は午後2時半、日陰であってもとんでもなく気温が高い時間帯です。
実際外に出れば汗が吹き出し、肌を焦がすような熱波に、日差しの強さ、日傘は必須、日焼け止め必須、サングラス必須の状況です。私が車内にいたのも日焼け止めの塗り直しをしつつ、あまりの暑さに外に出るのを躊躇していたからなのです。
ですが隣のミニバンはエンジンはしっかり停止、隙間は犬が鼻をだせないほどほんの少ししかあいていません。
え、これ、熱中症になるんじゃないの?
飼い主さんがあまりにもあっさり犬を置いて行ってしまったところを見ると、どうやら車内で犬を留守番させることに慣れているのでしょう。
犬の方も慣れた様子で後追いしたり泣いたりもせず、車内を行ったり来たりしている様子が窓越しに見られます。
中に扇風機のようなものやミニクーラーがあるかまではさすがに見えませんが、それでも万が一何も対策しなければ数分から数十分で車内の温度は40度を超えることがわかっています。
この場に留まって犬の飼い主が来るのを待つか…しかし先約がありどうしても後5分で出発しなければなりません。
苦肉の策でショッピングモールに走り、併設されたペットショップの店員さんに犬のことを伝えると、「またですか…」と半ば呆れた口調で車の様子を見に行ってくれることを約束してくれました。
どうやらペット連れで買い物に来る方は多いのですが、ペット同伴が許可されているのはこのペットショップだけで、他のお店は当然無理。なので連れてきた犬や猫を車の中に置いていく飼い主さんが後をたたないのだとか。
「他のお買い物の時はどなたか犬と外で待たれるか、もしくは元から連れてこなければ良いのですけど」
スタッフの方はかなり困った様子でした。
暑い最中にそれは自殺行為ですよねと話しつつ、これは珍しいことではないんだろうなと感じました。
だいぶ前になりますが2012年にタレント犬として活躍してたサモエドが、八月に車内に残され、エアコンが誤って切られたために熱中症になり亡くなった事故がありました。
その時は亡くなった犬がタレント犬であったこと、閉じ込められていた9頭中7頭が亡くなるという大変悲劇的な状況であったこと、また吠え声を抑制するために声帯を除去されていたことなどからも、当時ニュースに大きく取り上げられました。
ですがおそらく同じような事故があっても、一般の動物たちの場合はネットニュースになることすらないでしょう。
よって同様の事故は人知れず起きているのだろうなと思います。
人が簡単に死んでしまうのだから、毛皮を着ていて暑さに弱い動物たちはもっと簡単に死んでしまいます。
汗のかけない犬や猫は、人よりもっと急速に体温が上がり、必死のパンティング呼吸(口を大きく開いて舌を出し、浅く速く呼吸をすること)も閉鎖された車内では湿度が上がってこもるばかりで、効率的に体温を下げることはできません。人よりも体力のない小さな体は、泣いたり叫んだりもせずあっという間に命の危機を向かえるでしょう。その場からすぐに緊急対応のできる動物病院へ連れて行くことができれば幸運ですが、場所によってはたどり着く前に死んでしまう可能性があります。
実際、海の近くの病院で働いていた頃は、毎年熱中症になる犬が後を絶たず、半数は手遅れでした。
もしかしたら吸水ボトルや冷房をその犬のために完備した特別仕様の車だったのかも知れませんが、そういう車がごく一部であることもよくわかっています。
大抵の方は、熱中症で倒れた動物たちを病院へ運んでくる時、「ほんの10分くらい留守にしただけで」「日陰に留めておいたし」「いつもやっていたんですけど平気でした」「エンジンは止めておきました、すぐに戻るつもりだったから」とおっしゃいます。
でも、なってしまった事実は消えませんし、エンジンを止めた車内に人を含めた動物や生き物を残しておくことは推奨されません。
そしてそのほんの少しの時間で、命は簡単に失われるのです。
一つ、お願いがあります。
動物たちとお出かけするのはとても楽しく、豊かな経験を得ることができるものです。
ですからきちんと対策と予防をしていれば、ぜひお出かけしていただきたいと思います。
けれど、その際はあくまでご家族の人間がメインなのではなく、何をするにも動物たちファーストの視点で行動して欲しいのです。
食事をする時はできれば動物たちが同伴できるところを、お泊まりするところは一緒の部屋で、移動するときはなるべくそばを離れず、目を離さないようにして欲しいのです。異常があれば現地の動物病院へすぐに駆け込めるように場所を調べておき、常用薬と今までの予防歴や検査結果などを持っておくなどの用意も必要です。
それが無理なのであれば、きちんとどなたか家族一人とお留守番をするか、泊まりの予定であれば行き慣れたペットホテルに預けてください。
良かれと思って動物好きのご友人に預けた結果、誤食をしてしまい緊急入院になったり、慣れないところで台から落ちて捻挫や骨折になって、預かったご友人が慌てて来院された、なんていうケースは後をたちません。
むしろ正規のペットホテルにきちんと預けたほうが、安心な場合も多いのです。
ただし、急に預けるよりも事前に一度お試しで泊まってみた方がいいのはいうまでもありません。
これから秋が深まれば行楽シーズンになります。
動物たちとのお出かけはピークになるでしょう。
でもちょっとした油断から簡単に命の危険が生まれることを、今一度認識していただきたいと思います。
2023-09-15
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