院長のコラム

動物病院HOME < 院長のコラム < エキノコックス症の危険性

エキノコックス症の危険性
エキノコックス症の危険性

ようやく涼しくなったなあ、と季節の移り変わりを感じようとした矢先、一気に秋を通り越したような気温になりましたね。

トレンチやパーカーでは対応できずに、フリースやダウンまで引っ張りだしてきて、慣れない温度になんとか対応しようとしていますが、日中には汗をかいてしまったり、逆に雨の中では凍えるお湯な思いをしたりと調整が上手くいかないこともしばしば。

こういう時期は人も動物も体調を崩しやすくなりますので、どうぞご注意下さいね。

エキノコックス症とは
エキノコックス症とは

さて、大分気になるニュースが飛び込んできました。

みなさんはエキノコックス症を知っていますか?

耳馴染みがない方でも、キタキツネに素手で直接触ってはいけない!という注意はご存知ではないでしょうか?

これは日本では北海道のキタキツネがこの感染症の主な感染源とされているからです。

エキノコックス症はエキノコックス(Echinococcus)という寄生虫によるによる感染症で、エキノコックスの幼虫(包虫)が原因となります。

単包条虫(Echinococcus granulosus )と多包条虫(Echinococcus multilocularis )の2種類があり、動物にも人にも感染する人畜共通感染症です。

ノミから感染する瓜実条虫などと同じ条虫の分類に当てはまる消化管内寄生虫ですが、その姿も挙動も大分異なっています。

hr

人への感染は成虫に感染したキツネやイヌなどから排泄された糞の中の虫卵に汚染された手指、水、食物、埃などを経口的に摂取した時に起こります。

この幼虫に感染すると、即症状が出ることはないため感染した事自体に気がつきません。

しかし幼虫は肝臓、肺臓、腎臓、脳などで嚢胞を作りゆっくりと発育します。嚢胞は徐々に増大し周囲の臓器を圧迫していきます。なんと多包虫病巣の拡大は極めてゆっくりで、肝臓の腫大、腹痛、黄疸、貧血、発熱や腹水貯留などの初期症状が現れるまで、成人では通常10年以上を要するとされます。

まさか十年も前に感染していたとは知らない人が、症状を放置すると約半年で腹水が貯留し、やがて死に至るおそろしい病気です。

発症前や早期の無症状期でも、スクリーニング検査の超音波、CT、MRIの所見から検知される場合があるのですが、そもそも無症状ですし、ある程度病気が進まないと見つけることが難しいのが実際の所です。

北海道では終宿主はキタキツネとされており、この糞尿に触れた人が感染するほか、中間宿主としての野ネズミなどを猫や外飼いの犬などが食べて感染が成立することがわかっています。

hr

国立感染症研究所によれば、国内での最初の流行は、毛皮と野ねずみ駆除 とを目的として移入されたキツネに多包条虫感染個体がいたことから、礼文島で発生したとされます。

1937年から1965年までの間に、島民約8,200のうち患者数114名の発症を記録し、1950年代以後の徹底した対策によりこの流行は終焉します。これは島内の終宿主となってしまった犬、猫、野ネズミの駆除を含むかなり厳しい対策です。

一方で 1965年の患者発見から始まる根室・釧路を含む北海道東部地方での流行は、北方諸島を中部千島まで人為的に移動させられたキツネが流氷を介して北海道に侵入し、 その中に感染キツネが含まれていた事に端を発していると推定されています。

残念ながらここでの感染コントロールはできず、あっという間に道内全域に広がってしまいました。

この流行は1997年までに累計患者数146 名を数え、現在でも毎年数名の新しい患者が見出されていているほか、礼文、根室・釧路地方を除く北海道の東北、中央、西部地域にあっては、1965年から1988 年の間に30名の患者が発見されています。

また1989 年から1997 年までの間に66名もの新患者の発生を見ており、1998年までに北海道エキノコックス症対策協議会で認定された患者数は累計で383名です。

感染し、包虫が嚢胞を形成してしまえば臓器の嚢胞を外科的切除することだけが唯一の根治的治療法であり、瓜実条虫のように駆虫薬をのめばいいという軽い感染症でないことが分かると思います。

hr

これまで、エキノコックス症は北海道と主に東北地方に限局した感染症でした。

しかし、近年知多半島で捕獲された野犬で近年、人体に入ると重い肝機能障害を引き起こす寄生虫「エキノコックス」の感染確認が相次ぎ、国立感染症研究所が「半島内で定着した」との見解を示したのです。

定着確認は北海道外では異例のこと。青函トンネルを回したキタキツネの移動などが確認されている東北地方でも感染者が散見されていましたが、なぜ遠く離れた愛知県で土着したのかは不明です。

本州では2005年に埼玉県で犬の感染が見つかり、愛知県では14年に知多半島の阿久比町で捕獲された野犬から検出さました。

埼玉県ではその後見つかっていないため、地域に土着したとは考えられていませんが、愛知県では17年度に3件、19年度1件、20年度4件が確認されていたため、感染症界界隈では怪しいと噂になっていました。

県感染症対策課によると、狂犬病対策で捕獲した野犬の調査で見つかっており、いずれも詳しい感染経路は不明とのこと。

地域への定着があるとなれば、今後一斉に近県から他の県への感染拡大が予想されます。

今一度、定期的な駆虫を
今一度、定期的な駆虫を

こういったおそろしい人畜感染症が広がりを見せているのですが、一部では非常に危険などうこうとして注目されるものの、新型コロナウイルス感染症の蔓延のために、正直それどころじゃない感のある報道しかされていません。

われわれ動物を飼う立場としては、非常に危ない感染症が関東付近にも来たぞ!定期駆虫して対策しなきゃ!と啓蒙すべき所ですが、なかなかそれが広がりません。だからといっていたずらに犬猫も危険だ!というのではなく、きちんと飼育されている犬猫には定期的な駆虫をしていこう、と考えるべきだと思います。

じつはたほう条虫は嚢胞形成をする前の消化管内にいる時に駆虫薬を飲めば、きちんと駆除できるのです。

必要なのは正しい知識と、感染しているかも?という予想からの予防的対策です。

残念ながら、エキノコックスよりも余程たくさん存在しているノミやマダニの予防すらしていないケースも散見されます。

レアな感染症ともなれば、どうしても予防に意識が向かないかもしれません。

しかしもたらされる健康被害は比べられないほど大きく、実際に感染した時から遥か未来の自分を苦しめることになる可能性があるのです。

どうか将来のことも考え、定期的な駆虫について今一度考えて頂ければとおもいます。

2021-10-31

院長のコラム トップ

「うちの子の様子がおかしい?」「狂犬病の注射を受けさせたい」「避妊手術はいつすればいいの?」など、お気軽にご相談ください。

「うちの子の様子がおかしい?」「狂犬病の注射を受けさせたい」「避妊手術はいつすればいいの?」など、お気軽にご相談ください。

tel03-3809-1120

9:00~12:00 15:30~18:30
木曜・祝日休診

東京都荒川区町屋1-19-2
犬、猫、フェレットそのほかご家庭で飼育されている動物診療します