院長のコラム

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落ち着いて対処出来るように
落ち着いて対処出来るように

梅雨明けして一転、猛暑に大雨と気候が安定しない夏ですね。

東京はお盆を迎え、施餓鬼をすませ迎え火を焚きました。午後7時でも明るい空には入道雲が形を崩した雲が夕日を受けて赤く染まっていました。

丸めた新聞紙の上にオガラを折ってのせ火をつけると、ちょうど吹いてきた少しの風で大きく燃え上がりました。

「帰ってくるねぇ」

夕方の明るい空へと白く登っていくけむりは、背丈を越えたあたりでふわりとその輪郭を失い、夏空の一部になります。

「みんな、みえるかな」

「うん、きっとすぐ見つけるよ」

オール電化も進んだいま、ぱちぱちと爆ぜる本物の炎を見ることがなかなかない姪たちと、興味深げに紅い火を見つめそんなふうに話します。

死者が帰ってくるのをお迎えする風習と考え方は、遺されたがわの切なさが感じ取れる気がします。帰ってきてくれる人たちは、会いたい人たち。そしてまた死者の国へと送らなければならない人たち。

生と死という大きな隔たりの向こうとこちらで、分たれてしまった愛しい人たちに、いっときでもいいから会いたいと願う心が、この風習を続ける一つの原動力なのではないでしょうか。

あちらの世界でも見守っていてくれるけれど、実際、お盆の間はなんだか身近で見守られている気がします。

動物たちもきっと一緒に帰ってきてくれると思っているので、我が家にはたくさんの犬たちがぎゅう詰めにいてくれているはずです。

みんな向こうで楽しく暮らしているのだろうけれど、こちらにきた時はまた刺激的な時間を送っているのではないかな、なんて考えています。

仏壇には茄子の牛と胡瓜の馬がそうめんの手綱をつけて仏壇に飾ってあります。オガラの足を付ける大役を今年は任されました。

くる時には胡瓜の馬で速く、帰るときは茄子の牛でゆっくりと。

そういう意味なのだと聞いた時に幼いながらもなんとも切ない話だと思ったことを覚えています。

こうやって毎年お迎えをするたびにこの風習は無くなってほしくないなと思いながら、普段の忙しなさにお墓参りも行けていない無精を心の中で詫びつつ手をあわせました。

小脳梗塞の発症
小脳梗塞の発症

ご報告があります。

うちの病院で副院長を務めておりますゴールデン・レトリバーのアリエル(12歳)が、今月頭に小脳梗塞を発症しました。

これにより一時的に右半身が麻痺し、排泄も困難となりました。

前駆症状に心当たりはなく、突発的に発症しました。

これは一般的な犬猫によくある始まり方です。

脳梗塞はある程度高齢になれば、どのワンちゃん、猫ちゃんでも起こる可能性がある病気です。

原因はわかっていませんが、脱水により血液の粘稠性が上がることや、塩分過多の食事、運動不足、ストレス、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症などの関係が指摘されています。

梗塞の起きた部位や規模、その原因となる疾患などの診断が予後にとても大切なので、速やかなMRIが必要になります。時間が経てば対処が間に合わなかったり、さらなる梗塞や出血が起こったりする場合もあります。

一体どのような症状で始まるのか、以下に動画を載せておきます。

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動画①(外で歩いてよろけている様子)

これは様子がおかしい、と気づいた直後の動画です。

この時点で少し頭が傾き、右半身の動きがぎこちなくなっているのがわかります。

この数分後には自分で立てなくなり、歩行不可能となりました。

そして吐き気が断続的に続きました。これはめまいによるものですが、かなり強い吐き気どめを使ってもなかなか止まらない程の強い症状でした。

動画②(入院ケージで横になっている様子)

MRIのためには全身麻酔をかけなくては行けません。

事前の検査として、血液ガス検査、血液生化学検査、甲状腺ホルモン検査、胸部レントゲン検査、腹部超音波検査を行い、麻酔のリスクを診断します。

その後、MRI検査を行いました。

診断としては左側小脳梗塞でした。同時に撮影したCTでも確認しましたが、幸い腫瘍などが原因で続発するものでもなく、心臓、甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモンなどにも異常が見られませんでした。よって対処療法と新たな血栓を予防する薬を使用し様子を見ることになりました。

数日から一ヶ月程度で自然に回復することが多いのですが、画像診断や血液診断で見つからなかった原因が後ろに隠れている場合は、一ヶ月を過ぎても回復しないことがあります。その場合は再検査を行うことになりました。

動画③(院内で歩く様子)

発症して20時間後の動画です。

自力での起立はできなかったのですが、腰を支え立たせると歩くことができるようになりました。

まだ排泄はうまくできず、漏らしてしまう状況です。

動画④(階段を上がる様子)

発症三日目、だいぶスムーズに歩行ができるようになりました。

階段をゆっくりですが上がることができます。排泄がコントロールできるようになり、うんちもおしっこも自分でしたい時にできるようになりました。

元から股関節形成不全があり腰が悪いことと、加齢による変形性脊椎症と馬尾症候群疑いがあるため、足を引きずる動作や多少のふらつきはありますが、非常に元気でよく食べ、嚥下などにも問題がなく、発作やその他の後遺症も今のところ見られません。

現在はレーザーでの治療と、筋肉のリハビリのため、病院内を自由気ままに歩き回っております。

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アリエルは幸いにも発症当初から意識障害などが見られず、吐いているのに食欲が全く衰えず、半身不全麻痺以外の神経症状が見られませんでした。

発症部位が大脳ではなく運動器を司る小脳であったこと、出血などではなかったこと、腫瘍などに続発するものではなかったことなどラッキーが続き、今のような回復を見せてくれています。

それでも、本当に心臓が止まりそうになりました。

大型犬の12歳は非常に高齢と言えます。

ゴールデンレトリバーという犬種において考えれば、いつ何があってもおかしくないと考え、いざの時は獣医師として冷静に対処できるようにしようと、何度も自分に言い聞かせてきました。

ですがそんなことが吹っ飛ぶほど恐ろしく、震えるほど怖かったです。

病気は突然始まる症
病気は突然始まる

いつも、病気は突然始まります。

犬や猫は言葉を持たないために、自己申告での不調を訴えてはくれないため、目に見える症状がかなり派手にでてくれないと気が付きません。

そしてようやく気がついた時には病気が進んでいて、場合によってはなすべもないことだってあります。

「昨日まで、なんともなかったんです」

「さっきまで普通だったんです」

これは獣医師になってからおそらく最も多く聞いた言葉です。

それでも、病気はやってきます。

想像もできないタイミングで、突然に。

その時のために、やはり自分の中でそういう場合にどう行動するのか、をシュミレーションしていただきたいなと思います。

起きた症状を動画でもメモ機能でもいいから記録する。

緊急の時に深夜でも行ける緊急病院をきちんと押さえておく。

保険証や今までに行った検査結果はひとまとめにしておく。

持病や飲んでいる薬があれば、きちんと病名、薬の名前、容量をメモしておく。

そしてどこまで何をするのかをおおよそ決めて置く。

検査はどこまでするのか、麻酔はするかしないか、手術はするかどうか、お金はどこまでかけるのか、入院を希望するのかしないのか。

あらかじめ考えておくことでその場でおこるパニックを限りなく小さくすることができると思います。

大切な家族に何かあった時、パニックにならないのはなかなか難しいことです。

それを少しでも小さくし、あの時ちゃんと落ち着いて対処できていたらよかった…なんて後から後悔せずに済むようにしましょう。

備えられることは実際とても小さなことですが、していないよりはずっといいのです。

そんなふうに考えるきっかになってくれたらいいなと思います。

2022-07-15

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