動物病院HOME < 院長のコラム < コロナ禍でのコミュニケーション
連日のゲリラ豪雨との戦いに、洗濯物が乾かない、もしくは乾ききる前に降られて濡れる、といった結果しか出せず無念を噛み締める。
雷が鳴ったかと思うと、バケツどころかプールをひっくり返したかのような土砂降り。
見る間に道路から跳ね上がる飛沫が高さを増し、雨脚の強さに視界が白くけぶり始める。
分厚いガラスに仕切られて、聞こえなかった雨音が聞こえはじめる。
道に立てられたのぼりが風を受けてしなり、揺れる。街をゆく人たちはとっくに傘をさすことをあきらめ、濡れるに任せながら早足で通り過ぎる。
さながら小さな嵐がここに誕生している。
それはほんの数分のこと。
見る間に差し込んできた陽射しと、分厚い雲の隙間からのぞくそれこそ洗濯を終えたような青空。
しぶきを上げていた雨粒は、するするとその大きさを縮め、アスファルトのくぼみにできた水たまりに綺麗な波紋を広げはじめる。
まるでビデオフィルムを早回しにしているような、そんな不思議な時間が、珍しくもなくなってきた。
これが温暖化の具現化なのかな、と思いつつすっかり馴染んだマスクの下で汗をかく。
新型コロナウイルスにより、我々の生活は大きく変わらざるを得なかった。
マスク、帽子、飛沫防止グラス、フェイスガードを初めとした防護体制を始め、様々な会議やセミナーなどは全てリモートになった。
実際、上記に関しては参加ハードルが下がり楽な部分もある。何せ外出の手配をしなくても済む。
これまで子供を残せない時は子連れて参加することもあり、他の先生方に対して遠慮や引け目があるので、毎回ほとほと胃が痛かった。月一回の外出ですら自由にならないのが主婦業兼任の辛い所である。
だが、リモートならばその心配が全くない。宿題をさせ、風呂に入れつつ会議に参加し、セミナーを受講できる。子育て中の身としては本当にありがたいことだ。
ただ、懸念もある。本題以外のちょっとした会話などでやり取りされる話題や情報は、実際かなり有用で有効なものなので、それがなくなったことは目に見えないが、わりと弊害なのかもしれないと思う。
直接に会えば会話をするけれど、あえて電話やメールやラインやスカイプをしない相手は多い。これは他のお仕事でも同じだと思う。
煙草休憩を推進する訳では全くないが、同じ空間、同じ時間を共有するからにいるからこそお互いの考えなどを伝えやすいというのは間違いない。画面ごしであると構えてしまう所もあるし、電話やメールでは表情が見えない。
ここに最近感じる、ちょっとした不安がある。
人は言葉にしなくても、相手に向けて様々な信号を送っている。
好き、嫌い、緊張、リラックス、怒り、喜び、寂しさ、悲しさ。
こういった感情は、ふとした指先の動きや口元の筋肉のひきつれ、眼球や鼻孔の動き、体動や仕草に現れる。
これは動物の世界では顕著なことだ。
犬であれば耳を伏せ警戒をあらわし、猫であれば尾を打ち付けて怒りを表す。猿の笑顔は恐怖と怒りだし、インコの吐き戻しは求愛行動である。言語が人ほど発達しない世界では、ボディランゲージがメインになる。
人のコミュニケーションでも、言葉が通じない時はボディランゲージが物をいうのは、他国の方と会話をする時に自覚することだ。
でも例え言葉が通じる相手でも、ボディランゲージがあればより分かりやすい。
無表情で抑揚なく話せば、何を考えているのか通じにくい。簡単な内容であればそれでもいいかもしれないが、医学的な話しはただでさえ難しい。その上大切な家族に降って湧いた病気の話しなど、冷静に聞くことができないのが当たり前だ。
そもそも病院という特殊な場所で、見慣れぬ白衣や手術着を着た、ほぼ初見に近い相手にそんな専門的な話しをされても、大抵の方は六割も理解できない。できないのが普通です。むしろそれ以上に分かっていただけると思って、説明をしてはいけないと思っている。
ちなみにその六割の内容も家に帰れば三割に減ってしまうし、それをお家で留守番していたご家族に説明する時には二割以下になっていると思った方がいい。もし詳しい説明を求めるなら、自分自身も病院へ足を運ぶ方がベターです。
話しは戻るが、そういった理由で私はなるべくこちらの気持ちを伝えるように、表情を大きく動かし、声のトーンを変えて話すようにしている。なるべくゆっくり、相手が飲み込むことができる速度を心がけて話す。目と目を合わせ、分からないことがないかどうかも繰り返し確認する。
が、これがマスクと帽子を装着すると著しく阻害されてしまうことに気がつきました。今更ですが!
表情を変えていてもマスクで相手に見えないし、声を張らないとマスクごし、フェイスシールドごし、ガラスごしでは伝わらないから大きい声になる。
これは、由々しき事態といわざるを得ない。
地顔が怖いのはもう生来のもので、何も考えずぼんやり立っていれば、「何か怒ってる?」と聞かれ、
横幅も縦幅もあるために黙って空が綺麗だなあ、と思っていれば、「あの人、何の職業?威圧感がすごい」と遠巻きにされ、
地声も枯れているので、落ち着いて話そうと声のトーンを低くしたら、「なにか深刻な病気かと思いました、すごく怖かった!」と患者さんに涙ぐまれ……。
なんていうことは慣れっこで、だからこそのボディランゲージ(?)だったはずなのだが、コロナめ……。
そう、目下そこが悩みどころ。
逆もまた然りで、飼い主さん達の表情や声のトーンを察知することも難しくなっている。
診察の数を重ねると、当初診察室で緊張している飼い主さんが、ゆっくりと落ち着いてリラックスしながら病状をお話しできるようになるのだが、それまでの時間がおそらく今までよりかかるようになるだろう。
近接しない位置で問診をとると、表情の変化などはとくに見えづらい。
普段なら診察に関係のないお話、ご家族のことや美味しいご飯を食べたお話、ご自身の健康で心がけていることや、世間のニュースなどたくさんお話するのだが、それも控えなければならない。
必要最低限の会話と問診、接触だけで診察が滞りなく進むのであれば、何も普段からこんなに密なコミュニケーションをとる必要もないのだけれど。
ううむ、なにかいい方法があれば…と、取り立てて解決策もなく、悩んでおります。
さりとて、ワクチンが開発され、特効薬が見つかり、それらが巷に潤沢に供給されるようになるまで、まだまだ先が長くなるでしょう。
このマスク&帽子の防護ルックは、おそらく永続的に続くことになりそうですし、口元が見えるタイプのマスクに切り替えていく方がいいのかな。
そんな風に考えながら、秋が深まっています。
さて、今回は可愛いお写真を撮らせて頂いたので、ご紹介します。
前髪の寝癖がとっても可愛いマルチーズのランちゃん。いつもはふんわりと横に流れている前髪が、この日はポンパドールのように上に上がっていて大変キュートでした!思わず撮影させていただきました。
ランちゃんはもの凄くよくこちらの言葉がわかっていて、「ランちゃん、咳の具合はいかがですか?」と聞くと、わざわざゴホン!と咳をしてみせてくれます。お家では一切出ていない時でも必ずしてくれるので、咳がなにかしっかり認識しているんですね。
もう挨拶のようになっていて、毎回このやり取りをしています。
もう一枚はチワワのジョン子ちゃん。
飼い主さんのお母様がリメイクしてくれた可愛い浴衣を着てきてくれました。
夏の名残を感じる素敵な装いに一枚撮影させて頂きました。
ジョン子ちゃん、ゆかた見せて!と声を掛けるとこのポーズ。ブラックタンの被毛にとっても似合っていますね。
人間の悩みはつきませんが、動物達は現在の状況をよくわからない中でも必死に受け入れ、順応しようとしています。
私も見習って、より良い方法を模索していこうと思います。
2020-09-15
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