動物病院HOME < 院長のコラム < 猫ワクチンはなぜ必要?
関東も梅雨入りして、湿度の高い日が続きます。
五月雨から梅雨へ移行したとたんに、かすかな鬱陶しさが交じるのは何故でしょうか?
そういった気持ちを吹き飛ばすが如く、最近は可愛らしいカッパやブーツ型の長靴、おしゃれで楽しい傘など、レイングッズが沢山売られていますね。 カラフルな色合いは、目に楽しく雨の憂鬱さも少し軽くなる気がします。
逆に雨のよい所は、色がより鮮やかに目に映ることでしょうか。
紫陽花の葉の上に跳ねる雨粒は、ちいさな鏡のように周囲の情景を映し込み、のったりと葉陰に這う蝸牛は、嬉しそうに雨の恩恵を受けています。 花々の色も深く、そして心に染み入るような色合いが、心まで鮮やかに染めていくようです。
雨音に世界が閉じ込められて、どうしてだかふと感慨深くなる、そんな季節。
風流な方なら俳句の一つでもひねるのでしょうが、あいにく其処までの情緒ぶかさもなく、ぼんやりと空を眺める今日このごろです。
さて、今回は子猫のワクチンの話。 春のラブシーズンがおわり、新しい家族として子猫を迎えたご家庭も多いのではないでしょうか?
生まれた年、猫は二回、ワクチンをうちます。その後は追加接種として年に一度のワクチンが必要になります。
家の中で過ごす子であれば、三種のワクチンを、外に出る子であれば5種のワクチンを。
この中で本当に恐ろしいのは、猫汎白血球減少症です。通称猫パルボと言われるもので、血液の中で免疫を司る白血球が、一気に減少し、外界の菌やウイルスに対して丸腰になってしまうのです。
症状は発熱、食欲不振、元気消失、下痢、嘔吐などで、子猫がかかるとあっという間に死んでしまうことがほとんどです。
また成猫でも発症してしまうと一週間以内に亡くなってしまうケースが多い恐ろしい病気です。
非常に感染力が強いので、同じ家に飼われている場合、よほど気をつけて取り扱わなければ簡単に感染してしまいます。
私が初めてこの病気に出会ったのは、初めて勤めた病院ででした。
他の先生が見ていた、沢山猫を飼っているお宅で発症が見られ、17頭中、ワクチン未接種の11頭が死亡しました。この間、およそ二週間ほどの出来事でした。
成猫子猫関係なく、また治療の甲斐なくどんどんと亡くなることが、本当に恐ろしかったです。
ものの見事にワクチンを打っていた子だけが助かり、それ以外の子が亡くなるのですが、そのスピードが何より怖いものでした。
また感染症の場合、他の来院している猫たちにも感染する可能性があるので、診察も時間外で来ていただき、ご家族の方も徹底的に消毒をしていただきました。
入院も感染症の隔離室で行い、扱うスタッフも限定していたので、幸い他に感染を広げることは有りませんでしたが、見えない病原体と対峙するのは本当に難しいものです。
この病気はブリーディングなどで管理されたペットショップで販売されている子や、ブリーダーの出身の子たちのように、きちんとワクチン接種がされている場合には、あまりお目にかかりません。
外の世界で過ごしている猫たちには、定期的に流行するおそろしい病気です。
先日、この病気の発症症例に遭遇しました。やはり外の猫ちゃんを保護しおうちに迎えたケースでした。
ジャンボどうぶつ病院が開院してから、二例目になります。一例目は二年前の秋でした。前回の時は20匹ほどがおそらく亡くなったようです。
発症してしまうと、治療が間に合わないケースがほとんどですが、ワクチンが間に合えば命が助かる場合もあります。
改めて皆さんにお伝えしたいのは、ありがたいことに猫エイズなどと違って、これはワクチンで防ぐことが出来る病気だという事、また外から迎える猫の場合、こういった感染症を持っている場合もあるということです。
以前、7歳くらいの猫の具合が悪いと、来院された飼い主さんに、ワクチンを打っていますか?とお聞きしたところ、ひどく憤慨されて 「うちの子はマンションから出さないし、綺麗に飼ってるんです。 ワクチンなんてしたこと有りません」と言われました。
重ねて猫の白血病やエイズの検査はされましたか?とお聞きすると、ますます怒ってしまわれて 「そんな検査したことありません。子猫の時からずっと見てますし、綺麗な子でした」とかなり強い口調で言われました。
熱があったので、一度も検査をしたことがないならば、念の為エイズと白血病だけはみたほうがいいですと、おすすめしました。
結果は猫白血病の擬陽性でした。
検査結果をお話した時点で、飼い主さんはかなりパニックになってしまわれました。全く考えても見なかった結果を目にした場合、ごく当たり前の反応だと思います。
完全陽性でない場合、期間を空けて再検査になります。 またその時点での病状が白血病の発症とは結びついていないので、単なる風邪の公算が大きかったのですが、感染している可能性がある、イコール発症した!という考えで一杯になってしまわれたようでした。
そのことをお話しして、まずは風邪の治療をすることになりましたが、ひどくショックをうけて帰られた姿が、目に焼き付いています。
ワクチンは汚い環境で飼われているから打ってください、ということではありません。
また綺麗な環境で飼われているから猫エイズや猫白血病に感染しないわけではありません。
家に迎えた時点ですでに感染している可能性があるので、一番最初に確認したほうがよいのです。
感染していても発症と感染は違います。
人間のエイズと発症は恐ろしいことですが、感染していてもずっと発症せずに過ごす場合もあります。 感染イコール発症ではないのです。
それならなぜ感染を発見する必要があるのか、というと、発症する可能性を知っていたほうが、今後一緒に生活する時に有利なことが多いからにほかならないのです。
このケースでは、綺麗な所で他の猫にも会わずに単独で飼育しているから、感染症なんてかからない、だからワクチンもしない、という考えでしたが、相手がウイルスや細菌の場合、目に見えませんからどこから感染するかはわかりません。
汚い環境であればより感染しやすいだけで、綺麗だから感染しないわけではありません。
綺麗な環境なら感染しないということならば、毎年これほど人のインフルエンザが流行ることはないでしょう。
なんのためにワクチンがあり、それが推奨されているのか、今一度考えていただきたいです。
その他にノミやマダニ、線虫や条虫などの寄生虫などの感染や、猫白血病や猫エイズなどの感染もよく見られます。
おうちにもともと猫がいる場合、その子にうつすケースもあとを絶ちません。
ペットショップなどの子と異なり、外猫を保護した場合など、その子のバックグラウンドがわからない場合は、きちんと便検査、血液検査などを行い、然るべき駆虫や予防をしてから、一緒にする必要があります。
初めて子猫を迎える場合についてのコラムは、過去にコラムでも取り上げましたが、家族が一人増えるのと同じですので、十分に備えてから対応してほしいなあと思います。
可愛いその姿に心を奪われて、縁があってお家に迎えたら、その時は必要なことをきちんとして、そうして出来た新しい家族と楽しいこれからの生活を送って欲しいです。
よくわからないけどとりあえず飼ってみた!というスタートでも構いませんが、其処にはいろいろなリスクもあるのだということを、頭のどこかに置いておいていただければと思います。
2016-06-15
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