院長のコラム

動物病院HOME < 院長のコラム < 自由がもたらす不安

自由がもたらす不安
自由がもたらす不安

今月はなんとコラムのは更新が3回となっています!

すなわち締切も3回!文書を書くのは基本的大好きなのであまり苦にならないのですが、十年も書いているとテーマに詰まることがあり、自由に書いていいことが逆に何を書いていいのかわからなくなる原因となっていることがあります。

あ、これは世のご家族間で、「ご飯何がいい?」にたいして「なんでもいいよ!」と答えて、「なんでもいいが、一番難しいんだよ!」と質問者の地雷を踏みぬき、家庭内戦争化が勃発するあれと同じ原理なのでは…ということに今気づきました。

hr

Anxiety is the dizziness of freedom.

有名なセーレン・キルケゴールの言葉ですね。

不安は自由のめまいである。

自由というものを注視することにより、不安を覚えると言い換えてもいいのでしょうか。

自由であるということは良くも悪くも何も規制がなく、すべて己の解釈と選択により選ぶことができてしまうということです。

その選択の結果はなにも制限されていないために無限の可能性があり、善にも悪にもなることができる。そう考えると選択一つすることも、結果が起こす未来について思いを巡らせてしまえば、ゾッとするほど深く暗い深淵を覗き込んだときと同じで、めまいがするような心持ちになります。自分の立っている地面すら揺らぐような、そのままその穴の中に飛び降りて、いえ、落下してしまうような、時分という存在がどこに立ちどこに向かうのかわからなくなるような。これが不安の正体であるという話ですね。

なにもかも自由が許されることで、なにか一つを選ぶ恐ろしさに気付かされてしまう。

hr

この概念は、未知の未来への恒常的な不安にもつながるのでしょうし、実際診療をしていてもこの不安思考にはまり込んでしまう飼い主さんを見ることがままあります。

この薬を使うことで、このような効果があり、長期的に使えばこのような副作用が出ます。

これはなにかの薬を使う場合、インフォームドコンセントとして必ずする説明なのですが、通常は副作用を起こさないようにおくすりの容量を調整し、副作用の気配が出始めた時点で投薬を中止したりしていきます。

実際投薬してみなければ副作用が出るかどうかはわからず、また出るまでの期間も個体差があるので投薬を開始した時点ではおおよその予測しかつきません。

しかしこの投薬はじめの時点で、起こるかもしれない未来の副作用への不安が止まらなくなってしまうことがあります。

まだ投薬の効果すら安定していない状況で、その先のまだ出ていない不安にふり回されてしまうのですね。

一つ一つの選択全てに対して不安が増強され、ご自身が追い詰められてしまって、冷静にポジティブに判断することができなくなっていきます。

そんなケースでよくあるのが、なにやらネットで調べてよく効くとかいてあった高価なサプリメントや、体の毒素を排出させる○○水のようなもの、身に付けるとがんが消えたというペンダント、なんにでもきき副作用のない漢方などを心底信じてしまい、高額なお金を注ぎ込んでしまうことです。

ええ、そうです、人間の医療での流れと同じなのです。

人のとんでも医療はニュースなどで取り上げられたり、注意喚起がなされたりしますが、動物関係はもはや魑魅魍魎が跋扈している状況でなんの規制もかかっていないと考えてよいでしょう。

深淵への不安につけこんで、暴利を貪る商売は古よりはびこっています。

すこしでも効く可能性があれば藁にもすがりたい心理に、高額の料金設定でこれだけ高いものなら効くかも!という逆説的な安心感を付与して、口コミやあなただけという特別感と閉鎖感で味付けした、旨味の多い商売です。

たとえそれが効かなくても使用した飼い主さんは恨みをいだきません。正規の治療と異なり、効かないかもしれないが使う、という前提条件から始まっているからです。だからクレームは少ない。ローリスクハイリターンですね。だからこそはびこるのです。今後もなくなることはないでしょう。詐欺というのはそういうもので、騙されないようにこちらが気をつける以外どうしようもないのです。

中には、すごくいい口コミがあった!効果があるとコメントが多く書いてあった!これを使おうと思います!先生どう思いますか!と自信満々にいわれて持っていらっしゃる方もいます。持ってこられたサプリやその他いろいろなものは、率直に言って、眉唾どころか全く信頼する余地のない物が少なくありません。

病院では、基本的に論文やレポートなどの報告がきちんとなされたものしか扱いませんし、取引業者を介し万が一なにかあったときに対応できる保証があるものしかおすすめできませんので、持ってきていただいたものに関して判断はできませんし、おこないません。万が一の詐欺まがいの行動に協力はできないからです。

そんな時に、そのように説明をしても残念ながらご理解いただけないことも多いので、ここまで詳しくお伝えすることはありません。

信じる、という強い気持ちを他人の意見で動かすことは困難です。信じるという行為が、信仰にも似た崇高な感情だからです。

しかもそこに根付くものは深淵への不安、原初よりひとに備わる未知への不安です。

一獣医師が対応するにはいささか大きすぎる、人類共通の課題だな、と最近はよく思うようになりました。

人との対話は根本であると思うのですが、及ばないこともあるのだと。逆にその限界を知ることで、さらに見えるものがあるかもしれませんね。

Life can only be understood backwards, but it must be lived forwards.

人生は後ろ向きにしか理解できないが、前向きにしか生きられない

これも同じくキルケゴールの言葉です。

自分がした選択を理解するのは通り過ぎてから。

しかし不安という深淵に飲み込まれて前に進めなければ、未来はない。

これは人が心に刻みこみ進んでいく真理なのかもしれません。

2023-11-20

院長のコラム トップ

「うちの子の様子がおかしい?」「狂犬病の注射を受けさせたい」「避妊手術はいつすればいいの?」など、お気軽にご相談ください。

「うちの子の様子がおかしい?」「狂犬病の注射を受けさせたい」「避妊手術はいつすればいいの?」など、お気軽にご相談ください。

tel03-3809-1120

9:00~12:00 15:30~18:30
木曜・祝日休診

東京都荒川区町屋1-19-2
犬、猫、フェレットそのほかご家庭で飼育されている動物診療します