動物病院HOME < 院長のコラム < 知らないと怖い!道端にある自然毒
十二月のコラムを書くときは、いつもなにか感慨深いものがあるのですが、今年はまた一段と気づいたら過ぎていた一年になったせいで、余計にいろいろな思いが込み上げてきます。
木枯らしの冷たさに、冬の深まりを感じますね。なかなか寒くならないなぁ、まだ蚊が飛んでるけどどういうことかしら……なんて思っていましたが、とうとう冬本番になりました。
放射冷却でびんと冷える朝は、温かい布団から抜け出すのにものすごく苦労します。
この世の至福のひとつは睡眠だと信じているので、これはなかなかの難題です。
もし一日なにもしなくていい休みができたら何をするか?と聞かれたら、まずベッドから起きない、と答える寝汚さと冬の寒さの相性がいいわけもなく朝が辛い季節です。
さて先日興味のある本を取り寄せました。
「あつまれどうしょくぶつの毒」という本で、自然毒の緊急対応について書かれているものです。
対象が人なのですが、これは動物にもかなり有益な情報だ!とほくほくしながら読みました。
今回一つを紹介したいと思います。
水仙はよく知られているお花で、庭などにもよく植えられていますが、毒があります。
ヒガンバナ科に属する多年草で、原産国はなんと地中海です。花が咲いていれば水仙とすぐわかる風貌をしていますが、葉だけになるとニラによく似ていることから誤食が起きやすいそうです。
他にもノビル、ニンニクなどにも似ており、間違ってニラとして販売されていた例もあるとか。
摂食するとおおよそ30分以内、すぐに嘔吐の症状を出すことが特徴です。
強い催吐作用はリコリンと言われるアルカロイドによるものですが、これは草全体に分布しているので、お散歩中にかじったりするとアウトです。
犬ではリコリンは2.0mg/kg皮下注射で必ず吐くことがわかっています。ですがおおよそ症状は二時間半程度で収まります。
もう一つ含まれるガランタミンは抗コリンエステラーゼ阻害作用があり、血液脳関門を通過するため、中枢神経に直接作用します。こちらも嘔吐、悪心、重篤では失神、徐脈、心ブロックなどが起こる怖いものです。
大抵は短期間で軽快するものの、長く食べ続けたりして蓄積されたり既往症がある場合など死亡報告もあります。
水仙自体はかなりメジャーでどこでも目にすることができる植物である分、暴露される可能性は高い毒でもありますね。
実は外猫ちゃんが嘔吐の症状で来院された時に、吐物の中にこれが混じっていたことがありました。
猫草などを活用されている方はご存知だと思いますが、先の尖った葉を自ら好んで食べ、はきもどす習性がある子たちがいます。
その対象となるものは通常イネ科の無害なものが多いのですが、庭先にある水仙の葉をかじることが絶対にないとは言い切れないのです。
人でもかなり強い症状が出るものですが、体が小さく、代謝経路の違う猫などではより重篤な症状になることもあるでしょう。
実際、そのケースで問題になったのは、なぜ吐いているのか全く飼い主さんには心当たりがなかったことです。
たまたま院内で吐いてくれた時に、吐物に混じっていたので原因がわかりましたが、外をめぐる猫ちゃんは基本的に何をしているのかわからないことが当たり前です。事故にあったのか、誰かに攻撃を受けたのか、毒を摂取してしまったのか、何もかもわからない状態で治療に望むのは博打に近い行為です。
お外に出すこと自体を控えていただきたいなと思っています。
他にもトリカブトやシガテラ毒、ヘビ毒など大変興味深いお話ばかり乗っていますので、ワクワクしながら読んでいます。
なんでこんなに興味が湧くのかなと思っていたのですが、そういえば小学生の頃アガサクリスティーにはまってやたらに推理小説を読んでいたことを思い出しました。
そこで使われる凶器には、ナイフや銃なんて直接的なもの以外に、毒が多用されていました。
青酸カリがアーモンド臭がすることや、トリカブトの根っこに毒があること、スズランが致死性の毒花であることや、福寿草が心停止を起こすことなどは、皆さんもそういった小説で知ったのではないでしょうか?
お話の中では、ストーリー上どうしても毒を盛られたら殺されてしまうのですが、実際の中毒の時にお医者さんたちがどのように救うための分析や治療に当たるか、といった視点がこの本で垣間見えるのがまた興味深く、あの時こういった治療ができていたら、と考えるものまた面白いものだと思います。
実際の医療行為というのは映画や小説の現場のように劇的でドラマチックなばかりではなく、地道な調査や積み重ねた分析がものをいうことも多々あります。
もちろん命が関わる限り、決してそこにドラマが生まれないわけではなく、むしろそういった悲しい事故や事件があればそのぶん医療関係者の心は傷つき苦しむことになります。
よく、医療関係者が冷徹な反応で死に向合っている描写がありますが、それは慣れではなく訓練によって必死に感情を堪えている場合がほとんどです。
むしろそういったことに心が動かなくなるのであれば、それはオーバーワークであり、治療自体を行える環境とコンディションではなくなっている状況なのだと思います。
よく同業者と話す時に、たとえ創作であっても悲劇なものはあまり読めないし、見たくないね、と言う話になりますが、それは創作の世界でくらいどこを向いてもハッピーな世界を見ていたいと言う強い願いから来ているのだなと思います。
見ている世界にアンハッピーエンドが溢れているので、わざわざそこを増やす必要を感じないのです。
秋の夜長を過ぎて、冬の夜長ですが、読書に浸るのもいいなあと書きながら思いました。
できたらすこぶるハッピーなお話を読みたいですね。
2021-12-15
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