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動物たちのアレルギー治療
動物たちのアレルギー治療

桜の開花宣言も出てすっかり春へと季節が移りましたね。

入学式の花だったはずの桜、今はすっかり葉桜にかわられてしまった気がします。

桜咲いたら一年生だったんじゃないのか、と思いつつ寒さの和らぎに、丸まっていた背筋が伸びる気がします。

そろそろ夜桜見物に車を走らせる時期だなあと、冬とは異なる柔らかな日差しに目を細めていますが、そう穏やかな心持ちでいられない状況。

そう、花粉です。

今年の花粉飛散量が凄まじいのは連日のニュースでも放送されていますが、病院へいらっしゃる飼い主さんたちの中にも「今年花粉症デビューしてしまって」という方が多くいらっしゃるのをみても、今がどれだけ恐ろしい状況なのかを実感します。

そういう私自身、大人になってから発症した花粉症初心者に毛が生えた程度なのですが、薬の助けなしではいられないほど強く症状が出ています。

動物たちも同じで、今までアレルギー症状を起こしたことがなかった犬や猫たちが、初めての症状に苦しんで来院されています。

一昼夜にして額をかきむしり、出血させてかさぶたまで作ってしまった猫や、喘息症状が出てしまった犬、ひどい鼻炎による鼻出血を起こした猫、外耳炎なんて縁がなかったはずなのに両耳ともひどく腫らして来た犬、どれも3月にはいってからの短期間のことで、激しい症状を訴えるこことにおののきました。

今年は、まずい。

それを肌で感じた瞬間でした。

対して、元からアレルギーの薬を飲みつつコントロールしている患者さんたちは比較的落ちついていて、あまりひどくなっていないのが特徴的です。

やはり人と同じく、早い段階から投薬している場合はさほど悪化せずにコントロールできるようです。

とはいえ、いままでなかった症状なので、戸惑いながらいらっしゃる方がほとんど。

これはもう致し方ないことなので、早めにかかりつけを受診し、対処を始めてください。

一時的な投薬で済む場合もあれば、これをきっかけに毎年の恒例になる場合もありますが、今は皮膚科に関して非常にいい薬ができていて、かつてのステロイド漬けのような治療は基本ありませんので、ご安心ください。

hr

と思っていたのですが。

先日初めていらっしゃったトイプードルちゃんで、なかなかに悔しい思いをしたことがありました。

その子は炎症の匂いが漂うほどひどく、全身に湿疹が出ていました。脱毛と皮膚のほっ赤もあり、初めて来た緊張するはずの診察室でも自分で体をかくほど痛痒が出ています。

目の周り、口の周り、足の先に脇の下と鼠蹊部(足のつけ根)を中心としたかゆみ。

明らかにかなり強いアレルギー性皮膚炎の様相を呈しています。

最後のトリミングに行かれたのは三ヶ月ほど前とのことでしたが、おそらく基本的にはご自宅でシャンプーされているのでしょう。耳毛を抜くということを全くされておらず、耳毛が丸まった大きな毛玉になり、耳の穴は全く見えない状態。もちろん外耳炎で真っ赤になっています。これは結構衝撃の状況で、かなり長い間放置しなければ見られない症状です。

お聞きすると基本的に痒くなった時だけ、病院でお薬をもらっているとのことで、食事管理、投薬調整、薬浴や保湿などのアレルギー性皮膚炎に対しての総合的なアプローチは全くされていないそうです。

飲んでいる薬を拝見したところ、抗生剤とステロイドのみでした。

これをなんと頓服(定期的に服薬せず、症状が出た時にだけ使うこと)しているというので心の中でひっくり返りました。

気合を入れてアレルギー性皮膚炎とは、というところから一つ一つ説明していき、ステロイドの頓服の危険性についてもお話ししました。

そして今は同程度のかゆみを抑えるお薬があり、投薬の第一選択がそちらに中心になっていること、また抗体医薬や減感作療法など体に負担が少ない治療も有効であること、それでも治らない場合にステロイドを併用することもあり、ただし使う場合には頓服することは基本しませんとお話ししました。

そしてご自宅でのシャンプーの際は月に一度は耳毛を抜くこと、爪を切ること、足裏の毛を刈ること、もしできなければサロンや病院に委託することもお話ししました。

トイプードルやマルチーズなどの永久成長毛を持つ犬たちは、どうしてもそういった細々としたケアが必要で、これはトリミングに出されていれば基本してもらえるのですが、ご自宅でシャンプーされる場合はご自身で行うほかないのです。

ただジャンボどうぶつ病院のトリミングでは全て含まれていますが、トリミングサロンによってはオプションでつける必要があるようで、確認する必要があります。

例えばそれまでに飼っていた犬が、柴犬や秋田犬のような犬種であった場合、この耳毛や足裏の毛、爪が伸びてしまうことを知らない飼い主さんがいてもおかしくはないのです。

シャンプーだけしていれば良い犬種と、細かなケアが必要な犬種の特異性を把握しなくても、犬を飼うことはできてしまいます。

hr

こういう時、一般的なケアも生活の特徴も、そして病気もひっくるめた知識をきちんと伝える必要が動物病院にはあるな、と実感します。

どうぶつの病気のスペシャリストである獣医師ですが、今回のように耳毛が伸びっぱなしで毛玉になるレベルになれば、それがケアの範囲であっても外耳炎になるのですから。

またお薬に関しても、その特徴を説明し禁忌を理解してもらわなければ、糖尿病などの重篤な病気になってしまったり、耐性菌を発生させたりする元になるのだということも、きちんと伝えなければならないな、と感じました。

そしてお薬を選ぶ段階になったとき、飼い主さんが選択したのはステロイドと抗生剤でした。 今までこれで効いていたから、何よりステロイドの方が安いから、これでいいとのことでした。

そうでした。

我々の医療の前に立ち塞がるのは、使い方や副作用だけではないのです。

コストという切っても切れないものが、そこにあるのです。

獣医医療と人の医療の差
獣医医療と人の医療の差

先日、医師と獣医師の合同のセミナーを視聴したのですが、その中で「人は保険があるから医療に金額で制限はかからない、むしろする必要が本当にあるのか悩ましい治療も積極的に望まれる、そのせいでやめ時を見失って大変な事態になる」というのをお聞きして目玉が飛び出そうになったものです。

対して獣医師側の悩みのトップにはコストに関してが挙げられていて、ああ、ここに人の医療との大きな違いがあるな、とまざまざと感じました。

獣医医療は人の医療の中で小児科に似ていると言われます。

体が小さいから、というだけではなく、病の当事者が症状を説明できず、治療決定の意思を持たないからです。

そのため聞き取り能力や説明能力は常に求められ、声にならない声を聞く集中と情熱が求められます。

けれども純粋な医療とそれを取り巻くことは似るのでしょうが、コストによって選択する治療が限られることは少ないだろうな、と切なくなりました。

今でこそどうぶつたちの保険加入も増えてきましたが、それでも半数には及ばないでしょう。

動物たちを取り巻く医療レベルは年々上がりますが、それにおいついた医療環境には程遠いのが現状です。

hr

久々に第一選択薬にステロイドを出しながら、自分の無力さ加減に腹がたち、しばらく忸怩たる思いで眠れませんでした。

全力で後悔のない治療をするというポリシーに反する結果に、まだまだ未熟だなあと苦い思いを噛み締めた春でした。

2023-03-17

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