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こんな症状にはご注意を
こんな症状にはご注意を

急速に寒くなったかと思えば妙に温かい日がきたり、それでも街いく人たちがコートを身に着けるようになったのをみれば、冬になってきているのだなあと、感じます。

それ以外にも猫ちゃん達におしっこの病気が急激に増えてきているので、これもまた冬ならではです。

  • 尿に血が混じっている。
  • トイレに入っている時間が長い。
  • トイレに行く回数が多い。
  • おしっこがぽたぽたと少ししか出ない。
  • 排尿姿勢で辛そうな泣き声を上げる。
  • 尿が妙にくさい。
  • お尻周りの毛が変に濡れている。

このような症状のときはできるだけ早く、病院へいらして下さい。

尿道が、結石などでつまって、尿が全く出なくなってしまう状態を、尿が閉じると書いて尿閉といいますが、この状態が丸二日続けば急速で重篤な腎不全が起こり、死んでしまうからです。

便が一週間出なくても死んでしまうようなことはありませんが、尿が出ない状態はアンモニアなどの絶対に体の外に排出しなければならない老廃物が体の中に蓄積され、体を構築する細胞に障害を与えます。どのくらい尿が出なかったのか、という時間がイコール、障害される時間になりますので、様子を見ていると助からないことがままあります。

状態によっては入院が必要になる場合もありますので、おかしいな?と思ったら様子を見ずに連れてきて頂きたい病気です。幸い、尿などの変化は飼い主さんが気がつきやすく、目に留まりやすい変化です。あれ?おかしいな?と思ったら例えそれが些細な変化であっても、すぐに来院されることをお勧めします。

子宮蓄膿症とは?
子宮蓄膿症とは?

また変化に気がつきづらい病気として、子宮蓄膿症(パイオメトラ)についてお伝えしておきたいと思います。

子宮蓄膿症は不妊手術によって卵巣を摘出していない未避妊の犬、猫両方に起きる病気です。 発情出血のあと一ヶ月程度が好発時期になりますが、この病気を起こす子は発情周期が不明瞭、または不整であることも多いので参考程度でしょうか。

  • 5~7歳以上に多発
  • 赤ちゃんを産んだことがない個体、または長く繁殖を行っていない個体に発生が多い。
  • プロジェステロンなどが関与した内分泌ホルモンの不均衡により、子宮内への細菌感染(おもに大腸菌)がおこり発生する。

子宮蓄膿症は、すいぶん昔から広く知られ、たいへん多く発生しているとても有名な病気です。

現在、予防としては避妊手術が最も効果的と言われています。それはそうですね、原因となるホルモンを分泌している卵巣と、病気が起こる子宮自体を取り出すのですから。

また何らかの事情で手術自体ができない場合、他の方法で予防対策をとることもできますが絶対的ではなく、現時点で最も有効な予防法が残念ながら外科手術になります。

初期症状として、

  • 食欲不振
  • 多飲多尿
  • 嘔吐(飲水直後に多い)

程度の症状しか出ません。
病期が進むと、

  • 食欲廃絶
  • 繰り返す嘔吐
  • 下痢が見られることもある
  • 拡大した子宮により、腹部の膨満・下垂
  • 外陰部の腫大
    ※ただし、ホルモン不均衡による異常発情などにより、元々大きい子もいるので当てになりません
  • 陰部からの排膿

尿とは違う何かがペットシーツやタオルなどにつく場合があります。これは【開放型子宮蓄膿症】といってとても幸運な場合で、子宮にたまってパンパンになった膿が、子宮口から漏れでてくる状態です。

残念ながら【閉鎖型子宮蓄膿症】の場合は排膿は見られません。そしてこちらの方がよりシビアな結果になります。

ちなみに「病期が進むと」と書いてあるので末期になるまで漠然と「二週間から一ヶ月くらいかなあ」と思われた方、実はこの末期になるまで早くて一週間、長くても十日から二週間です。二週間経っている場合、既に手遅れになっている場合がほとんどです。その時点では子宮に溜まっている大量の膿から分泌される、菌の毒素が全身にまわって多臓器不全の状態に陥り、手術がしたくても麻酔をかけたら死んでしまう状況になっていることが多く、後もう少し早ければ……と切なく思うことが多くあります。

進行が非常に早い病気ですす
進行が非常に早い病気ですす

子宮蓄膿症を発症した場合、それを発見して手術にまでたどり着くまでの時間が早ければ早いほど、命が助かる確率は上がります。

けれど上に記したように、初期症状はあまり特徴がなく、特段他の病気の初期症状と大差がありません。

排膿などが見られなければ、とくに「なんだか調子が悪そうだけど、急にどうしたんだろう?」と思う位で、病院へ連れて行こうと思うこともないかもしれません。

結果的に末期になり、全く食事を食べなくなった、嘔吐がとまらない、ぐったりして動かない、という状態に進んでから、慌てて病院に駆け込むケースがほとんどです。

この状態になると明らかに様子がおかしいので、問診の段階で「あれ、未避妊?歳は、中高齢、まさか…」となり、「念のため腹部のエコーさせて下さい」といって確認すると膨らんで拡大した子宮が映り確定診断に至るケースや、スクリーニングの血液検査により、白血球の異常な上昇や急性炎症のマーカーの上昇が見られ、「まさか!」となってやっぱり超音波検査になったりします。ちなみに末期も末期になると白血球も足りなくなり、上昇どころか低下を起こしていたり、貧血が起きていたりします。また体温が低下し、意識障害が見られる場合もあります。

ですが全ての子に「ではすぐに手術しましょう!」という訳に行かないのです。この血液検査の段階で肝不全、腎不全、貧血、黄疸など深刻な多臓器不全が見られれば、手術がしたくてもできません。麻酔から覚めることができないような状態で手術を行うことはできないからです。

子宮蓄膿症は致死率が高い病気です。それは症状が明らかではなく見つけづらいこと、始まってから悪化するまでが非常に早いこと、突発的におこり予測ができないこと、が大きく関与していると思います。 それがこの病気で死んでしまう子を、なかなか減らすことができない悲しい現状を生んでいるのでしょう。

初期での発見は困難でも、確実な予防法はあります
初期での発見は困難でも、確実な予防法はあります

子宮蓄膿症は予防しなければならない病気だと思います。 この病気がいったいどういうものなのかを正しく知り、きちんと対策をするべきです。

ワールドコモンセンスという考え方があり、世界の獣医師が共通で持つ考え方という意味なのですが、現在の獣医医療では避妊去勢手術をすることが、動物達の寿命を延ばす有効な手段だと言うことは明確です。

クラシカルな考え方では、経産では子宮蓄膿症になりにくい、や大型犬はなりにくい、と言ったこともいわれていましたが、それはなりにくいだけでならない訳ではありません。いつ、どんなタイミングで自分の飼っている子がこの病気になるのか、誰にもわからないのです。

もし、なってしまった時のことを、少し想像してみて下さい。 毎日のいそがしい日常の中で、飼っているわんちゃん、猫ちゃんがなんとなく食事を残してなんとなく元気がない。でも散歩には行くしおやつも喜んで食べる。

「どうしたのかな?でもまあ元気だしいいよね」と様子を数日見ていたら、見る間にぐったりして吐くようになり、ご飯も全く食べなくなってしまった。 なんとか仕事や家事を切り上げ、動物病院へ連れて行くと、そこで検査をいくつかされ厳しい顔をした獣医師から「子宮蓄膿症です、緊急で手術が必要です。ただ状態が悪いので助かるかどうか……」といわれる。

「避妊をしていればこんなことには……」「なぜ早くに、若いうちにしておかなかったんだろう」「私たちの責任だ」と思わないでいられるでしょうか?

上に上げた三つの台詞は、ほぼ確実に子宮蓄膿症になった動物の飼い主さんから私たちが言われる言葉です。

なかには、「これが天命だと思っています、避妊手術をしないと決めたときから、こういったことがあっても後悔はしないと決めていました」とおっしゃる飼い主さんもいらっしゃいます。しないと決めた時点で覚悟をしっかりと決めている方です。その意思は尊重すべきだと思います。

でもほとんどの方は「なんとなくいそがしくて、しなかったんです」「するきっかけがなくて……」「前に飼っていた子はしていなかったけれど、ぜんぜん平気だったので」「元気な子にメスを入れるのに抵抗があって」というぼんやりとした理由なので、当然病気への備えや心構えはありません。ですから実際に病気になってしまうと非常に苦しまれ、ご家族全員が自らを責め、とても苦しい思いをされます。

避妊去勢手術のリスクとメリットを勘案して
避妊去勢手術のリスクとメリットを勘案して

避妊去勢手術は、非常にリスクが高い手術だと、私は考えています。

なぜか。

それは技術的なことではなく、健康で全く問題がない体に麻酔をかけ、メスを入れるものだからです。

例えば腫瘍のように、取り除かねば死んでしまう、という病気は分かりやすく、飼い主さんにもリスクも理解して頂きやすいものです。けれど健康な動物を手術し健康なまま問題なく無事に返すという手術は、当然元気で帰ってくるものだという意識が高く、異常が出るなんてこれっっぽちも飼い主さんは思っていません。ですから非常に難易度が高いと言わざる得ません。

大抵は麻酔をかけるのも初めてですから、麻酔によって何が起こるのかも分かりません。見た目は元気な子だったのに、実は内臓の疾患が隠れていて、麻酔をかけたら何かの障害が残った、ということだって起こりうる訳です。恐ろしい手術だなあと、いま書いていてもぞっとします。毎回事前に麻酔リスクを評価し、慎重に慎重に手術を行っていてもそれでもきっちり目が覚めるまで、抜糸ができるまで、気が抜けないのです。

こんな手術を、好んでしている獣医師はいません。 それでも、子宮蓄膿症や乳腺腫瘍や、会陰ヘルニアやそのほかの病気のリスクが、将来にわたってこの子に及ぼす影響を考えたら、やりたくなくても他に選択肢がないのでやらざるを得ないのです。

もしもこういった生殖器にまつわる病気を確実に予防する安全な薬が、フィラリアの予防薬のようにできたら、多くの獣医師がそちらを喜んで選択するでしょう。そういった薬ができて欲しいと願わざるを得ません。

「不妊手術すると儲かるから獣医師の利益のために、手術をすすめているんですよね?」という意見を聞いた時には、苦笑いがこみ上げてしまいました。

獣医師側と飼い主さん側には、まだまだ埋めなければいけない認識の違いが多くあるようです。

その差を切なく思うことは多いのですが、それでもその差を少しでも埋めるために、努力していきたいと思っています。

2017-11-30

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