院長のコラム

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術前検査って何?
術前検査って何?

秋の気配も深くなり、町に吹く風にも冷たさが増していますね。
短頭種の子達や毛の長い犬種の子達にとっては、大分過ごしやすくなり、お散歩の時間も増えてきました。

体重が増えてしまった子は、この機会に是非ダイエットを始めて下さいね。
食欲が増す秋は、新しいダイエット用の食事に切り替えるのも容易に行えるタイミングです。 冬になってしまうと寒さや日の短さから外に出る機会も減り、同時に脂肪を溜め込むサイクルに身体もシフトしてしまうので。

ダイエットへの近道は、何といってもおやつを止めることです。
おやつを食べていないのであれば、今一度食べている食事のグラム数をはかってみてください。
コップ半分、など目分量では案外日によってグラムが変動している事が多いので、台所用のはかりを使って計測するのが一番です。

また人間のレコーディングダイエットのように、一日でその子が食べる品目を量ととも書き出してみてもいいかもしれません。 実はお父さんがおやつを上げていた、とか食事の時にいつも人の食べ物をあげている、散歩で他の方から頂く、など色々な摂食機会があったりします。

術前検査とは
術前検査とは

さて、今回は分かりにくい検査のお話。
以前も一度取り上げましたが、今回は麻酔前検査について。

ジャンボどうぶつ病院では、全身麻酔をかける前にはその子がそんな歳で状況であれ、必ず血液検査を行います。
それにプラスして年齢が7歳をこえる場合は、胸のレントゲン検査を、また血液検査に異常があれば腹部の超音波検査や心電図の測定など必要とされる検査を組み合わせて行います。 これを総合的に術前検査、とよんでいます。

術前検査には、他に視診を用いた検診と、聴診、触診等が含まれています。 要するに、手術そなえ、麻酔がかけられるか、手術に耐えられるのか、を判断するため、また腫瘍などの摘出などでは転移の確認のためにもこういった検査が必要になるのです。

これは若い個体であっても必要な検査です。
なぜなら全頭に行う血液検査でさえ、全身の30%の情報しかもたらさないからです。

血液検査で異常がでた、という事はたったそれだけの範囲で既に異常がある、という事なのです。 見た目がどんなに健康で、元気であっても、麻酔をかけた途端不整脈を起こし亡くなったり、手術中に心臓が止まったケース、血圧が落ちて呼吸が出来なくなった症例など沢山見てきました。
麻酔という物は、また手術という物は本来何が起きてもおかしくない事であり、日常ではないのだと、痛切に感じさせられます。

しかし術前検査は人間であれば当たり前の事ですが、動物の場合は任意になっています。

術前検査にまつわるエトセトラ
術前検査にまつわるエトセトラ

以前、こんな事がありました。

その子は一歳にならない若いメス猫で、発情期に入る前に手術をして欲しいという希望でした。実際猫の発情期の声は凄まじい物がありますから、そのご希望は当然でしょう。
手術をすることになり、リスク、麻酔リスクなどを説明したうえ、術前検査の必要性をお話ししました。

すると、「うちは貰ってくる時に検査は全部してもらってます。だから検査はいらないと思うんですが」 この子は保護猫で、そういった団体の方から手続きをとって引き取られたのだそうです。

良くお話をお聞きすると、ここで飼い主さんがおっしゃっている検査とは、猫の感染症である猫白血病や猫エイズの検査であり、全身状態の評価のための全血球検査や、生化学検査ではありませんでした。

「して頂いている検査は、感染症などのチェックのようですから、別に術前検査をした方が良いですね」
「えっ?検査しているのに、まだするんですか?」

飼い主さんは不可思議だという表情をされていました。

「手術の前には麻酔がかけられるか、手術ができるかの検査が必要なんですよ。 データはありませんが、この子がもし同じ内容の検査を行っているとしても、おうちに来てから既に一ヶ月以上が経っているので、手術前の検査データとしては時間がたち過ぎているんですね。 術前検査は手術の二週間前までのデータしか使う事が出来ません。必要なのは現在のその子の状況を判断する情報だからです」

飼い主さんは何となく納得されていない顔をされていました。

「検査の分余計にお金がかかりますよね」
「また血を採る必要があるんですか」
「引き取る時に検査は全部済んでいるっていわれたのに」
「手術費用だって高額なのに」
「ネットで見たらそういう検査をしない病院もありますよね」

こういった疑問はどれももっともな物です。

こういう場合、「検査」の意味が獣医師と飼い主さんで食い違ってしまうのです。 術前検査、という言葉は我々は普通に使う言葉なのですが、病理検査や遺伝子検査血液検査やレントゲン検査といった個別の検査とは違って、「手術直前の全身状態を把握するための検査」を総称する言葉です。

普段の生活で使わない言葉は、やはり理解して頂くのが難しいのだなあと、反省させられます。 医学用語をあまり使わないように普段から気をつけてはいるのですが、言葉というのは本当に難しいですね。
また前述した通り、これは任意の検査で、法的に必ずしなければいけないといったものではありません。

それでも私が術前検査にこだわるのは、大学病院で研修医として勤務していた際、術前検査で危険を回避する事が出来た現場に居合わせたり、逆にしていても助けられなかったり、多くの症例を見るなかで、 せめて血液検査をしないと想像を超えた最悪の結果が起こりうる、という恐怖を知っているからです。

手術費用に関しては何ともいえませんが、過去に勤務していたいくつかの病院と比べても特別高くもなく安くもない水準です。 スタッフの数、使用する麻酔の種類と数、使用する糸、消毒方法やその回数、機具の滅菌の仕方、ドレープに何を使うか、などは獣医師によって異なり、 同じ術式の手術でもそういった背景が異なればかかるコストも変わります。 費用に関して高い安いという議論はそれぞれの価値観や、主観によるところが大きいのではないでしょうか。

この飼い主さんには、もう一度術前検査という物の必要性を説明し納得して頂いたうえで、別の日に検査と手術を行いました。 幸いな事に、検査結果に異常がなかった猫は、麻酔も手術も問題がなく、無事に目が覚めて元気に退院していきました。 けれどどこか、やっぱり必要な検査じゃなかったんでは?といった気持ちが飼い主さんから伝わってきて、難しいものだなと思いました。

無事に目が覚めて、元気に帰ることが出来るのは当たり前では無く、そうであるように細心の用心と努力をしてこそ出来る物です。

とはいえ、なかなかそう理解して頂く事は難しく、避妊去勢手術に関してはこの傾向が特に強いと感じます。 以前もコラムに書きましたが、健康な身体にメスを入れ、健康なままお返しする手術は、技術的な問題とは別に非常に難易度の高い手術だと思っています。
そういった獣医師としての意識は、残念ながら飼い主さんには伝わりにくい物です。それでも諦める事なくお伝えする努力をしていきたいと思います。

ネットの情報は玉石混淆
ネットの情報は玉石混淆

もう一点。

これは皆さんが日頃感じている事と同じかもしれませんが、情報化社会である現代は、正しい知識も間違った知識もまるでごっちゃにネット上に溢れています。 中にはダイアモンドの様な素晴らしい情報もありますが、それが玉なのか石なのかは、調べる側の基本知識と判断力に任せられている、シビアな世界でもあります。

そういった意味で、本や新聞の様な形で発行された物のように、ここに出ていた情報だから間違いない、など情報元の責任を求める事が、ネットでは出来ません。 ブログ、口コミ、コラム、こういった物は専門家の監修や編集が行われているケースはほとんど無く、あくまで個人の意見です。 だからこそ貴重で重要な情報もありますが、内容についての責任を追求することは事実上できません。

また、一度ネットに出た情報は書いた本人の意図によらず拡散され、あちこちで人の目に触れる事になります。それが正しくても、勘違いでも、間違っていても。便利な社会ですが、恐ろしい社会でもあるなあと思います。

もちろん良い事も沢山あります。
病院で良く見ていただく動画や画像はインターネットにあがっている物です。マダニやフィラリなどの画像は何よりインパクトがありますし、一目瞭然という言葉通り、動画を見て頂いて病気の診断に至ったケースも少なくありません。 ただその動画があがっている名前通りでない事も多くあるので、使い方は気をつけなくてはなりません。

便利な機会やシステムを作り出すのは人であり、それを使いこなすのもまた人です。

どんな精度の正確な検査機械があっても、それを解釈する人間が足りなければ正しい結果を導く事は出来ません。
「すばらしい画像診断の機械があっても、それを読影できる人間がいなければ宝の持ち腐れなんだ」
お世話になった画像診断の先生が仰っていた事は、画像診断に限らず、何か物事を調べる立場になった時、全てにあてはまるのだと、今改めてその言葉を噛みしめています。

2015-10-15

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